束の間の平穏
ソレアルの街は、とても静かで平和だった。中流層が多いため貧富の差があまりなく、人々の気質も穏やからしい。
ドレスは目立つので、食堂の従業員に頼み込んで部屋を借り、着替えをしてから外に出た。
宿で部屋を取るとすぐさま教会へ行き、例の詫び石を寄付する。
「このような高価なものを、よろしいのですか?」
人の良さそうな神官さんは何度も確認してきた。
「はい、もう必要のないものですから」
シドは紫のブローチを隠し、旅人のふりをしている。教会と魔導士の仲は良くないので、身バレ厳禁である。
くっ……!やはりメガネか。
私の乙女心がきゅんきゅんして、トキメキが突き刺さりすぎて穴だらけになった。
「怖い。メガネ怖い」
「ヴィー様、それは何の恐怖症ですか?」
いっそ、目つきメガネにしてくれたらいいのに。私がドキドキしないように、カッコ悪い目を描いておいて欲しい。
ああ、視界にシドが入らないように手で顔を覆うけれど、どうにも指が開いてしまって自然に隙間から見える。
不審者すぎる私は、体調でも悪いのかとシドに心配されてしまった。
教会を出て、私たちはすぐに宿へと引き返す。
「あれで、何か釣れるかしら」
そう呟くと、シドが前を向いたまま言った。
「おそらく。教会は一定額以上の資産や物品を寄付された場合、必ず本部へ連絡を入れることになっています。情報が共有されるまでに二日ほどかかるでしょうが、俺たちの後を追っている密偵がいるなら、必ず事実確認に姿を現わすでしょう」
さっき宝石を預けた神官さんは、とても人の良さそうなおじいちゃんだったし、横領することは多分ない。
シドの言ったように、宝石を寄付されたと本部へ連絡するだろう。
「さて、今日はゆっくりしましょうか。砦で囚われていてお疲れでしょう?」
メガネを外して内ポケットに入れた彼は、私の手を引いて歩き出す。
私より、砦にいたときも王都に行ったりなんだかんだで駆け回っていたシドの方が疲労しているのでは……。
じぃっと横顔を見ていると、まだ何も聞いていないのに「大丈夫ですよ」と返ってきた。
宿への帰り道。まだ問題は山積みで何も解決できていないけれど、こうして二人で並んで歩けることが何よりうれしく感じられた。