クロスオーバー編 タイムリミット
星空の下、少女は夢を見ていた。
大概、夢は無意味に近い場合や深層心理の欲求に近い物だが、少女の夢は過去のプレイバックだ。
ある女科学者に騙されたのが運の尽きだ。
その時の言葉が、今も耳にこびり付く。
(あなたが日本を救うのよ)
穢れを知らない女の子にとっては、正に自分の行いに罪の意識等は無かった。
自分はどうやら特別の存在らしい。科学者達の間では正に格好の研究対象、つまりは餌だ。
毎日、あらゆる実験を繰り返した。。
ある日、廊下を歩いていたら培養基が目に留まった。無数の培養基の中には、私が何百人も入っている。小さい私に、私よりも大きい私。
違う部屋には顔が潰れた私、全身が風穴が空いた私。全部、私の顔と姿。
(あれは、失敗作だから気にしないで)
女科学者はそう言うと私の手を引いて、ある部屋に入った。
そこには白衣を着た女性と金木犀の髪色に黒の軍服を着た少女、そして男の子が居た。
部屋に入るなり白衣の女性が近づいて来た。私の顔の位置までしゃがみ込んだ。
女性の手が近づいて、反射的に身体が後退りする。女性の手が私の頭を優しく撫でる。
(怖がらないで。私は、あなたの敵じゃないから)
優しく撫でる手に久しぶりに温かさを感じる。長い間、触れたことのない優しい温かさだ。
女の子の瞳に無数の流星群が流れ落ちる。
(怖かったよね。痛かったよね。もう大丈夫だから安心して)
そう言うと女性は立ち上り、女科学者と口論が始まった。
金木犀の少女は翡翠色の冷たい視線を私に向ける。右手は腰に挿した剣に手を添えて、今にもこの場にいる人間を切り殺してもいいように感じた。
「時条、分かっているの!?あなたの研究は不完全な結果しか生んでないのよ!あの子達は物じゃないの、生きているのよ!」
「笑わせないでよ、クローンに情けを掛けろって?今更、善人ぶらないでくれるかしら。あなたの研究だって大勢を犠牲にしなくちゃ完成しない癖に、私だけ悪者扱いはやめてくれる?」
私には何の事を言っているのか分からなかった。
口論が白熱し、女科学者が白衣の女性に手をあげた瞬間、軍服の少女が腕を左手で掴む。
「そこまでです。茜に手を出すなら、友人とは言え容赦はしません。どうか御自重下さい」
腕を掴む手に力が入る。右手は剣を握り、今でも抜きそうな雰囲気だ。
「手を放してあげなさい。とにかくこの子は私が預かります。いいわね?時条」
白衣の女性が命令すると、少女は手を放して下がっていく。
「好きにすればいいわよ。遺伝子データが在れば研究を続けられるもの」
握られた腕を擦りながら吐き捨てる。
白衣の女性がしゃがみ込み笑顔で語りかけた
。
「もう大丈夫だからね。私は茜、あっちの小さい男の子が、私の可愛い息子の結月って言うのよ。貴女のお名前は?」
女性の問い掛けに答えようとしたが、答えられなかった。
「あ・・・・・・」
私には名前が無い。
「その子に名前なんて無いわ。呼称はタイプゼロ。オリジナルモデルで唯一無二のエレメントマスターよ」
女科学者が言い放つと、白衣の女性は溜め息をつく。
「タイプゼロなんて名前は、この子には似合いません。結月、この子の名前を考えてあげてね」
「うん」
男の子が笑顔で手を差し出す。
「よろしく」
「・・・・・・うん」
ぎこちなく手を握る。女性と同じ優しい温もりだ。
この出来事が、私を深い闇の世界から救い出してくれた。
そして、この後に全てが無に帰す事件が起こるまで。
「おい、生きているぞ。リーはどうだ?」
薄っすらと視界に誰かが見える。
「リーも生きているぞ」
視界がぼやけて見えない。手に力を入れるが反応が鈍い。
「悪く思うなよ、女」
額に冷たくて黒い物が当たる。撃鉄を引く音で銃だと分かった。身体を動かそうとするが言うことを聞かない。
(あ・・・・・・私、ここで死ぬんだ)
死を覚悟してない訳では無い。さんざん殺したのだから、良い死に方じゃないのは確かだし当然の報いだと思う。
だけど私を助けてくれた男の子の運命を変えるまでは、死んでも死にきれない。
指に光を収束させていく。
「悪く思わないでよね」
光の矢が目の前の物体を貫いた。返り血の量からして殺したか、最低でも重傷を負わせたはず。近くでも物音がもう一人いると分からせたが、間に合わない。
乾いた銃声が響き、銃弾は頬をかすめた。
次ぎは銃弾は確実に当たると頭を過った瞬間、叫び声がした。
「伏せろ!」
言われるがままに身体を伏せると頭上を巨大な球体が通過していく。
「いやはや、可愛い顔に風穴が空いて風通しが良くなる所だったな」
聞いた事のある声だ。さっきまでの物音の方を見ると、膝から下しかない直立不動の足がある。
「いやぁ、凄い死に方だな。大丈夫かアリス」
ぼやけた視界で声の主を見る。あの時の金木犀色の少女と何処と無く似ていた。実際は残酷差はこちらの方が勝っているが。ぼやけて見ると瓜二つだ。
「ジュリエット・・・・・・。一瞬、凄い似てる人に見えたわ」
アリスの言葉にジュリエットの瞳孔が開く。
「ほう、似てる人か。気になる話だが治療が先だな。ロミオ大尉、任せたぞ」
ロミオ大尉が患部に手を当て治癒させていく。みるみるうちに傷が塞がり、何事も無かった様になる。
「だいぶ手酷くやられたな。せっかくのドレスも無残な物だ」
ジュリエットに言われ、自分の服を見るとドレスはビリビリに破けている。
薄ら笑いしながらアリスの姿をみて、思わず胸元や下腹部を隠す。
「こんな事だろうと思って服を持ってきて正解だったな。君の鞄から適当に持ってきたから、私のセンスじゃないからな」
ジュリエットが服を投げ渡す。服を見るとサイズが大きいロングTシャツと、足のラインにぴったりと沿うジーパンにスニーカーだ。
「ありがとう」
「なに礼には及ばんさ。あちらの眠り姫はどうする?まだ息があるみたいだが」
ジュリエットがリーの胸元を掴み持ち上げ、銃を突き付ける。
「こんばんは、眠り姫さん。実の所、私は迷っているんだ。頭を吹き飛ばす死に方か、手足を順番に吹き飛ばして殺してやろうかなと」
「好きにすればいい・・・・・・。外面は綺麗だが中身はサイコ女だな」
「サイコ呼ばわりとは誉め言葉だな。ま~私の家系は似たようなもんだからな仕方ない」
ジ・エンドを傷口に押し付けると、傷口から血が流れ落ちる。
「ぐっ!」
「やめて!」
アリスがジュリエットに叫ぶ。痛みに耐えかねて息を切らしながら彼女の銃を握る。
「女・・・・・・敵に情けを掛けるな。情けは弱さだぞ。今ここで俺を殺さないと、お前の前に立ちはだかる。そしてお前や、お前の大切な人間を殺すかも知れないぞ」
「わたしは・・・・・・。私はそれを弱さだと思わない。昔、ある人に言われたの。お母さんみたいな女性で、優しさは弱さじゃない。それは強さだって、人を救える事だってできる」
その人はこうも言った。優しさは人を傷つけ殺す事もできると。
ジュリエットがジ・エンドをクルクルと手で回しホルスターに納める。
「なかなかの演説だな、うん。リーとやら、アリスに免じて殺すのは無しにしてやる。ロミオ大尉、こいつも治療してやれ」
「よろしいのですか、閣下?」
「よろしいも何も、命令だ。それに―――」
ジュリエットがリーの体に跨がり顔を近づけ薄ら笑いする。
「お前達の背後関係が気になるからな。装備の横流しの件や聞きたい事が山程ある。だから今ここで死んだ方がマシかも知れないぞ」
背後の星空が煌めく様に、彼女の瞳も煌めく。この後の尋問、もとい拷問が早くやりたくてウズウズした瞳だ。
「グァンタナモ基地に送っても無駄だぞ。お前も俺も拷問の訓練を受けているからな」
「ほう、いつ私がグァンタナモ基地に送ると言った?」
ジュリエットがしたり顔になり、リーの表情が険しくなる。彼女の誘導尋問に乗せられた。
「私は所属を明かしていないのに、何故グァンタナモと言う単語だけで、お前は私が合衆国の軍人だと知っている?まったく、楽しくなってきたよ。それに艦首の甲板にある小型のミサイルの発射台は何なんだ?」
「ミサイル?何の事を言っているんだ」
「おとぼけはいかんな。何処の世界に、客船にミサイル発射台を設置する海賊がある?」
リーが視線を反らし呟く。
「バクスターの奴、騙しやがったか・・・・・・」
ジュリエットが舌舐めずりをしていると銃弾がかすめていく。
「こっちに居たぞ!」
男が銃を撃ちながら近づいて来た。
「チッ、ひとまず逃げの一手だな」
ロミオ大尉がリーの腕を回し立ち上がると反対方向からも追手が現れる。
「挟まれましたよ、閣下!?」
ロミオ大尉の声にジュリエットが貨物用エレベーターに目が止まる。
「アリス、扉を開けるぞ。手を貸せ!」
「う、うん!」
二人で両端を握り力を入れる。扉が少しずつ動き出す。しかし追手も確実に距離を詰めて来てる。
扉が人一人通れる隙間が開いた。
ジュリエットがリーの服を掴み、扉の隙間に立たせる。
「お客様、絶叫アトラクションを楽しんでいただけると幸いです。因みにクレームは受け付けておりませんので悪しからず」
「おいっ!?」
リーが何か言おうとした瞬間、ジュリエットが手を放すとリーがエレベーターの通路を落ちていく。
「大尉とアリスも早くしろ!」
エレベーターのケーブルを掴み二人が降りて行く。最後のジュリエットがポケットから手榴弾を二つ出し、安全ピンを口で抜く。
「1、2、3、サンタさんからのプレゼントだ!」
両方向に投げ、自分もケーブルを掴む。追手の足元に転がり、つま先に当たった。
「グレネード!」
叫び声を上げた瞬間に爆発した。爆風と破片がケーブルを下っているジュリエットに降りかかる。
最下層エリアまで降りると暗闇に包まれていた。
「アリス、エレメントソードの光剣を出してくれ。暗くて見えん」
ジュリエットに言われるままに光剣を出すと周囲が、ほんのり明るくなる。
「まったく便利な神器だな。懐中電灯代りになるよ」
「懐中電灯って・・・・・・」
確かに神器を便利グッズ扱いする人間は中々いない。
「区画の地図によると、この区画は貨物区画になりますね」
ロミオ大尉が壁際の見取り図を見ながら呟く。
「本当に貨物区画か?貨物区画にしては偉く厚い扉だな」
四人の前に巨大な鋼鉄製扉が立ちはだかる。扉の前には電子ロックの端末が起動していた。
アリスが端末画面を見ると画面に、ある日本企業の絵柄が映し出されてる。
「グローバル製薬・・・・・・」
アリスの呟きにジュリエット反応した。
「たかだか一介の製薬会社の貨物にしては、御大層な扉だな」
端末に触ると画面に暗証番号入力画面に切り替わる。
「暗証番号か・・・・・・。大尉、ハッキングできるか?」
「ちょっと待っててくださいね」
ロミオ大尉が腕に付けている端末をケーブルで繋ぐ。
「お前達は、この事を知っているのか?」
ジュリエットが壁際に座っているリーに尋ねた。相変わらずリーは視線を合わせない。
「少なくても俺は知らないぞ。聞きたいならバクスターと言う男に聞いてみればいい。もっとも聞いたからって素直に話すとは思わんがな」
「バクスター?」
「俺達のリーダーだ。もっとも俺は新人だからよく知らないが、かなり顔の広い男だ」
「バクスターねぇ・・・・・・」
ジュリエットは思考を巡らせていると電子ロックの解錠の音が鳴る。
「開きましたよ、閣下」
「では御開帳といきますか。扉を開けたら煙で爺さん婆さんになるかもしれんがな」
鋼鉄製の扉が開いていく。開いた瞬間に冷気を感じた、中はかなり冷されている様だ。
扉の中には棺の様な物が幾つもの横たわっている。そして棺の一つ一つに電子モニターが備わっていた。
近くには、円筒状の筒が何十本も積まれている。
ジュリエットがモニターを見ると、一定の間隔で反応している。どうやら心拍数を測っている様だ。
ロミオ大尉が円筒状の筒から中を引っ張ると、透明の小さな球体が幾つも出てきた。球体の中にはダイヤモンドの様に黒く輝く砂上の結晶が詰められてる。
「何ですかね、これ?」
球体の中身を取り出そうとするが見た目に反して丈夫な造りだ。
「開けるな、馬鹿者ッ!」
「え!?」
ジュリエットが急いで大尉の腕を掴む。球体は開く寸前だった。
「痛いですよ閣下?!」
「よく見んか、馬鹿者が!危うく全員の人生がゲームオーバーするところだ!」
ジュリエットが筒を指を指した。筒にはある絵柄が刻印されていた。化学兵器特有の黄色いドクロマーク。
「化学兵器って、これ全部ですか!?」
大尉の視線の先には、何十本どころか何百本の容器が積まれていた。更には同じ様に棺がある。
「黒いダイヤモンドの結晶・・・・・・致死毒の揮発性が高いガスだ。私も現物を初めて見るがな。何せ、第二次魔術大戦以来、あまりの殺傷能力で禁止条約にされた化学兵器だ」
アリスも初めてジュリエットの顔に驚いた。彼女の額に汗が流れ落ちていくからだ。それほどまでに、この化学兵器が危険だと分かる。
「でっでも、何で製薬会社の貨物エリアに積まれているんですか?!」
「私が知るか!沖縄・・・・・・海兵隊の旧普天間基地の兵器庫に保管されていたと噂があったが、日本に返還した際に処分したハズだ」
ジュリエットの思考は混乱した。化学兵器は能天気な合衆国軍人のミスか?それとも国防軍がか?最悪は製薬会社が造り出したのか。もしくは製薬会社が二か国の内、誰かと仲良しこよしか?
「あの、化学兵器の殺傷能力は具体的に?」
アリスが恐る恐る質問した。
「あぁ、指先だけの結晶量で、ここに居る我々は有無を言わさず死ぬ。結晶は揮発性が高くて口や皮膚呼吸からガスを吸い込むと、全身に激しい痛みが襲い、背骨が折れる程に苦しんで死ぬぞ。運が良ければ、最初に皮膚が溶ける段階でショック死するがな」
人さし指と親指だけで球体を摘みながら顔に近づけ薄ら笑いする。
「運が良ければって・・・・・・」
運が良ければ皮膚が溶けて死ねるに対して全然気休めにならない。
「筒一本での殺傷能力は一万人が死ぬ。ガスは残留性が高くて生態系を根こそぎ破壊しつくす。人間や動物だろうと情け容赦なくな」
「よく第二次魔術大戦で人間は絶滅しなかったね・・・・・・」
「そりゃそうさ。人間のしぶとさは、創造神もびっくりするくらいで、まるでゴキブリ以上だ。あの当時の化学兵器では殺傷能力も限定的だしな。もっとも第一次、第二次魔術大戦自体は魔術と科学の戦争・・・・・・持つ者と持たざる者の不毛の争いだ」
「持つ者と持たざる者?」
「気にするな、一人言だよ」
ジュリエットはそう言うと容器を元に戻した。
アリスが何気なく棺に触れると棺の一部が開いた。ガラスの壁があり思わず覗き込んだ。
「ッ?!」
思わず息を飲んだ。なんでここにあれが居る。
ガラス容器の中には彼女と同じ顔の少女。
アリスモデルだ。
なんで私が居るの?国防軍なら分かるけど、製薬会社と私に、どんな繋がりが?
「どうかしたか、アリス?」
「なっ何でもない!」
急いで扉を閉める。扉を閉める瞬間に一瞬見えた。
シリアルナンバー、1023号と。
私が千人以上も生産されている。沖縄の国防軍のデータでは、せいぜい100体も無かった。機械人形を造る為に更に少ないはず。
誰かが、この狂った狂想曲を弾き続けている。楽団員をいくら倒しても意味が無い、指揮者を殺さないと終わらないんだ。
エレメントソードを握る手に力が入る。
「さてと、バクスターとやらに聞きたい事が山程あるな。リーはどうなんだ?」
ジュリエットがリーを見ると彼は目をそらさなかった。
「俺は無意味な殺しは好かん。兵士が戦いで死ぬのは仕方がない、だが無実な人間を巻き込もうとするバクスターには聞きたい事がある」
「決まったな。反撃開始と行きますか」
ジュリエットはリー言葉に反感を覚えた。この世界に無実な人間は居ない。彼等は税金を国家に払い、国家は税金で弾やミサイルを買う。そしてそれらは敵を殺す。詰まりは彼等は間接的には合法殺人と言う名の元に協力している事を。
護衛艦あきかぜのソナーにスクリュー音が聞こえた。
「ソナーからブリッチ。艦隊前方から接近するスクリュー音あります。かなり高速で近づきつつあり」
「音紋は照合できたか?」
「待ってください・・・・・・。スクリュー音からして我軍のおやしお型と思われます。・・・・・・バラスト排水音がします、艦隊の目の前に浮上する気です!」
「旗艦に至急電、どっかの馬鹿が浮上するぞ!機関後進一杯!衝突警報!」
艦長の指示によりスクリューが後進全開になり衝突警報が鳴り響く。
護衛艦でも後進するだけでもかなり距離が進む。まして大型艦の大和型なら尚更だ。
左右に二隻づつ縦列に進んでいるために各々左右に転舵し大型艦の逃げ道を空ける。
海面から緊急浮上した潜水艦は大型艦の真横につける。
「潜水艦より発行信号を確認。サンボウホンブヨリ メイレイショアリ シキュウカクニンサレタシ と」
「どこの馬鹿たれだ!」
双眼鏡を奪い確認する。潜水艦には軍服姿の女性が二人確認できた。
大和の左舷に接舷し二人がブリッチに入って来るなり艦長が怒鳴り込む。
「貴様ら目の前に緊急浮上するとは馬鹿か!お陰で隊列がめちゃくちゃだ!」
「それは失礼しました、元艦長」
「元!?」
すると二人の内の一人が前に出て、鼻先に紙を突き付ける。
「参謀本部からの命令書です。現時刻をもって大和の艦長は私、天城麻里に交代となります。副長も交代し、霧島綾小佐が努めますので悪しからず」
「何を馬鹿な事を!?」
命令書を確認すると確かに交代の有無が書かれている。
「我々は艦隊司令部より命令を受けて作戦行動中だ。おいそれと従えるか!」
「何度も言いますが艦隊司令部は参謀本部の一指揮下の部所に過ぎません。我々はトップの意向で動いています。従えぬとあらば命令不服従で逮捕、拘禁することもできます」
「ふざ―――」
艦長が言おうとした瞬間に副長が押えこむ。
「わかった・・・・・・。命令に従う。目標まで、あと一時間たらずで目視できる。大和以下あきかぜ、ときかぜ、うらかぜ、いそかぜは戦闘可能だ」
「協力感謝します。我々の乗ってきた潜水艦に乗艦してください。横須賀までお送りしますので」
「・・・・・・感謝する」
短く礼を述べると元艦長と副長はブリッチを去った。
「霧島、全艦に艦内放送を」
「はい」
霧島がマイクを天城に渡す。
「艦長より達っする。参謀本部の命令により艦長は私、天城准将が指揮を取る。急な出来事で諸君らも戸惑うだろう。だがしかしテロリストが占拠したマーメイドプリンセスには化学兵器が持ち込まれたと言う情報だ。奴等を食い止める為にも諸君らの奮戦を期待する。以上だ」
マイクを置き、艦長の帽子を被る。すると霧島が、いかにもやる気の無い拍手をする。
「見事な演説でした准将。でもあの方も無理難題を押し付けてきますね」
「全く宮仕えも楽じゃないわ。でも流石は大和ね。合衆国製の船と違って作りが良い」
大和の羅針盤をなぞりながら言う。
「で、プリンセスをどういじめるのですか?護衛艦の対艦ミサイル、ハープーンで仕留めます?」
霧島の提案に天城は首を振る。
「そんな戦い方は大和に似合わないし、戦艦には戦艦の戦い方がある。主砲の46㎝砲をバンバン撃ち込んで跡形も無く沈めてあげるわよ」
見張員からマーメイドプリンセスを視認したと報告が入り双眼鏡で確認する。水平線に船の姿を確認でき天城は命令を出す。
「対水上戦闘用意!主砲、一番から三番は弾種、徹甲弾装填し一斉射する!護衛艦は僚艦と間隔を取りつつ対空陣形を取れ!」
艦長の命令が発令され艦内が一気に慌ただしくなる。護衛艦群は大和を中心に四方の角を型どり、大和は主砲を左に旋回し一斉射に備える。
「艦長。主砲一番から三番、弾種 徹甲弾装填完了。いつでも撃てます」
砲術長からの報告に艦長は懐中時計を開き合図する。
「撃ち方用意!」
艦長の言葉を砲術長が復唱し無線電話で砲手に伝える。
「撃てっ!」
夜明け間際の海が閃光の様に光り、轟音を轟かせ静かな海を切り裂いた。九つの流星がプリンセスに襲いかかる。