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上沙クリスティー編2 それぞれの思惑

「逮捕って何かの間違いででしょ?」

 大場の声に、不安が入り交じる。

「間違いではありません。国防大臣からの指示ですので」

 淡々した口調で答え、手錠を出す。

「ちょっと待ってください!いきなり逮捕だなんて、横暴です!」

 クリスティーの反論に「黙りなさい少尉!邪魔をするなら、あなた達も、ほう助の罪で逮捕します」

 憲兵が銃を構え、安全装置を外す。

 見かねた大佐は頭を掻きながら「さっさと手錠を掛けろ」

「大佐!?」

 クリスティーも同様する。いつもの大佐らしくない

「大場、後は頼むぞ」

「わかってる」

 手錠を掛けられ、車列は出発する。

 大場が憲兵隊の女性に「小佐、失礼ですが、何処に勾留するのですか?」

「軍規に付き答える義務はありません」

「国家反逆罪なら、どういった内容なのですか?」

「そちらも答える義務はありません」

「軍法会議なら、弁護人を立てる権利が保証されているはずです。勾留場所がー」

「くどいぞ、大尉!全く、()()()()()()()()()()()()ですね」

 小佐の車が出発する。

 走り去る車を見つめ、大場は「いつまでも、私達が従うと思わないでよ」決意の言葉を、そっと呟く。

「大場大尉、どうします?」

 村正の問いに「取り敢えず、国防省の山本元帥閣下の力を借りましょう。一応民主国家なら、裁判無しで、いきなり銃殺刑も無いと思うし」

「了解です。それと、この子達はどうします?

 」

 機内に隠れている、ウララとクララを見る。

「官舎じゃまずいから、取り敢えず、市内にあるセーフハウスに連れて行きましょう」



 国防省に向かう車内。

 クリスティーが「あの、大場大尉。さっき兄が兄ならって言ってましたけど・・・・」

「あれね。十年前の開戦反対派が、先代の戦隊長なら、開戦派は私の兄だったのよ」

「え・・・・」

「これは軍機密なんだけど、グラウンド・ゼロの数時間前に軍が、クーデターを起こしたのよ」

「クーデター!?」

 初耳だった。クーデターなんて噂も無かった。

「僕、聞いた事ありますよ。その時は、三鷹要塞に居たんで、現場には居なかったですが」

 車を運転しながら、村正が答えた。

「開戦反対派の首相に直談判して、開戦を訴えたんだけど、鎮圧に向かった部隊と戦闘になって、結局は自決したわ」

 窓の外を見ながら「兄としては、優しかったのよ。婚約者が結晶病にかかって亡くなるまでわ・・・・」

「結晶病って、魔術師特有の不治の病ですよね」

「そう。魔力が流れる血液が、結晶化して死に至る病よ。軍でも研究していたんだけど、グラウンド・ゼロで研究者は亡くなってしまって、研究資料がある都心部は、隔離区域で持ち出せないし」

「大尉、着きましたよ」

 国防省の入り口に着く。門の外は、10式戦車を左右に置いて、警備兵が近寄る。

「参謀本部の村正小佐だ。山本元帥に面会を取り次いで欲しい」

「失礼ですが、IDの確認します」

 運転席から三人のIDを出す。警備兵が詰所の電話で確認している。

「警備がやけに厳重ですね・・・・」

 警備兵から緊迫感を感じる。

「二人供油断しないで」

 大場が、腰のホルスターから拳銃を取り、安全装置を外す。

「小佐、IDをお返しします。元帥閣下からの伝言で、一階の大広間で待てと」

「わかった」

 車が省内に入り、車寄せに停める。

 車寄せに一人の老人がいた。胸に幾つ物、勲章を付けた人物、山本元帥だ。

「久しぶりじゃな、大尉。ますます大人の女性になって」

「お久しぶりです閣下!閣下こそ、お元気そうで何よりです」

「まだまだ若いのには、負けんさ。こんな場所じゃなんじゃ、私の部屋に行こう」

 元帥に促され、エレベーターに向かう。すれ違う兵士達が次々に道を空け、敬礼する。

 国防省の上層階に、高官達の部屋があり、元帥の部屋は最上階だ。

 部屋の中は、大きな窓ガラスに、応接用のソファーがあり、中央奥にデスクがある。

「さて大尉、私に話があると?」

「はい。実はー」

 大場は、これまでの経緯を元帥に話した。

「大方は分かった。私のつてで探らせよう。しかし、憲兵も横暴になったものじゃな」

「閣下には、ご迷惑をおかけしてばかりで」

 大場が頭を下げ、二人も下げる。

「何いいさ、私も彼は好きだしな。残念ながら軍内部では、講和を進言する高官は私だけになってしまったがな」

 顎をさすりながら、窓の外を見る。

「やはり講和は、難しいと?」

「まあな。今更ながら、クーデターの一件で軍の政治への発言力が低下して、今じゃ政治家の言いなりなんだ。軍人は軍人で、冒険心に駆られ、悪戯に戦線を拡大している現状だ」

「兄の一件が、そこまで・・・・」

「大尉が気にする事ではないぞ。彼も彼で、自分の正義を信じて行動したんじゃろうからな。ただ時代が悪かったんじゃ。今じゃ報道機関も政治家の言いなりだ」

「報道機関も?」

「数ヶ月前に反戦集会が開かれたんだが、憲兵隊が鎮圧したんじゃよ、国家反逆罪でな。鎮圧に際し抵抗する者は、問答無用で逮捕し、市民を守るハズの警察は見て見ぬふりだ。報道管制で一切、表に出ていない」

「軍がそこまで・・・・」

 大場も驚きを隠せなかった。クリスティーも驚きだった、国民を守るハズの国防軍の真実に。

「おまけに、私の預かり知らぬところで、新型ドローン(戦闘人形)を開発しているって話だ」

「新型ですか?」

「詳細は分からないが、従来のドローンよりも優秀で強力な兵器と噂されてるがな。試作機は沖縄で実験中と聞くぞ」

「大場大尉、沖縄だと・・・・」

 クリスティーから報告があった、ギャラクシーの積荷が気にかかる。

「しかし閣下のドローン嫌いは、相変わらずですね」

「当たり前だ。間違った表現かもしれんが、人は同じ人によって殺めなければならん。ドローンに頼っていたら、人を殺す躊躇いや葛藤を忘れ、私達が本当の戦闘人形になってしまう」

 元帥の言う通り、人を殺す躊躇いや葛藤、悲しみを忘れた暁には、人間は本当の意味での戦闘人形になる。

 部屋の扉が開き、副官が入る。

「閣下、そろそろ次の面会ですので」

「もうそんな時間か、若い連中と話すと、夢中になってしまうな」

「では閣下。例の件、よろしくお願いいたします」

 三人は敬礼し、部屋を退出する。


 時間は少し坂登り、市内を走る大佐達の車内。

「何処に連れていく気だ、勾留施設は過ぎたぞ」

 手錠を掛けられているが、足を組み、質問する。

「私は大佐を、連れてこいと命令されただけなので便宜上、逮捕しました。お陰で残存部隊のお怒りは、回避できたのでは?」

「演技で国家反逆かよ、くだらねぇ」

 景色が市街地から山々に移り変わり、巨大な鉄扉が現れる。

「着きました、大佐。ここからは目隠しをして、歩いて頂きます」

 車から降ろされ、目隠しをする。

 エレベーターでかなり、地下に潜っている感覚が伝わった。

 硝煙の香りが、鼻につくが、一番は血の臭いだ。

「よく来てくれた、大佐」

 若い男の声だ。

 目隠しを外され、光が眼に刺さる。

「藤原准将・・・・」

 藤原准将と言われた人物は、長い黒髪を三編みに束ね、細く鋭い眼孔。

「今更ながら、弟が世話になったな」

「藤原戦隊長の兄が、俺に何の用ですか?」

「そう敵意を剥き出しにするな。お前達の次の作戦の仕上げに、使って貰いたい物がある」

「物?」

「そう物だ」

 准将が合図し、部屋の照明がつく。

「これは・・・・」

 大佐の目の前に現れたのは、ウララとクララに瓜二つな存在が九体ある。

「時条さなえの研究は知っているな?これは、その研究の進化版だ。機械人形に魔力結晶を組み込んだだけでは、魔術は使えない。魂と呼べる存在がないからな」

「まさか、准将・・・・」

「恐い顔をするな。たかだかクローン人間だろ。クローンの記憶、即ち魂を記憶結晶に落とし込み、機械と組み合わせて作った。魔術を使える戦闘人形だよ。外観は生体組織で覆い、内部は機械で出来ている」

「イカれてますよ、准将」

「確かにイカれてるな。一つデモンストレーションを見せてやる」

 奥の扉が開き、人間が入ってくる。

 ウララとクララのクローン二体だ。

 戦闘人形が一体、起動し太刀を握る。

 ウララが銃を抜き、戦闘人形に連射しながら、鉈を持ったクララが、走り出す。

 弾は、戦闘人形の結界に阻まれる。その隙にクララが背後に回り込み、鉈を振りかぶる刹那。

 戦闘人形が、神速に近い一振りで一回転する。

 クララが一瞬止まった様に見えたが、頭が地面に落ちた。

 続けて、腰から大型拳銃を引抜き、ウララに向けて一発放つ。

 弾は、結界を簡単に貫通し、結界の内側にウララの血が飛び散った。

「どうだ?生体兵器よりも遥かに強力なスペックだろ」

「・・・・」

 地面に転がる頭、飛び散った血。

「魔術師狩りの戦闘人形だ。お前達の次の目標は奴だと聞いてな。この戦闘人形なら、お前達烏に匹敵する力がある」

「こんな殺人機作って、准将の目的はなんです?」

「・・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、見るのも堪えんから、消えて欲しいんだよ」

「弟にくれてやった!?」

 先代の戦隊長が、私の護衛役って言ってた少女がいたな。そう参謀本部からの抹殺命令が出ている少女に似ている。

「あなただったんですね・・・・」

 思い出してきた。先代に付いていた、あの少女だ。初めて会った時は、無表情で冷たい翡翠色の瞳で、桁違いの力に恐怖を覚えた。

「あの女・・・・ジャンと名乗っている人形は、十年前に俺が召喚し、弟にプレゼントしてやったんだ」

 頭が混乱し、無言の時が過ぎる。

 不意に准将の携帯が無言を断ち切った。

「私だー」

 電話の内容が気に入らないのか顔が曇り「分かった。こちらが連れて行く。そうだ、ここを明かす訳にはいかないからな」

 電話を切り、溜息をつく。

「大佐、良い副官と友人を持っているな。お前を解放しろと言ってきた」

「そりゃどうも。俺の数少ない、背中を預けられる存在なんでね」

「こちらが国防省まで送る。悪いが、手錠と目隠しを、またしてもらうぞ」

「ご自由に」

 両手を差し出し、手錠を掛け目隠しをする。



「国防省に着いたら、参謀本部のお偉方が、お前に話があるみたいだ」

 大佐の目隠しを取り、煙草を差し出す。

「俺も、作戦概要を読んだが、爺いどもが怒るのも無理ないがな」

 自分の煙草にも火を着けて、吹かす。

「そりゃどうもすみませんね」

 子供の様に、拗ねた反応をする。

「機甲師団に航空支援、海上からのミサイルに極めつけは、装甲列車の投入・・・・戦争を首都でヤル気か?」

「このくらいやらないと、任務達成率が上がらないもんでね」

 国防省の門を通過し、入り口前に人影が見える。大場達だ。

「これは、藤原准将。わざわざ准将閣下が、お送りとは、驚きです」

 皮肉を込めて、笑顔で大場が迎えた。

「ご挨拶だな。お前らの隊長は、無傷なんだから文句を言うな」

 煙草を地面に投げ捨て、火を消す。

「憲兵隊まで使って、不確かな証拠で逮捕するんですから、言い分はありますよね?」

「相変わらずだな。むしろ感謝して欲しいくらいだ。残存部隊の連中に殺されずに済んだんだからな」

 准将の鋭い目が、クリスティーを捉える。

「こいつか。次の作戦で使う()()は。お前の秘蔵っ子だと聞いたぞ?」

「一応」

「上沙クリスティー少尉です」

 敬礼すると、准将は、煙草にまた火を着ける。

「上沙・・・・上沙クレト小佐の娘か?」

「上沙クレトは、父ですけど。ご存じなのですか?」

「親しき仲ではないがな。そうか、クレト小佐の娘か・・・・()()()()()()になりそうだな?大佐」

「なんだったら、准将も参加されます?()()()()()()()()()?」

 准将は車に乗り込む。

「冗談だろ。それと例の作戦は、俺からも上申書を出しといてやったからな」

「准将のお墨付きなら安心ですね」

「言うは安しだな。出してくれ」

 運転士に合図を出し、走り出す。



 国防省の階段を上がって行く。白い床が、ブーツの音を響かせる。

「大場達は、控え室で待っていろ」

「分かったけど、大丈夫なの?」

「最悪、クビだな。未払いの給料と年金で、引退生活でも送るかな」

「また・・・・失敗なら、年金は無いわよ」

 大場が、溜め息を着く

 大扉の前に立つ衛士が敬礼し、扉を開ける。

「申し訳ありませんが、ここから先は、大佐のみです。お連れの方は、控え室に」

 衛士に促され、控え室に向かう。振り向き様に大扉が閉まるのを見届けた。

 会議室の中は、煙草の煙に包まれていた。この会議室の中で、作戦が決められている。

「沖縄方面の第一歩兵師団の、損耗率が四割を越えているぞ!いつになったら、交代の師団を回すんだ?」

「再編成を終えたばかりの、第七師団並びに第十機甲師団を手配している」

「連邦の大規模侵攻作戦も近いと聞くぞ!北海道に展開中の部隊だけで、防ぎきれるのか?」

 参謀肩飾を着けた男性達が、机を叩きつけながら議論している。

 机の中央奥に座っている、老人が大佐に気付いた。山本元帥だ。

「諸君、白熱した議論は、一時中止だ。大佐の作戦概要について議論しよう」

 大佐に視線が集まる。

「大佐。君が立てた作戦内容はなんだ?新編成の機甲師団に航空支援は、F35BにAC130ガンシップも投入し、極めつけはイージス艦による攻撃。首都で戦争をする気かっ!」

 参謀の一人が声を荒らげる。

「お言葉ですが、少なく見積もった方です。正直、これでも勝てるか、分かりません」

「なんだとっ」

「これは、独自に調べましたが、どういう訳か例の標的は、十年前にも抹殺命令が下されています。おまけに、我軍に在籍していた記録も有り、作戦には、当時の特殊作戦群、八咫烏の隊長以下数名で作戦にあたりましたが・・・・結果は、全員死亡です」

 会議室が鎮まりかえる。

「貴様、機密ファイルにアクセスしたのかっ!」

「越権行為で逮捕だ!憲兵を呼べ!」

 有象無象の罵倒を浴びせられる。

「うるせぇぞ、爺!俺は部下に死ねと、命令できねぇって、言ってんだろっ!」

 大佐の怒りの言葉に、参謀の一人がコーヒーを地面に落とした。

 参謀達の呆気に取られた顔つきを見て、元帥は、溜め息をつく。

「諸君。議論が白熱するのは結構だが、個人を中傷する場では無い。大佐も言葉には、気をつけたまえ」

 元帥の言葉に、参謀達も顔を見合わす。

「これは、十年前の作戦映像になります。場所は、東京駅前広場の監視カメラの映像です」

 モニターに映像が、映し出される。日付は、十年前の十二月二十四日と出ている。

 雪が降り、金木犀の少女と軍服の男性が向かい合っている。直ぐ様、互いの剣を撃ち合い、撃ち合った衝撃波で、映像が途切れた。

「過去の作戦結果並びに、映像から分析するに標的の戦力は、計り知れません。よって、間髪入れずに攻撃し、魔力切れになった所を、我々が仕留めます」

 元帥が咳払いをし。

「私としては、大佐の提案書を許可したいと思うがな。先代戦隊長の兄、藤原准将の上申書もある。あの一家は代々軍人家系で、政府に多額の献金もしとるから、無下にも出来んだろうに」

「元帥が仰るなら・・・・しかし、機甲師団や航空支援部隊を何処から用意しますか?」

「航空支援部隊は、百里基地からだして貰いたいですな」

「首都防衛の基地から出せませんよ。東北方面軍の三沢基地から出せませんか?」

「無理言わないで下さい。三沢基地は、北海道戦線の要なんですから。関東方面軍は、余剰戦力があるのでは?」

「うちですか?駄目ですよ。部隊が壊滅したら誰が、首都防衛をするのですか?」

 終りのない議論が続く。大佐が貧乏揺すりを始めた瞬間、元帥が机を叩く。

「新編成の機甲師団は、元々関東方面軍の部隊編成だから、関東方面が。航空支援部隊は、百里と厚木から出す。異論は無いな?」

 会議室の全員が頷く。

「よろしい。では解散するとしよう」

 会議室の大扉が開き、次々と退出していく。

 外には、大場達の姿あった。

「怒鳴り声が、控え室まで聞こえてたわよ。で、作戦は許可されたの?」

「一応な。責任を取りたくない責任者達にしては、早いほうだ。生娘は、どうした?」

「上沙ちゃんなら、外に待たしてるわ。今更ながらなんだけど、写真に写っていた少年って、藤原隊長の子供じゃないよね?」

 大佐の歩みが止まる。

「そうだ。情報部からの調査でも、確認が取れている」

「だったら・・・・もしかして、あの子を囮にする気!?」

 此方を振り向かず、無言のまま。

「怪我でもさせたら、()()()に殺されるわね」

 国防省から出ると、クリスティーが車を待たせていた。

「遅いですよ、大佐」

「ガキのお守りをしてんだから、大変なんだよ。お前みたいな、小便臭い小娘は、お気楽でいいよな?」

「誰が、小便臭い小娘ですかっ!?」

「お前だよ、お前。悔しかったら彼氏の一人でも二人でも作ってみろってんだよ!あ、でも無理か。その裏山程度の胸じゃ、魅力がないもんな」

 大佐の視線が、クリスティーの胸元に移り、鼻で笑う。

「な・・・・。私はまだ、成長期なんだから、いいんですよ!」

「成長期?寝言は、寝て言え!お前の成長期バブルは、崩壊してんだよ。分かります?バブル崩壊、急降下!」

 すれ違う人達の視線が集まる。痛々しい人を見る様な視線。

「上沙ちゃん、光ちゃん・・・・それくらいにしてもらえる・・・・これ以上は、知らない人の振りをしたいわ」

 頭を抱えてしまう。

「はい・・・・」

 雲が暗くなり、街を覆う。

 大場がハンドルを握り、走り始める。

「村正の奴は、何処に行った?」

「村正君ならセーフハウスに、二人を連れてったわ。例の場所に向かう?」

「頼む」

 窓の外の、風景を見つめる。首都機能がある、立川市や八王子市は、戦争は、自分達には無縁と思っている人々。

「例の場所?」

「グラウンド・ゼロで、亡くなった人々が、埋葬されている共同墓地・・・・慰霊地よ。上沙ちゃんも、久しぶりにお父さんに、挨拶した方がいいわよ。生きている内にしか、出来ない事もあるから」

「そうですね・・・・」

 雨が降りだし、対向車のヘッドライトに反射する大場大尉や大佐の思い詰めた表情が、印象的だった。

 最後にお父さんに会ったのは、随分と前だ。軍に入隊した以来かもしれない。



 慰霊地は、立川市の工場跡地を整備して、造られた。広大な敷地の真ん中に慰霊碑があり、周りを囲むように墓石がある。

 慰霊地の駐車場に車を停める。駐車場には、一般の車も多く停めてあり、今なお、故人に会いに来ている人が後を絶たない。

「俺は、会う人物がいる。ここからは、別行動だ。ちゃんと挨拶してこいよ」

「はい・・・・」

 傘をささずに、軍帽を被り歩き出す。

 雨の音に二人の足音は、かき消される。

 ある人の墓石の前に立つ。直ぐ隣にもうひとつの墓石。

 墓石に花を添える。

「随分と、久しく来ていませんでした。怒らないで下さい。あなたに助けて貰い、今日まで何とか生きてこれました。戦争を止める為に色々と手を尽くしてきましたが・・・・これからやろうとしている事に、あなたは軽蔑するかも知れませんね。もし・・・・そっちの世界に行ったら、仲間に加えて下さいよ」

 墓石に敬礼する。

 名前は、藤原睦月と刻印されていた。

「これが、彼のお父上の墓でしたか」

 青白い肌に、子の場に似つかわしくない西洋貴族の服装。

「お前が、エリオットか?」

「いかにも。貴方の部下の大場さんが、会いたいと、連絡くださいまして♪」

「睦月さんの知合いにしては、奇抜な野郎だな」

「奇抜とは失礼しますね♪睦月さん、いえ・・・・私も、先生の教え子の一人なんですよ、もうちょっと愛想よくしてもいいのでは?」

「ゾンビみたいな野郎と仲良くする気は無い。それより、此方の要望は、呑むのか呑まないのか?」

「此方としては、条件を飲みますよ。戦力が増えるのは、歓迎です。ただ・・・・一つだけ条件があります」

「条件?」

 帽子の鍔から、大佐の瞳を見る。

「えぇ、こちら側からは、戦場の設定をグラウンド・ゼロの隔離地域にして下さい」

「テメェ、足元見やがって・・・・」

 隔離地域は、軍の厳重な統治下だ

「この案は、ある方の案ですよ。恐い顔をしないで下さい。余計な傍観者が居ない方が、やりやすいですし、今回のお膳立ては、こちらが割りを食っているのですから。おまけに、あなた方が保護した二人の医者だって手配したんですよ」

「いいだろう、申請しといてやる・・・・だが、なんー」

「何でそこなのか、ですか?私は、知りませんけどね。聞かれたら、こう伝えろと。・・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と」

「知りたい事か・・・・俺からも、伝言をいいか?」

「どうぞどうぞ♪」

「くそったれ」

「あ~。一応、伝えておきますね♪」

 エリオットは、お辞儀をして、雨の中に消えて行く。大場が、大佐の元に歩み寄る。

「どうだった?」

「大方の条件は、呑んでくれた。ただ、戦場の設定をグラウンド・ゼロの隔離地域にしてくれと」

「随分と高く付いたはね。考えようによっては、事が上手くいく可能性があるけど」

「だと良いがな。今回は、村正、上沙、お前と俺で仕留める。他の八咫烏メンバーが絡むとヤバくなる、特に(しずく)辺りが出てくるとな」

「確かに・・・・参謀本部の勅命を承けたって言って、秘匿行動してるし。他のメンバーは、各戦線や機密作戦に従事したって、裏が取れたけど。バレたら良くても、LEVEL-5の刑務所行き、最悪は死刑になるわね」

「うだうだ考えても仕方ないだろ。全ては、タイミングだ。酷な話しだが、死ぬよりマシだ」

 墓石に一瞥し、雨の中を進む。



 クリスティーも、父の墓に足を進めていた。入隊時に挨拶した以来だ。埋葬時は、雪が降り、儀仗隊の弔砲を思いだす。

 お母さんは、遺体すら入っていない棺の前で泣く私を、慰めてくれていた。軍から、渡された遺品には、二階級特進して小佐の階級章と、お父さんが、御守りっ言って肌身離さず持っていたコルトガバメントM1911の拳銃のみだ。他の私物は、隔離地域の中で持ち出せないと言われた。

 墓石の前に花を添える。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 あの時も、いつまでも泣いている私に、彼女が話してきた。

「可哀想に、お父さんを殺した奴が憎いでしょ?」

「えっ!?」

「あらあら、怖がらないで大丈夫。貴女の力になりたいのよ」

 微笑みながら、幼女は顔を覗き込む。赤い瞳に、雪の様な白い肌。

「私だったら、貴女の力になれるわ。お父さんを殺した悪魔を倒す力を、あなたに授けるわ」

 そっと耳元で囁く。悪魔の囁きの様に優しく。

「ほんとう・・・・?」

「勿論よ。契約を結べば、貴女は悪魔を倒す力を手に入れられるわ。でもこの力は、貴女を孤独にしてしまうけど、いいかしら?」

 女の子は、迷いなく返事する。

「うん」

「なら契約を結びましょう。貴女に聖痕を刻むわ。貴方の願いは、叶うから安心して」

 幼女の瞳が赤く光り、女の子の右目を離さない。

 幼女は、消えて、女の子はうずくまっていた。起き上がり、雪融けの水溜りに写った自分の顔に驚いた。右目が赤く光り、瞳孔には十字が刻まれていた。そして手元には、二本の剣が落ちていた。

 ホルスターからガバメントを抜く。雨に濡れながら、銃を胸元に寄せて抱き締める。

「待っててね、お父さん。もうすぐだから。もうすぐ、あの悪魔を殺すから・・・・。お父さんの銃で必ず、あの悪魔を地獄に落とすからね」

 薄ら笑いながら、右目が赤く光り、墓標に誓う。目元から滴が流れ落ちる。それが雨なのか、それとも報われない涙なのか。



 国防省の別室に一人の女性士官が呼ばれた。

 黒い制服に、栗色のロングヘアー。古き時代の木製ライフルを肩に掛けている。

「秋山滴大尉、只今帰投しました」

 部屋の中には、男性が二人いる。一人の佐官服の男性が促す。

「ご苦労、秋山大尉。掛けてくれたまえ」

 秋山がソファにライフルを立て掛け、座る。

「君も知っているだろうが、参謀本部は、近々大規模な作戦を展開する。そこで君には、浦賀中将からの特命をやってもらう」

 男性佐官が書類を秋山に手渡す。

 何枚かめくり、秋山が笑い出した。

「本気なのかよ?参謀本部のガリ勉連中は、頭の中が、スポンジケーキになっちまったみたいだな」

「貴様っ!言葉を慎め!」

「あ?」

 秋山の鋭い眼光が睨み付ける。直ぐ様、浦賀中将が制止する。

「構わんよ。承けてくれるかね?」

「いいわよ。いい加減に沖縄の泥沼には、反吐が出るし。雑魚をプチプチ殺すのも、飽き飽きしてたから」

「結構だ。自由に動いて貰って構わんよ。但し、確実に仕留めて貰うからな」

 秋山がライフルを肩に掛けて宣言する。

()()()()風穴を空けて、面白オブジェにしてあげるわ」

 秋山の置いていった書類には、三名の顔写真が供えられていた。

「彼女は、使えるのかね」

 浦賀が、葉巻に火を着けながら尋ねた。

「は、実力的には、申し分ありません。性格にやや難がありますが、大丈夫かと」

「よかろう。なるべく早く済ませたい物だな。近頃、合衆国軍の動きが怪しい。新任駐在武官の、確か名前が―」

「ジュリエット・ホーク准将ですか」

「ホーク家と言えば、合衆国建国の一翼を担った名家だ。近々、首相と面会すると言うしな」

「密偵を放ちますか?」

「いや、やめておこう。下手に動くと、教会の連中を怒らせるからな。藤原准将の戦闘人形もある。いざとなれば、役に立つだろう」

「既に輸送機に搬入済みとの報告があがっています」

「うむ。今度こそ、10年前の決着を着けたいものだ」

 葉巻を灰皿に置き、白い煙りが漂う中を進み、雷鳴轟く首都を見る。























































































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