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ヒロイン不在の悪役令嬢は婚約破棄してワンコ系従者と逃亡する  作者: 柊 一葉
殴り系の悪役令嬢はお好きですか?
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気を遣う紫の男《シドside》

薄暗い地下牢。

俺は今、手枷(てかせ)をつけた状態で、硬い石畳の床に寝転がっている。


ちょっとでも動けばジャラリと音が鳴る冷たい鎖は不快だが、手は前にあるのでできることはわりと多い。


今ここにいるのは俺だけ。

突然現れたファンブルの国王・ヘンリーによって、俺とヴィー様は引き裂かれてしまった。


でもこれはある意味で、都合のいい事態だ。

あの人に手を汚すところを見られずに済む。俺はきっとこの砦にいる間、彼女に見られたくないようなことをするだろう。間違いなく。


牢番たちの雑談や隣の牢にいる盗賊とのやりとりから、この国がローゼリアに喧嘩を売るつもりだということがわかった。


バカなんだろうな。


いくら領土が欲しいからといって、手を出していい国と悪い国がある。

開戦宣言をせずに攻め込んだとしても、ファンブルの方が絶対的に不利だ。


国力の問題ではない。

ローゼリアにはマーカス公爵家があるから。それも、ファンブル寄りの海沿いの領地に。


ヴィー様に何かしてみろ、城に向かって魔力砲を撃ち込まれるぞ。


ヘンリーはおろか、ここの者たちは誰一人としてその脅威に気づいていない。


まぁ、それはこっちがずっと隠してきたからなのだが……


「はぁ、めんどくさい」


俺がヴィー様をかっさらって来たのはあながち間違いじゃないが、それを利用されるのは困る。イーサン様にシバかれる!!


あの方は表向き無口な好青年だが、邸では完全にヤバイ人なんだ。

ビビりでヘタレ、面と向かって文句が言えないからこそ、戦うときはこれでもかというほど作戦を練り、過剰なほどの戦力で勝利を目指す。


そして妹に対する愛は計り知れない。

そんな人を怒らせたら、俺も巻き添えを食らうに違いない。


「やばいな~」


これは内密に、早急に処理しなくては。

口の中に魔力銃を突っ込まれたら嫌だ。(スピネル)同士で争ったら、陰湿な方が勝つんだろうな……。


まぁ俺も負けないけれどね。




ヘンリーは、さすがに今日明日で開戦という愚行までは犯さないだろう。


ヴィー様が手荒な真似をされることはしばらくないと思うから、とりあえず母さんたちを逃がし、ついでにヘンリーの弱みになりそうなものを探して強奪するとしよう。


穏健派の第二王子あたりは使えるかもな。弱みを握って送り付ければ、クーデターを起こしてくれるかもしれない。ファンブルのことに長くかかわるつもりはないから、後は勝手にやって欲しい。


俺が望むのはヴィー様の平穏だけだ。


「よっ、と……」


口元についた血を手の甲で拭うと、上半身を起こして壁にもたれる。

牢屋に放り込まれたとき、ヘンリーはわざわざ俺の顔を見に来た。


『ヴィアラ嬢をここまで無事に連れてきたこと、よくやった』


なぜか礼を言われ、鼻で笑ったら一撃を顔に見舞われた。


『お前次第で、彼女の運命は変わる。私の正妃となりこの国で優雅に暮らすか、使い捨ての駒となるか。すべてはお前の健闘次第だからそれを忘れるな』


ヴィー様を正妃に。

それを聞いた瞬間、俺は思った。「血祭り決定」と……。


だから俺は言ってやった。


『あんたも忘れんなよ。己の器の小ささを』


よほど苛立ったのか、ご丁寧に何発か殴っていった。


あれはビビった。

あんまりに弱くて、痛がるフリが上手にできたか心配になるほどだったから。


それに、人生で初めての体験だった。

他人に殴られたのに、自分で口の中をかみ切って血を流したのは。


血ぐらい流しておかないと、ヤツのプライドに関わるかと思ったからだ。

すげー気ぃ遣った。


『あはははは!その無様な顔……ヴィアラ嬢に見せてやりたいものだな!』


狂気に歪んだ顔でヤツは言った。

俺はまたもやビビっていた。


痛くないことがバレるかもしれないと、気が気でなかったのだ。


魔力封じの手枷をつけたことで、俺がこれから拷問を受けることに怯えていると思われたのかもしれない。

が、あいにく恐怖など微塵も感じていなかった。


ヘンリーが高笑いを決め込んでいるとき、俺の頭の中は「やべー、噛み過ぎた。めっちゃ血ィ出るじゃん」ということでいっぱいだった……!


しかもあいつは、禁忌を犯した。

魔物を隷属させることに成功したらしい。


ご丁寧に、ローゼリアへの奇襲計画について教えてくれた。


『隷属した水系の魔物たちに、海からローゼリアを襲わせる。数多の魔物が海から襲ってきたら、戦いようもないだろうな』




ありえない。




そんなこと……そんなことになったら……!!





ラウッスー産の昆布が消滅しちまうじゃねーかよぉぉぉぉぉ!!!!




ヴィー様がどれほどだし巻きたまごに人生かけてるか知っての凶行か!?




許すまじヘンリー!!




俺は絶対に計画を阻止すると決めた。




あぁ、そうだ。そういえばここの牢番も調子に乗って俺のことを殴ってきたが、「え?撫でてます?」くらいだった。


マーカス公爵家の若い衆は、訓練なのに油断したら頭が吹き飛ぶくらいのパワーで襲ってくるヤツばっかりだったから、ここのヤツらの()り甲斐のなさといったら……


ヴィー様のツッコミや、照れて叩いてくるときの方が断然痛い。


演技するこっちの身にもなってもらいたいね。

さりげなくやられてる風を装うのって、とんでもなく難しいんだからな。




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― 新着の感想 ―
[一言] シドsideめっちゃ笑いましたwww 許すまじヘンリー!!
[良い点] 最高です。 殴られた衝撃を演出する小細工、羅臼昆布に持っていかれる影響力。 半端のない安心感!
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