私たち、運命共同体なもんで
朝になり、私たちは簡単な食事を摂るとすぐに宿を後にした。
どんな顔でシドに会おう、そう思っていたのに意外に普通だった。
ちょっと拍子抜けしてしまった……!
朝起きたときに頬や額にチューしてくれるかな、なんて期待した私がばかだった。
そうだ、恋に浮かれている場合じゃない。
今日は感動の再会があるんだから、私のことは二の次で、シドの幸せに全力を尽くさなくては!!
気合を入れる私を見て、シドがきょとんとしていた。
見てなさい。完璧な恋人として振る舞ってみせるから!!
「さぁ!行きましょう!!」
手綱を引いて馬を連れ、シドのお母さんの店へと向かう。
「俺のことで煩わせてすみません」
そんな他人行儀な。
私とシドは運命共同体なのに……。
むぅっと膨れた私は、遠くの山々を眺めながら言った。
「煩わされたなんて思うほど狭量な女じゃないわ。それに私はピクニックに来ただけで、シドはたまたまお母さんに再会したっていうだけだから」
「設定に無理がある」
そう、まだやってないだけでこれはピクニックなのだ。だから予定は未定、気ままなお散歩があってもいい。
だいたい私が来たいって言ったんだから、シドのせいではない。
「でもいいの?せっかく会えたんだから、もっとゆっくり話をしなくて」
お母さんに会ったら、すぐにこの街を出て北へ向かうことになっている。私もいったんは同意したけれど、十六年ぶりの再会を簡単に片づけていいものか。
でもシドは、出発は午前中にすると譲らなかった。
私への追っ手が来ていないはずがない、という理由でだ。
「俺はもう十分です。会えて……しかも覚えていてくれた。それだけで十分です。母にも今の家族がいますから、互いに元気でやっていることがわかればもういいんです」
シドが言うには、ひとつ前の港町で私への追っ手の気配すらなかったのがおかしいらしい。とはいえ、この逃亡劇は王子の蛮行が原因なんだから、部下の人だって誰も本気で追いかけないのでは?
国王陛下が外遊から戻ったら、きっと情状酌量されると思う。私個人の国外追放はあるかもしれないが、マーカス公爵家にはお咎めなしで幕引きだろう。だってうちを敵に回すのは無理がある。
今だってお兄様はマーカス公爵領に戻り、巨大要塞みたいな邸で魔力砲と魔力銃を磨いているはず。王家には、それを城にぶちこまれないだけマシだと思っていただきたい。
「ヴィー様の安全が確約されるまでは、ここに長居なんてできません。生きてさえいればまたいつか会えますから、今はもう十分です」
シドは憑き物が落ちたようなスッキリした顔をしていた。
色々思い通りにはいかないことが多いけれど、彼の笑顔が何よりの収穫だと思う。
私たちは昨日訪れたときと同じルートを通り、お弁当屋さんへの道を急いだ。