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起きたら爽やかな朝でした

ピチピチと鳥たちの鳴き声がする。

ハープやフルート、オルガンの美しい音色が意識に届き、私はうっすらと目を開けた。


爽やかな……、爽やかすぎる朝だ。

ありえない。


嫌な予感がして音の鳴る方を見ると、そこには顔色が悪くやつれているお兄様(ただし儚げな感じが増してなぜか男前に磨きがかかっている)と、楽器を手に演奏する屈強な男たちがいた。


私は咳払いをして、かすかすの喉から声を振り絞る。


「なんなんですか……!?」


朝の演出をこれほど盛大にされる覚えはない。


私が声をかけると、お兄様はカッと目を見開き、若い衆は演奏をやめて楽器を落とした。


「ヴィアラァァァ!!」


「「「お嬢ぉぉぉ!!」」」


お兄様に抱きつかれて、あの世に逝きかける私。主治医のビビアン女医が止めてくれて、ようやく平穏が訪れた。


「ヴィアラ様、お目覚めになってよかったわ~。シドちゃんったら、回復魔法をブレンドした睡眠魔法なんていつのまに作ったのかしらん」


ビビアン女医は、セクシーすぎる黒いタイトなドレスを纏った身体をくねらせて、にっこり微笑む。


「はっ!?シド!!」


私は慌てて周囲を見回すが、やはりここはマーカス公爵領で私の部屋。

シドはいない。


「うん、元気そうね~。シドちゃんがヴィアラ様にかけた魔法が強力で、二晩も眠り続けていたのよ」


「二晩も!?」


転移魔法でここに飛ばされてきて、そのまま眠ってしまったんだ。


「お兄様、シドは!?」


興奮してお兄様の胸ぐらを締め上げる。


「はぐぅっ!シドはっ……王都へ……」


「王都!?ローゼリアの城へ行ったのですね!?」


私はお兄様からパッと手を離す。


「ゴホッ……!あ、あぁ、そうだ。シドはおとといの朝に船でローゼリアへ戻ってきて、それからは王城にいる。船に乗った直後に通信で会話したから間違いない」


「話したんですか!?」


船に乗るときは、拘束されなかったんだ。もしかして、グラート様は単身でシドと私を連れ戻しに来た……?


お兄様によると、今はもう城に上がっているので通信はできないという。


「グラート様は、陛下と王妃様の様子がおかしいと……一体、城で何が起こっているんです?」


今すぐにでもシドを迎えに行きたい。

待っていて、と言われたけれどおとなしく待ってるなんてできるわけがなかった。


「ヴィアラは心配しなくていい。シドを信じて待っていなさい。マーカス公爵家としても、あちこちに手を回してある」


さっきまでの頼りなさはどこかに消え、きっぱりと言い切った兄は真剣な表情で、すでに当主の顔だった。


どうやら私には何も教えないつもりらしい。


「シドに何か言われたの?私には黙ってろって?」


険しい顔になる私を見て、お兄様は哀しそうに笑った。


「惚れた女を守るためなら、何だってできる。男はそういうものだ。だからヴィアラは何も考えずに待っていればいい」


ポンと肩に手を置かれると、無性に腹が立った。


「知った風に言わないでくれます?お兄様が誰に惚れたことがあるというのです。へそで茶どころか、ロイヤルミルクティが沸きそうです」


「お兄様だって恋の二つや三つ、四捨五入すれば100くらいしているさ」


「ものすごくフラれてますけど」


初恋もまだのくせに何を言ってるんだ。

後ろに立っている男衆も全員そんな顔をしている。


「「「イーサン様、お労しい……」」」


「おまえらには言われたくない」


お兄様は若き当主だしお金もあるし、容姿も申し分なくとてもとてもモテる男だけれど、残念ながらヘタレなので女性と話せない。


私たちの視線に耐えかねたお兄様は、コホンと咳払いをして話題を変えた。


「とにかく!私にもやることがたくさんあるから、今から雑務に戻る!ヴィアラはゆっくり身体を休めること。旅をしてきて疲れが溜まっているだろう?」


シドに置いていかれてイライラは溜まっているけれど、疲れはそれほどない。

回復魔法ブレンドの睡眠魔法の効果もあって、元気いっぱいである。


ただし二晩も眠っていたので、身体がバキバキに凝り固まっていた。


「わかりました。いったん食事をして、英気を養います」


おとなしくするとは限りませんけれどね。


「愛してるよ、かわいいヴィー」


私の頭をわしわしと撫でたお兄様は、ビビアン女医に一言よろしくと告げて部屋を出て行った。


「……イーサン様ったら、私ならいつでもお相手して差し上げるのにぃ。ふふっ」


そう言って色気を振りまくビビアン女医は、亡きお母様の同級生で確か43歳のはず。

だいたいセクシー女医なんてそんなエロ最高峰みたいな人に、お兄様ががんばって恋できるわけがない。それに、妹としては健全で明るい初恋をしてもらいたい。


半眼で呆れていると、ビビアン女医が私の方を振り向いて妖艶な笑みを浮かべた。


「さ、ヴィアラ様。もりもり美味しいものを食べましょうね!」


「ですね」


シドのことだから、ただ王都へ人質になるために行ったとは思えない。きっとあれこれ企んでいるに違いない。


私はとにかく身体を万全にして、今後のために備えなくては。

ベッドから起きると若い衆を追い出し、すぐに侍女に着替えを持ってきてもらって平常モードに切り替えた。





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