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神の愛と彼女の愛を授かりし者達

 月明かりが射し込み、少女の美しさは、より際立った。


「ご無事ですか?我が主」


 若き騎士少女の問い掛けに、少年は言葉が出ない。驚きも去ることながら、少女の美しさに、どう言葉を発していいか分からない。


「まさか手傷を負いましたか!?」


 両肩をグイッと引き寄せて、顔と顔を近づける。

 目のやり場に困り、思わず顔を背けてしまう。


「ケガはしてないし、君は誰?」


 少女に率直な疑問を問いかける。


「私の名前はジャンル。ジャンとお呼びください、我が主」


「ジャン・・・?」


 その名前にどこか、懐かしい感じがした。

 リーパーが再び鎌を構えて、間合いを詰める。


「主殿下がっていてください。私が相手をします」


 少女も剣を構える。


「主よ、我に力をお与えください、我が道を阻む者を討ち滅ぼす力を」


 少女の剣に光りが集まり、剣が輝きを放ち渦を巻く。

 リーパーも突進し、少女を真っ二つしようと鎌を振りかぶり猛進する。


「ハァーッ!」


 剣を横凪ぎに振った瞬間、光の衝撃波がリーパーを襲う。轟音と暴風が鳴り響き、校舎のガラスも砕け散る。

 静けさが戻り始め、目の前にリーパーの姿はなかった。


「倒したのか?」


「深手を負わせたはずですが、逃げられました」


 剣を鞘に納めて、少女は答える。


「凄い魔力を感じたけど、結月君大丈夫!?」


 左腕を押えながら、土煙の中から椿が現れる。


「俺は大丈夫だけど、腕は大丈夫なのかよ?」


「左腕の骨を折られたけど、治癒術をかければ直ぐに治るから大丈夫よ、それにー」


 椿の視線が少女に移る。少女も視線に気づき、右手をいつでも抜剣できるように手を添える。

 椿が先端を切る。


「あなた、見るからに人間って感じがしないわよね、普通の人ならそんな膨大な魔力を持ってないしね」


 空気に緊張感が張り詰める。


「血生臭い魂の彼女は、そこの死人臭い魂の守護神ですよ、椿さん」


 三人が振り向くと、シルクハットを被り、紫陽花色の髪を腰まで流し、月光に照された蒼白い肌を古い西洋貴族の服に身を包んだ男が現れる。


「遅かったじゃない、骨董屋」


 椿が嫌みを言い、骨董屋と呼ばれた男は薄気味笑いしながら、帽子を取り丁寧に挨拶する。


「結月君。そしてうら若き騎士、ジャンさん。お初にお目にかかります。 教会でこの地域を監察官をしております 名をエリオットと申します以後お見知りおきを」


 二人は呆気に取られて思わず会釈する。

 するとエリオットはニコッと不気味な笑みを浮かべ、両手をパンッ!と叩く。


「さて椿さん!お二人には、積もる話しや説明やらがありますから、私のお店で夜のお茶会でも開きましょう♪」


「この子の手当てと忘却術はどうするのよ!?」


 椿はまだ気絶してる女生徒を指差す。


「ご安心を忘却術と手当ては、教会の者にやらせますから、みなさん行きますよ♪」


 エリオットと三人は闇夜の校舎を後にする。

 

 

 立川駅北側のモノレール下の通りを歩く。アンバー色の街灯が綺麗に灯り、なんとも言えない雰囲気だ。


「本当にあんな陰気臭い店に行くの?」


「相変わらず失礼ですね椿さん・・・文句を言うと左腕を治癒しませよ、あなたは治癒術が下手ですからね♪」


 やがて住宅街の路地裏に店が見えた。

 骨董屋と言われる通り、店内には絵画やら石像が無造作に飾られている。


「お三方、遠慮はいりませんので寛いで下さいね お茶を用意しますので♪」


 そう言うとエリオットは、店の奥に消えて行った。

 三人は円卓のテーブルに着き、しばらく沈黙が続き、結月が口を開く。


「椿。さっきのリーパーって奴は、何なんだ?」


「リーパーは、さっきも言ったとおりジャック・リーパーを誰かが違法召喚し、使役してるの。その手の霊や魔術師を狩る役目が、私達執行官なのよ 」


 椿は順を追って説明する。


「執行官や監察官が所属しているのが、教会って言う組織で、監察官は担当地域の執行官に仕事を割り振ったり、担当地域を監視しているのよ」


「椿は執行官でもあり、魔術師っていうこと?」


「一応ね、魔術師自体は世界中の軍にもいるけど、過去の第一、第二次魔術大戦で人間兵器として扱われたから、現代では数が少なくなったけど」


 魔術大戦と言えば、過去の世界大戦だ。


「そして、結月さんも魔術師の血を受け継いでいるのですよ」


 エリオットがお茶を差し出しながら、会話に入る。


「俺が魔術師!?」


 驚きを隠せない、今まで魔術師がいるのは知っていたが、家族の話しで、聞いたことがなかった。


「悪いけど、家族に魔術師は居ないはずだけど」


「結月さんのご両親が魔術を扱える人でなくても、遠い先祖が魔術師だった可能性もあります」


 お茶を啜りながらエリオットは続けてー


「しかも、とんでもない魔力持った、違法契約者ですけどね♪」


「違法契約者って・・・」


 結月の顔がひきつる。

 エリオットは、ティーカップ越しに結月とジャンを見て。


「通常の魔術師でも、守護霊は召喚できますが、守護神は並みの魔術師では魔力が足らなくて召喚できませんし、守護神の召喚は禁忌魔術の一つですから、通常なら異端者だから首チョンパです♪」


「首チョンパって?」


  恐る恐る真意を聞く。


「端的に言うと、殺すって意味ですよ、結月さん♪」


 ニコニコしながらエリオットが言った瞬間、ジャンが抜剣しようと、剣に手を伸ばす。

 椿と結月が驚いたが、エリオットは微動だにせず補足する。


「落ち着いてください、冗談ですよ。結月さんには執行官になって欲しいんですよ。それに魔術師が増えるなら、教会の枢機卿達も得するはずですし、まして守護神が付録なんですから」


「・・・・・・悪いが、少し考えさせて欲しい」


 リーパーの戦いや、騎士少女が目の前に突然現れたり、色んな話しを聞いて、頭の中がパンクしそうだ。


「ま、いいでしょう、今日はお開きにしましょう。椿さんは治療があるので残ってください」


「今まで腕の事を忘れてたでしょ・・・」


「いや~痛みに耐えている顔が、あんまりにも見応えあったので、忘れてる振りをしてましたよ」


「あんた、いい根性してるわ・・・」


 エリオットを見る椿の顔がひきつっている。

 


 家までの道のりは雰囲気が違った。

 薄い霧が、街灯のアンバー照明と相まって幻想的な世界を作る。

 この幻想的世界にジャンと歩くのは、不思議な気持ちだ、すれ違う人々が皆が振り向く。ジャンの姿は昔の西洋騎士の姿で振り向く人、もしくは、彼女の可憐さに目を引かれる人等、理由は様々だ。

 執行官の問題も頭を悩ませて、ため息が漏れる。


「悩んでいるのですか?主殿」


「まぁね、断ったらヤバさうだし、主殿じゃなくてユヅキでいいよ」


 主殿という言い方は、しっくりこないし、周りの人に聞こえると恥ずかしい。

 ジャンはユヅキの前に出て、振り向き様に。


「あなたが、仮に教会と敵対する道を選択しても私は、あなたの味方です」


 霧が晴れ、月下に照された彼女の美しさに見とれてしまった。


「ユヅキ、顔が赤いですよ?」


 不意に下から覗き込まれ、あわてて平静を装う。


「な、何でもないよ、それより早く家に帰ろう、今日は疲れたし」


「そうですね」


 疲れた顔のユヅキを見て、笑みを浮かべて答えた。



 椿の治療を終えて、エリオットが訪ねた。


「椿さん、なぜ魔眼の先見の明を使わなかったんです?使えば、手傷を負わずに済んだかもしれないのに」


「うるさいわよ、使いたくなかっただけよ、文句ある?」


 そっぽを向いて、頬を膨らませながら答える。


「それより、あのジャンって子はどうなのよ?」


「ま~守護神を召喚した際の魔力の出処も気になりますが、一番は彼女の魂がちょっと人間の匂いが、するんですよね」


「人間の匂い?」


 意外な疑問に椿は驚いた。


「疑問は追々解決するとして、椿さんも帰って寝ないと、肌に悪いし眉間のシワが増えますよ♪」


 時計の時刻は、0時を迎えようとしていた。


「眉間のシワなんてないわよ!それより私の神器を早く手配してよね、支給のサーベルじゃ一回で終わっちゃうから」


「ハイハ~イ」


 気の無い返事で椿を見送ったあと、エリオットは、店の奥の部屋に入る。

 部屋には、絵画や石像が部屋の真中を軸にして、囲むように置かれている。エリオットが部屋の真中に立つと、絵画の人物や石像の目が赤く光った。


「監察官、エリオット報告を」


 石像が話し出す。


「リーパーは仕留め損ないましたが、代わりに面白い人材を二名見つけました。一人は魔術師の素性がある少年とジャンと名乗る守護神、もとい騎士少女です」


「ジャンだと?」


 石像や絵画の人物達が驚きの声が出た。

 エリオットも枢機卿達が、何かを恐れている空気を感じ取った。何故、老人達が狼狽えるのか。


「詳細は、執行官椿の(アイ)レコーダーの映像をご覧ください」


「映像はこちらで確認する、下がってよろしい」


「わかりました」


 エリオットを照らしていたスポットライトが消えた。


「間違いない、聖騎士ジャンだ」


「10年振りに悪魔を見るとはな・・・」


「バカな、あの時に仕留めたハズだぞ」


「しかし現に彼女はいる、事実は認めないとな」


「諸君お静かに!」


 一際大きい絵画が一括する。


「どうやら、あの時の鈴は役目を果たせなかったようだ」


「元老長どうするのです?」


「神に愛された者には、同じく神に愛された者をあてるまでよ」

 


 ヨーロッパにアルカディア連邦とクシャトリア帝国に挟まれた、アルメニア国と言う、小国に教会の本部がある。

 連邦と帝国は、長年に渡り小競合いを続けていたが、教会が仲裁に入り、不可侵条約を締結した。

 教会の騎士団による、武力介入を避ける為に、渋々締結した形だ。

 アルメニア国は、中世ヨーロッパを模した建築方式で、教会の本部も古城の跡地にある。首都マチルダは、自動車等の近代科学の移動が許されず、馬か自転車、若しくは水路を手漕ぎの舟による移動が主流になっている。

 1槽の舟に一人の女性が乗り込んだ。

 聖職者の衣服を纏い、金色の長い髪は足元まで長く、清流の流れの様に風に靡く。水面に乱反射した日の光りが、蒼い瞳を一層輝かせる。


「市内を軽く、回ってくださるかしら?」


 女性が船主に伝えると、船主は軽く会釈した。


「かしこまりました。聖女マリア様」


 マリアを乗せた舟が岸を離れようとした瞬間、一人の老神父が、手を挙げながら走って来た。


「お待ち下さい!マリア様!」


「どうなさいます?」


 船主の困惑した言葉に、マリアは即答する。


「構いません。舟を出して下さい」


 マリアの言葉に、呼応して、舟が船着き場から離れようとした瞬間、老神父は転びながらも、舟に手を掛ける。


「あら、間に合いましたか。ドビニエ神父」


 ドビニエ神父は息を切らしながらも、舟に乗り込む。


「相変わらずの仕打ちですな、聖女マリア様。危うく心臓発作で、神のもとに召される処でしたぞ」


「あら残念。神のもとに召された時は、生前以上に扱き使うように、神に頼んどきますね」


 マリアは笑いながら答えた。


「大変です!元老長がー」


「亡くなりましたか!?」


 ドビニエ神父の言葉を遮る様に、目を輝かせながら、マリアは言葉を発した。


「いえ。ご存命ですが?」


 その言葉に、マリアは落胆する。


「それはおかしいですね。毎日、朝昼晩と元老長の死を神に祈ってるのですが・・・・どうして神は、私の祈りを聞いてくださらないんですか?ドビニエ神父」


 天に向かって、手を重ねた。


「神になんて事を祈ってるのですか・・・・聖女様。それよりも、枢機卿達が下した決定事項を読んでください」


 ドビニエ神父は革製の鞄から、書類を手渡した。


「なんですか・・・・え~聖騎士ジャンの抹殺に―」


 マリアが読んでいる最中にドビニエ神父が、手で遮る。


「お待ち下さい!聖女様」


「なんですか?ドビニエ神父」


「機密書類を声に出して読むのは、止めて下さい!」


「貴方が読む様に、言ったのよ?」


「読むは読むでも、黙読と言う意味です!」


「それならそうと、そう仰って下さい。全く近頃の人は、意志疎通が難しいですね」


 一人で怒りながら、書類に目を通す。


「ふ~ん。日本にいる親派から、国防軍を使って、聖騎士の抹殺・・・・。来るべき最終戦争(ラグナロク)に向けて、くだらない事柄で、彼女達を失うのは、痛いわね」


 マリアは、水面に写る自分の顔を見た。水面が揺れて、歪んだ顔に思えた。


「元老長が、日本の親派を使うなら、此方も親派を使いましょう。日本と仲の良い親派を使って、元老派閥の老害達に分からせてあげましょう、聖女派閥の実力をね。きっと神も私達に味方してくれるでしょう」


 優しくドビニエ神父に笑いかけた。


「ところでドビニエ神父。写真に写ってる少年は?」


 マリアは写真の少年を指差した。


「この少年が、どうかしましたか?」


「いえ。なんとなく、誰かの面影があるのよねぇ。それに・・・・」


 真剣な表情で、写真を見るマリアの姿をみて、ドビニエ神父も息を呑む。


「ん~。ちょっとタイプの子かも」


「は?」


 マリアの言葉にドビニエは、呆気に取られた。


「何ですか?ドビニエ神父。私だって年頃の女性ですよ。恋の一つや二つしたって、罰は当たりませんよ!」


 立ち上り、両手を広げた。


「そうですね。年頃ですから―って駄目ですよ!貴女は、聖女様なのですから!」


 ドビニエも立ち上り、声を上げた。


「じゃあ、聖女辞めます」


「聖女は、みんなの聖女様であって、おいそれと辞められませんよ!」


「冗談ですよ冗談。聖女ジョークですよ。あんまり怒鳴ると、高血圧で神の元に召されますよ」


 舟が教会近くまで来ると、船着き場に行くように指示した。

 船着き場には、何人かの修道女が、出迎えに現れた。舟が接舷すると修道女の手を取り、船着き場に足を着ける。


「ドビニエ神父。近い内に戦いが、始まります。()()()さんに、連絡して下さい。あなたの祈りが、通じる時が来たと」


 ドビニエを見る、マリアの表情に困惑した。この御方は、聖女様なのだが、時として、悪魔の様な顔をなさる。

 教会の船着き場は、地下の水路に有り、蝋燭に灯された階段を上がっていく。

 木製の扉を開け、マリアは、古城の教会を見つめた。


「主を試すなかれですよ。老害さん(元老長)


 太陽の光りが、神の導きの光の様に射し込む。そして、導きの光の中に、マリアは消えて行った。

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