悪役令嬢ですが、ヒロインに逃げられました!?
こちらはWeb版原作でして、書籍化にともない大幅改稿・両片想いのドキドキ大増量につき、書籍版とは内容が異なります。
『どんな物語にも主人公がいて、悪役もいる』
そう、思っていた。
「やっとこのときが来たわ……!」
私・ヴィアラは、昨今の流行りに乗って転生した悪役令嬢。
前世の記憶持ち、新人の悪役令嬢だ。
だが、あいにく私は悪役になるつもりはない。
だって悪いことをしたら罰が下るのが、恋愛小説の定番でしょう?
痛い思いも、死ぬのも嫌。
せっかく転生したのだから、平穏な日々を過ごしたい。
今は、春の陽気が心地よい昼下がり。
私は三枚の報告書を手に、公爵家のサロンで寛いでいた。
昼下がりに緑豊かなサロンでお茶をするなんて、とても優雅なひとときだ。
なのに、自分の運命を知っている私の心は穏やかでない。
だって私は恋愛小説に登場する悪役。
ヒロインの恋敵。
明日から入学する学園で、私は悪役令嬢としての輝かしい(?)第一歩を踏み出さないといけないのだ。
だから早急に、ヒロインを説得しなければならない。「私はあなたの敵じゃありませんよ!!」って、伝えなくては。
ところが……。
「待って。どういうことコレ!?」
私が手に入れたのは、報告書という名の『学園新入生名簿』。これからの一年間、学友になる者たちのリストだ。
さすがは貴族が集まる学園、見知った名前がずらりと並んでいる。
いやいや、そんなことはどうでもいい。
探しているのはたった一人、ヒロインの名前だ。
淡い水色の長い髪を風が優しく揺らす。銀色の瞳が、リストの文字を一つ一つ追っていく。
しかし、いつまでたってもお目当ての名前は見当たらなかった。
「嘘だ……誰か嘘だと言って……!」
何度も何度も、紙の上に並んだ名前を隅々まで確認する。
やはり彼女の名前はなかった。
まさかそんなことって……
そんなことがあるはずない。
あっていいわけがない!!
わなわなと震えだす右手。
名簿は、グシャッと音を立てて握りつぶされた。
私は肺にたっぷり空気を吸い込み、心のままに叫んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その絶叫を聞きつけ、護衛の魔導士・シドが私のそばに一瞬で駆け寄ってきた。
「お嬢!?何事!?」
黒髪に紅い目の美男子が、目を見開いてその精悍な顔立ちを歪めている。
シドは無礼にも背後から私の肩を強く掴み、ガクガクと激しく揺らす。
「何があったんですか!?どうなさったんですか!?」
こら、やめろ。酔うからやめて。
「離してっ!!」
彼の手を振り払った私は、髪を振り乱して再び叫んだ。
「どういうこと!?ヒロインの名前が名簿にないじゃない!!」
ヴィアラ・エメリ・マーカス。16歳。
恋愛小説『薔薇色の宝石を君に捧ぐ』に転生した私は、
ヒロインのいない世界で悪役令嬢をやることになりました。