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詫び石よ、さらば

二日後、私たちが教会の前で見張っていると、黒い神官服の若い男がやってきた。


ノア様や教会本部の人間は白やクリーム色などの薄いカラーの衣装を着ているけれど、黒は支部の関係者や末端の教会員の色だ。


窓から中の様子を覗くと、その男はおじいちゃんの神官から白い宝石を受け取っていた。

私たちが寄付したものだ。


「あの男も神官なのよね?」


隣で教会の中を覗いているシドに問うと、「う~ん」と悩む声が上がる。


「聖属性魔法を感じません。それに歩き方が違う」


「歩き方?」


「神官はわかりやすくいうと戦闘職ではないので筋力がなく、一般人と同じような体格です。でもあの男は訓練された歩き方というか……」


「役人か軍人ってこと?」


「おそらくは」


私たちは男が出て行くと、その後をつけた。

確かにシドの言う通り、周囲を警戒して歩く姿や均整の取れた筋肉の付き方、頭の位置がぶれない歩き方は一般の人ではないように見える。


しばらく尾行すると、男は食堂で昼食を摂った後、街外れの宿屋に預けていた大きな馬に跨ってこのソレアルの街を出た。


「あれって、軍馬よね。神官があんな大きな馬には乗れないわ」


「はい。それにあの鞍の形はローゼリアのです」


男が乗っていった馬は、私たちが連れてきた馬のリトよりも一回り大きかった。


その鞍は全体が革でできていて、お尻がつく部分のカーブが深くなっている。ローゼリアは山や丘の多い地形だから、鞍の後ろが高くなっていた方が体を支えやすいからこの形であることが多い。


でもファンブルでよく見る鞍は、全体的に馬の背にフィットしたペタッとなだらかなタイプなのだ。


「教会と軍が繋がっているってこと?」


「そうだと思います。二国間の移動は、神官であれば警戒されませんからね」


シドはそう言うと私の手を引き、自分たちの宿へと戻っていく。


「追わないの?」


「はい。追っても利がありません。あの宝石を手放したことで、奴らはもう俺たちの居場所を正確に判断できませんから、今のうちにこの街を出ましょう」


私が頷くと、シドはちらりとこちらを横目に見て安心させるように笑った。


「さて、ニースに行くのは最終目的として……今からリサーナ夫人のところへ行きましょう。ヴィー様を連れてこいって怒ってらっしゃったので」


シドは先日、ディミトリ様の想い人であるカリナーレ様を私の叔母様のもとへ避難させた。その際に私を連れてこいと言われたらしい。


「俺がノアだったとして、ヴィー様はここで宝石を手放してファンブルにいると見せかけ、マーカス公爵領へ海路で逃げると思うでしょう。だからリサーナ夫人のところに寄り道しても、追っ手がすぐに来ることはないと思います」


「あら、それなら安心ね!叔母様に会いたかったからうれしい」


叔母様は、夫であるハルマン侯爵と暮らしている。

二人の息子は寄宿学校に入っているから、休暇にしか邸に戻ってこない。


長男は十七歳、次男は十五歳で、二人ともハルマン侯爵にそっくりのインテリ文官タイプだと叔母様が言っていた。


「きっと、まだかまだかと楽しみに待っていらっしゃいますよ」


よほど催促されたんだろう、シドの笑顔が苦い。

私たちは宿に着くと少ない荷物をまとめ、すぐにこの街を出た。



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