プロローグ 終わりの始まり
そよ風に吹かれ血の匂いが鼻につく。
周りの風景に目をやると、おびただしい程のかつて人と呼ばれ形を成していた者達が四方に散乱して、その者達の中に一人の少女が佇んでいた。
清流の流れの様な髪を後ろでに結び、朝日に照らされた金木犀の花色の髪。翡翠色の瞳に、その年頃の少女には似合わない返り血を浴びた甲冑を着て、剣先に赤き物が滴る漆黒の剣を手に持っている。
少女は神に祈った、大切な物を護る為に力が欲しい。
大切な人を蹂躙する者達が憎い、殺してやると。
そして世界の悪に打ちひしがれている少女の耳もとで声が囁いた。
両膝が地に着いた状態で、おぼろげに顔を上げて絶望という世界に目をやると、一人の白き衣を纏った幼女が彼女の目の前に佇んでいる。
「あなたの大切な人を蹂躙する者達が憎いの?」
「憎い・・・」と少女は呟いた。まるで願い事のように言葉にあらわした。
「契約を交わせば、私があなたの願いを叶えてあげる。魂の契約を結べばね」白き幼女は答た。
「ならば契約する!我が魂を、貴様にくれてやる」若き騎士少女は答えた、もはや助かる道はそれしかないと考え、たとえ見せかけの希望でもすがる思いで。
「契約の証にあなたの目に聖痕を刻むわ、この力はあなたを孤独にし生き地獄を刻むわ、でも安心してちゃんと願いは叶うから」薄ら笑いをしながら幼女は言う。
騎士少女は天空を見上げ、薄暗い雲の中から差し込む希望と言う名の光に手を伸ばす。手を伸ばした先にあるのが、たとえ自身の望んだ結果と違うと分かっていても、見せかけの希望にすがるしか彼女の道はなかった。
手を伸ばした先に漆黒の剣が握られている。
騎士少女は剣から与えられる力と言う名の殺人衝動を感じた。理性なんか無く本能的に駆られる殺人衝動を。
剣を一振りするだけで、赤黒い衝撃波が人という存在を紙切れの如く刻む。
人の身の丈には余りある力に騎士少女は歓喜しる。
少女は気づき初めた、憎き者達を狩り尽くした剣は新たに血を求め、大切な人達に剣先が向かい初めている。
「やめてやめてやめて」
少女は心の中で必死に叫んだが、剣に支配された右手がまるで一つの人格を有してるかの如く大切な物達を刻みつけた。
そして最後の一人に剣を振り上げていた。
振り上げた先に倒れこんでいたのは、最愛の妹。「姉上・・・やめてください・・・」
剣に振り下ろしながら、行動とは裏腹に渾身の願いを叫ぶ。「やめろっーーーー!」
彼女は世界の願いに答え、世界は彼女の願いに答えなかった。