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ばーじょん情報  作者: のーふ
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 二人の興奮は席に着いても跳ね回る。SHR中もまた収まることはなかった。なんの変哲もない時間を終え、智己は決心する。


「先生、今日は少し体調が優れないので外にいてもいいですか」


「そうか、無理はするなよ。もちろん止めない。近々テストがあるってことだけは頭に入れとけよ」


「はい、ありがとうございます」


 担任の福田雅之(ふくたまさゆき)は学校での智己の精神的な支えをする一人だ。彼の現代文の授業と口調は賛否両論。また怒るポイントが難しい。


『例えがかけ離れていてよく分からない。授業が面白くない』

『福田先生の例えはかなりしっくりくる。聞いてて理解しやすい』


 彼を好む人は少ない。しかしコアなファンは存在し、智己もそれに該当する。

 そんな先生の善意に漬け込んでいることは智己も理解しているのだが、不幸な自分に褒美を与える。今までの災難を考えれば多少のアメもいい。


 休憩中に、出してもいないかばんの中の少ない教材を確認して教室を出る。三日目にもなると、メディアでのように全くの興味をなくしたように話しかけるものはいない。傷つく場面であったが、前の自分を取り戻したようで少し智己の気が楽になった。


 教室を出て、目当ての部室を探す。小学校の学校探検や家電量販店のおもちゃ売り場を歩く時のようにこれから入る部活に期待が膨らむ。

 校舎の近くの運動部が集まる部室棟ではなく、離れた文化部の人気(ひとけ)のない別棟を目指す。


 鉄筋コンクリートで出来た棟の階段を登ると、茶道部、書道部、合唱部、とどれもメジャーではあるが練習場所が別であるため部室を物置にしている。その中に『人工知能(AI)研究部』と小さな標識のかかる部室が最奥に佇む。


 扉に近づいてみるとキーボードを素早く叩く音が聞こえる。何も知らない人がここを通れば怪談にでもなるだろう。

 簡易的でありふれたデザインの扉につくドアノブを恐る恐る握って回す。


 中にいた香枝と智己は互いに存在を察知するとそれぞれ違う意味で驚くこととなった。


「失礼しまーす……」


「し、白河くん!?」


「か、かかかかか香枝先輩っ!?」


 香枝は部室に今まで人が来るはずがないと断定していた。そのため部室はほぼ自分のプライベート空間。コンクリートの上に絨毯をしき、壁と天井以外の雰囲気は女子の部屋となっていた。誰もいないことをいいことに部室は散乱し、制服は脱ぎ捨て、下着しか身にまとっていない状態で寝そべってキーボードを叩く。見られたら即死の最低限装備だった。

 智己は常識的な考えでただパソコンと椅子があり、ひたすら香枝が向き合っていると思ったのだ。期待は裏切るも智己に恩恵を与えた。もちろん智己は女子がプライベートを満喫している時に関わったことがないためマニュアルがない。


 なにも意味もない時間を共有し、その時は静寂となってただ流れる。


「お……」


「お?」


 香枝は下を向き正座をして来客の智己に対面する。顔は髪で隠れ、膝に乗る手は固く握りしめられ小刻みに震えている。右手は胸に、左手は床につき正座する足で挟んで大事な部分のみを隠している。しかしたわわに実った胸は隠れ方を知らなかった。

 智己は驚くも目と香枝の間に手のひらを挟んで自ら視線を遮る。

 沈黙を破った香枝の発言した文字を智己は聞き直す。


「襲わないでぇ!」


「襲いませんよ! はやく服、服!」


 顔を赤くする香枝は智己が獣の様に襲うことを恐れて叫ぶ。智己にそんな勇気は当然なく、否定して服を着るようにひたすら促し続ける。



 制服をようやく身につけた香枝はようやく自我を取り戻して改める。智己はやはり脳裏に刻まれた記憶を忘れ去ることは出来ず、香枝に心で謝りながらも勝手に脳内で再生し続けた。


「先程は失礼致しました……。改めて、私は一応二年一組の五藤香枝です。AI研究部で部長を務めているつもりです。よろしくね」


 丁重に挨拶を始めながら自分のテンポを取り戻していく。代わりに、よろしくね、の時の香枝の笑顔は智己のリズムを崩させて惹く。


「先程はノックもせずに失礼しました……。僕は一年三組の白河智己です。あの、ほんとにすいませんでした!」


 最低限だけ話し智己は自己紹介を止める。ラッキースケベに遭遇したことを喜ぶ一方、初対面の女性、ましては全男子高校生の憧れの的の女子の露出を見てしまったのだ。後ろめたさが嬉しさを超えて謝らずにはいられなかった。敵も作りたくなかった。


「……。うん、白河くんは悪くないよ! いつでもいいと言ったのは私だからね。だから気にしないで! ……それとももっと見たかったかい?」


 うりうり、と体を近づけて効果バツグンに智己の緊張をほぐす。上目遣いや不用心に外れた制服のボタンが逆に視線を散らせる。ますます彼女を気にしてしまうのは仕方がなかった。

 香枝は智己に一目惚れ、などではなくただ気ままにいつも通りに接しているだけだった。先程の出来事は家で日常茶飯事化しているため本人はほとんど気にしていない。


「こほん、それでは新入部員歓迎会をしまーす! ぱちぱちぱちー。この度入部することになったぁー、白河くんでーす! よろしくね! ささ、こちらをどうぞどうぞ。はい、かんぱーい!」


 突然ボクシングの選手が入場する時のような口調で誰もいない空気相手に紹介する。ダンボールの中にあった缶ジュースとポテトチップスをあけて差し出す。


「か、かんぱーい」


 唖然する智己は言われるがままに缶ジュースを手に取りあぐらをかいて座る香枝と乾杯をする。

 香枝は緊張をほぐす狙いと歓迎という意味でこの会を開いている。しかしほとんど彼女と初対面の智己は何が始まるか分からない不安とささいな期待が取り巻いている。

次話は歓迎会の続きです

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