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支持率が低いわんこ

私はお兄様に抱えられたノア様に駆け寄り、ハンカチで彼の口元についた血を拭う。


「ノア様……!」


呼吸が浅く、今にも消えてしまいそうなくらい弱っていた。


「ノア!しっかりしろ!」


お兄様が叫ぶと、彼はうっすらと目を開けた。表情は虚ろで、すでに目は見えていないように思える。


「困らせてしまいましたね……申し訳ないことをしました」


靄が抜けきったその人は、私のよく知っている優しいノア様だった。ポタポタと手の甲に落ちる雫で、私は自分が泣いていることに気づく。


「ノア様……どうして」


こうなる前に、何かできなかったのか。今頃になって後悔が押し寄せる。

でも、涙に濡れる私とは反対に、ノア様はふっと穏やかな笑みを浮かべた。


「どうしてもあなたが欲しかった……!イーサンとヴィアラ様は、私の父の悪評を知りながら親しくしてくれた稀有な存在でしたから」


昔から、さぞ蔑まれてきただろう。

愛人の子で、父親は奴隷の売買をするような男で。生きることが、とても息苦しかったに違いない。


私は泣きながらノア様の手を両手で握る。


「ヴィアラ様の『会えて嬉しい』という社交辞令を真に受けるほど、私は自分に向けられる無垢な好意に飢えていたんですよ。思いを告げる勇気もないのに手に入らないことだけを嘆いて、私が愚かでした」


「ノア様、私は」


思わず「ごめんなさい」と口から出そうになったところで、握った手を強く握り返された。


「謝らないでください。私は事実、ヴィアラ様と一緒に死ねたらと……願ってしまった」


目を閉じたまま柔らかな笑みを浮かべるノア様。その顔はとても安らかだった。


「ただ一緒にいてもらいたかったのです。呪いに中てられ我を失ったとはいえ、私の身勝手であなたを傷つけてしまうところでした。シドさんに、今だけは感謝します。……嫌いですが」


「え?」


聞き間違いかな?そう思って耳を傾けようとすると、お兄様までが同調した。


「さすが親友。気が合うな。私もシドのことは最近嫌いだ」


「お兄様!?」


それってシドが私を連れてニースに行くって勝手に動いたからですよね!?

呆れて二人を見比べていると、背後からシドの声が聞こえてきた。


「おおおおおい!?人ががんばって神具の呪いを抑えてんのに、そんな言い草はないですよね~!?」


あぁ、気づかなかったけれど、黒い靄がこっちに押し寄せてくるのをシドが必死で抑えてくれている。私たちが話している間ずっと、彼は両手を前に翳して魔法の盾を築き、靄を防いでくれていた。


「お兄様!シドを手伝って!」


「ヴィアラの頼みとあらば仕方がない」


ノア様をそっと床に寝かせたお兄様は、シドの隣に立って靄を分解するのを手伝い始める。

簡単に消し去っているように見えるけれど、実はかなり負担がかかっているらしくシドは額に汗が滲んでいた。


「やっぱ、神官じゃないとキツイですね」


ぼそっと呟くシドに、お兄様は鼻で笑う。


「神官が呪われたんだから仕方ないだろう」


あぁ、私には何もできないことが歯がゆい。

しかもまたノア様が苦しみ始め、彼は私の手を振り払った。


「ノア様!?」


「離れ、て……!このままでは道連れにしてしまいます、ごふっ……!」


道連れって何!?

吐血するノア様の背をさすろうとするが、彼の身体から黒い靄が湧き上がるのが見えた。


「きゃあああ!」


私とノア様の周りを、真黒な靄が包み込む。それは繭のように二人を包み、あっという間に何も見えなくなってしまった。



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