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こんな私ですが好きな人がいます

「ほら、そんなに泣いたら目が腫れますよ~」


護衛の魔導士であるシドは、私の語る前世の話を悪い夢だと言っていつも笑ってくれる。

泣き崩れる私の肩に手を置き、優しく慰めてくれた。


「お嬢、俺がお守りしますからご心配なく。夢なんて、しょせんは夢ですよ」


前世の記憶のことは夢だと思っているけれど、まったく信じていないわけでもなくて、私の悩みを相談できる唯一の相手である。


シドはさらりとした黒髪で紅い目の美男子。私より三つ年上の19歳。

私を溺愛するお父様が連れてきた、ローゼリア王国最強と呼び声高い魔導士である。


グレーのローブで隠してはいるけれど、筋肉質なのに細身なスタイルは私の好みだ。


身長は優に180センチを超えていて、黒の下衣を纏った長い脚、すらりと伸びた腕、右耳に光る赤いピアス……

小説のキャラではないのにとてつもなくかっこいい。


シドを護衛にしてくれたこと、今は亡きお父様に感謝してもしきれない。


「お嬢、未来視の力があるなら、それを変えることはできますって」


「ううっ……!まだ間に合う?」


「はい」


優しい笑顔で頷くシド。

決して私の話をバカにせず、検討した上で自分が守ると言ってくれるのがうれしすぎる。


もしも自分が転生する前に悪役令嬢になることを知ったなら「すぐに逃げればいいじゃん!」と言ったと思う。


でもできなかったのだ。

前世の記憶をはっきり思い出したのは10歳頃で、そのときにはすでに婚約してしまっていた。


それに、娘を愛する父、いい匂いがする優しい母がいた。12歳のときに二人とも事故で死んじゃったけれど……。


今も、美しく聡明でちょっぴり気弱な兄がいてくれる。


私はこの家族を捨てて逃げることはできなかったし、逃げて彼らに迷惑がかかることも嫌だったし……身動きができぬまま今日まで来てしまった。


だからこそ、ヒロインに王子を押し付け……じゃなかった、素敵なロマンスをお願いするつもりだったのに。


「信じられない……!」


国立ローゼリア学園は、貴族子女ならまず通う場所。結婚したり、病に臥せっていない限りは貧乏でも奨学金を借りて通う。


そうしなければ、よい縁談や仕事にありつけないから。


「ククリカ・ラリー男爵令嬢はどこに行ったの?入学してくれないと困るのよ!」


サロンで嘆く私。隣にしゃがみこんだシドは、名簿を見ながら優しく言った。


「お嬢、入学してないってことはやはりお嬢の未来視が間違ってたってことではないですか?または、お嬢ががんばったから未来が変わったのでは」


「私が、がんばったから?」


「ええ」


見上げると、いつものように笑ってくれる。その笑みにキュンとなるけれど、でもときめいている場合じゃない。


「私ががんばったのは、家を没落させないことと座学、それに魔法の訓練だけよ。ククリカ・ラリー男爵令嬢には接触できていないわ」


彼女の名前を思い出したのは最近のことで、ヒロインのことを考えるとずっと頭にモヤがかかったみたいだった。


まさか、思い出した途端にヒロインが行方不明なんて想像もしなかった。


「やっぱりここは小説の世界じゃないの……?」


悩む私に、シドが助け舟を出してくれた。


「そのククリカ・ラリー男爵令嬢は、密偵に探すように指示しておきます。お嬢は明日の入学式のことを考えてください。きっと、制服がよく似合うはずだから」


そうだった。

無様な姿はさらせない。

いずれ婚約破棄されるにしても、断罪される余地なんてないくらい完璧な令嬢でなければ。


ようやく落ち着いた私はスッと立ち上がり、涙を拭った。


「私に制服が似合うなんて当然でしょ?」


いつものように堂々として偉そうな態度でシドを見る。

彼は何かに耐えるようにクツクツと笑い、うんうんと頷いた。


「はい、もちろんですよお嬢。なんなら着替えのお手伝いしますんで」


「いらないわよ!」


差し出された手をペシッと払い、私はサロンを出て部屋に戻った。

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