私があなたを護ります
朝日を浴び桜の香りが、東京の街を包み込む季節。
朝はまだ、肌寒く空気がひんやりとしている、少年は目蓋にかかる重い重力押し退けて、ゆっくり目を開けた。ベッドと言う魔物から、重たい体を起し、窓を開け桜の香りを部屋にいれる。
「ゆづき~そろそろ着替えないと、朝陽ちゃんが迎えにくる時間よ!」
部屋の外から声が聞こえ、振り向くと、黒髪のロングヘアー女性が立っていた。スラッとした体型で、顔は目鼻立ちがくっきりしていて、知らない人が見れば、どこかの芸能人って思うだろう。
「おはよう、紗希姉ぇ・・・」半目を開けながら答える。
すると紗希の顔がニコニコと殺気染みた顔になり「早く着替える!女の子を待たすなッ!」って、言い残し、バンッ!と勢いよくドアを閉めた。
テレビを見ながら着替え始めた。テレビは報道番組が放送されており、内容は結月が住んでる立川市で市民を関心を集めている、連続通り魔のニュース。
この通り魔事件が始まり出したのが、桜のつぼみが咲き初めの時期。最初は切りつけられる事件が複数回だったが、最近は殺人事件に発展してしまった。
部屋を出て、玄関に向かう途中である物を忘れてるのに気づく。赤い結晶石が付いてる首飾りのお守り。遠い昔の祖先が大事な人から貰い受けたという大切な物。
玄関に向かう矢先を見た紗希が、居間から出て来た。
「結月!ちゃんと睦月さんに行ってきますって言いなさい!」
勇み足を止める結月。玄関から居間に入り、縁側に小さな祭壇がある。祭壇の上には、10年前に他界した結月の父の遺影だ。
10年前に東京都心で起きた、謎の同時大量失踪事件、通称グラウンドゼロに関連して亡くなったと聞かされている。紗季姉は親戚で親のいない俺の面倒をみてくれている。
この事件により、政府機能の一時的消失に伴い、機能を災害計画を元に第2都市の立川市に移転し、環状7号を境に壁を作り、壁の内側は国防軍管理下の廃墟都市になっている。
遺影の人物は、どこか寂しそうにしている写真だ。写真嫌いだったからって、紗希は言っていたが、毎年桜が咲く時に撮る家族写真だけは笑顔だ。
しかし過去数年分の写真は無くしてしまったらしい、母が写っていた数年分の写真。
母の記憶はおぼろげだ。軍関係の科学者だったらしいが、母親としてより科学者としての人間だったと紗希姉ぇから聞かされた。
「行ってくるよ、親父」
返事が無いのが当たり前だが、これがいつもの結月の日課だ。
朝の挨拶を済ませ玄関に向かうと、学生服の女の子が立っていた。
「おはようございます、先輩」
その女の子の笑顔で、世の男子諸君は朝から癒されるはずだ。おっとりとした雰囲気を身に纏い、 とごか立ち振舞いにも品がある。
「おはよう、朝日」
いつもの日常会話のキャッチボール。
二人の通う学校は、立川市内のモノレールの沿線上にある。生徒達はモノレールの駅から来るか、立川駅から徒歩で通学で、二人も例に漏れず徒歩通学だ。
「先輩、また夢を起きるまで見ていたんですか?」
唐突に朝陽が、こちらを覗きこむように聞く。
「ま~、今日の夢も知らない人の視点だけど、相手の女の子が可愛くー」
「それは楽しそうな夢ですね、先輩」
朝陽の顔は笑ってるが、目が笑ってない。
なにやら地雷原を歩いている気分だ、取りつく島もなさそうなので話題を変える。
「そう言えば朝陽、昨日の夜も通り魔事件があったらしいから、部活帰りは気をつけろよ」
「わかっていますよ、先輩に言われなくても」
そんなことを話していると、二人の頭上にあるモノレールには、普段は通らない列車が走って来た。カモフラージュカラーの分厚い鉄の鎧を纏い、大小の砲身が備え付けられた国防軍の装甲列車だ。
「立川駅に走って行きましたけど、最近軍人さんを街でも、多く見かけますよね」
不安そうに頭上の装甲列車を眺める朝陽。
朝陽が不安になるのも仕方ない、10年前のグラウンドゼロの災害に託つけて沖縄や北海道では北の大国、ア連邦共和国や西の人民中国との国境での小競り合いが続いている。
「心配すんなって、近くに基地があるから軍用列車が走るのは、よくあることだし」
「そうですよね」
そんな二人の背後から急に声がかけられた。
「お二人さん、おはよう」
振り向くと、朝陽と同じ学生服の女の子。セミロングの栗色の髪に色白の肌、整った顔立ち。
去年のミス2年生に選ばれた椿。
「おはようございます、椿先輩」
「おはよう、椿」
結月と椿は2年生から同じクラスだ。
「朝から仲良く登校なんて、付き合ってる人達みたいじゃない?」
「先輩と私が恋人ー」
ボフッと朝陽の顔から湯気が上がる。
「椿、そんなこと言ったら、朝陽に迷惑だろ?第一、朝陽は妹みたいなもんだし」
「妹・・・」
真顔で返す結月に、朝陽の顔が項垂れる。
「私、気分が悪いので先に行きますね!」
走って校舎内に入ってく朝陽。
「あいつ気分悪いのに走って大丈夫かよ」
「私は、あなたの将来が大丈夫?って言いたいわ」
朝陽にかける言葉を聞いて、椿はそう思わずにはいられなかった。
光と闇が表舞台から裏舞台に変わる時間。生徒が居なくなる学校は、何とも言えない雰囲気だ。廊下の明かりは間引かれ、教室の明かりも所々消えている、ある教室を除いて。
新任の森谷先生に言われ、入学式の備品片付けをやっている結月がいた。
「あの新任の先生、初日から人使い荒いっての」
独り言をブツブツ言っている最中、女性の悲鳴が闇夜の校舎に響き渡る。
廊下を走り、悲鳴の元に駆けつける。そこには3人いた。
腕から血を流し倒れ込んでいる女生徒と、月夜に照され禍禍しく光る鎌を持ち、黒い霧が全身から滲み出ている、人の形をした物体。
そして女生徒と物体の間に見覚えのある顔。
白を基調とし、上は古い西洋イメージした神父服で、下はスカートに茶色のロングブーツを履いた、栗色のセミロングを後ろ手に結んだ椿だ。
「なにやってんだ、椿?」
「あんたこそ、何でいるのよ!?」
結月は呆気に取られていた。美女と名高い、椿の格好に。
「知らなかったよ、そういう趣味があるなんて」
「違うわッ!」
すぐさま突っ込みをいれる。
「それより結月君!その子と一緒に逃げて!」
「逃げるって!?そいつは何なんだよ!」
椿は腰に帯刀していたサーベルを抜きながら。
「こいつが、最近起きてる通り魔事件の犯人、ジャック・リーパーよ!」
「犯人って・・・」
驚くのも無理はない。通り魔の犯人は同じ人間だと思っていたから。
「詳しい説明は後でー」
椿が言いかけた瞬間、鎌の横凪ぎが襲いかかる。パワーがあり、片手では受け止めきれずに両手で辛うじて受け止める。
「ッ!いきなりダンスを申込むなんて、レディーに対して卑怯じゃない、リーパー」
不敵な笑みで答える椿。
「なまくらサーベルだけど、耐えてよね」
そう言うと、サーベルが急に雷を帯びたように光だす。椿とリーパーの間にもビリビリと電流が流れては消えを繰り返しを始める。
リーパーの鎌と鍔迫合いの中、一瞬だけ両者が離れた刹那。
「シュトュルムファウストッ!」
リーパーの胴目掛けて、雷鳴を響かせながらサーベルが鋭く突き放たれる。
突きが胴に命中し、体ごとリーパーは吹き飛ばされた。
「たった一回の魔力注入で、刃が焦げるなんて、やっぱり支給品は駄目ね」
刀身部分は煙を微かに漂わせながら、黒焦げの刃を見るなり呟く。
あたりは静けさを取り戻しつつあった。
「さて結月君、この子を連れて今日起きた事は、忘れて頂戴」
気絶した女生徒を手当てしながら諭す様に言う。
「忘れるって、アイツは何なんだよ?」
「貴方も聞いたことあるでしょ?昔イギリスにいた殺人鬼よ」
確かに昔、イギリスにジャック・リーパーと言う通称で呼ばれていた。でも百年以上前の話しで、生存してるとは思えない。
「正確に言えば、死んでいるリーパーを誰かが違法召喚しているのよ」
説明している間に、二人の背後に鎌が襲いかかる。咄嗟に結月を突き飛ばして、鎌を受け止めようとするが、触れ合った瞬間に刀身が砕け散り体が宙を舞う。
「椿ッ!」
続けて2連撃目が結月に迫る。
気絶した女生徒を残す訳にいかず、ここで死ぬのかと、思いがよぎった瞬間。
お守りの首飾りが、溢れんばかりの光りを放ち、リーパーの鎌が鋭い金属音共に弾かれる。
目の前に現れた少女は、清流の流れの様な髪を後ろでに結び、朝日に照らされた金木犀の花色の髪。翡翠色の瞳に、雪のように美しい白い肌。手には白い肌に劣らぬ純白に光る剣。
その少女が結月に振り向き。
「ご安心を、私が貴方を守ります」