Ver.0.0.2 "スペースキー"
今回は智己くんが学校を休んでしまったので、空白の一日です。次回は少し恋愛要素が入るかもです。お楽しみに。
時はいつも通り平等に訪れた。彼が深い眠りから意識を取り戻したのは次の日の正午だった。玄関と部屋を結ぶ廊下で寝ていたため、体を痛める。
通っている学校の登校時間は軽く過ぎており、昼食をとる時間になっている。
ストレスのせいか、頭が痛く腹も減らない。これは持病かもしれないが学校に行く気にもならなかった。
静かな部屋に電話の鳴る音が響く。することもなく無視するのも気が悪くなり、部屋にあったパソコン台の上にある子機を手に取って出る。
「もしもし? 智己くん?」
「はい」
電話の相手は叔父だった。昨日とは違い、睡眠を取ったため落ち着いている。
「叔父さんだけど、大丈夫かい? 昨日のことはその……なんというか……災難だったね……」
高校生に社交辞令を使う事に違和感を持った叔父は紛らわしながらも心配する意を見せる。
「今回の事件の書類とかはこっちに任せてほしい。多分大人じゃないと出来ないし、少しでも力になれればいいと思うし」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
素直に感謝の意を述べる。両親がいないため、頼れる人と名乗り出てくれるのはありがたかったのだろう。
「あと、生活はどうする? 学校は行けるようになってからでいいけど、一人暮らしは大変じゃない? 良かったらうちで一緒に暮らすかい?」
叔父は共に生活することも提案する。智己の家事スキルはほぼ初期ステータスだ。同居すれば家事の負担は無くなる。しかし一緒に生活するのも気まづく、常に心配をかけられるよりはマシだと考えた。一人暮らしも小さい頃からの夢だった。
「ありがとうございます。ですが、そこまで頼りにするのも悪いのでこのままで大丈夫です」
叔父は何度か智己の遠慮を否定したが、頑なに引き下がらない。電話越しに何度か一人で頭を下げていた。そして最後にもう一度感謝の言葉を添えて電話を切った。
「ふぅ……」
身内と話すのに気が疲れ自然とため息が出た。学校では話しかけられたら話す程度で自ら話す方ではない。昨日の出来事も相まって気を使ってくれる他人と話すのは智己としても気を使うのであった。
何かすることもする気もなく、何かを求めるように部屋を見回しているとインターホンがなった。家のインターホンは外とうちで会話が出来るようになっていた
ため相手を確認する。
「すみません、UNKテレビと申します。インタビューさせて……」
「お断りします」
即座に断った。以前なら丁重にお断りしていただろうが、智己にはメディアは気持ちの良いものではなかった。
彼は以前『つぶやいたったー』とかいうSNSで被害者が利用されているという見出しと共にあった動画を見たことがあった。
それ以降、智己はメディアが視聴の同情と視聴率を得るために哀れな人間の姿を映すという思想を持つようになる。
当時は同情するだけだった。被害者の身になった今では同情さえも余計なお世話と感じていた。
──被害者の気持ちが分かるのは被害者だけ。
その後も何局かインタビューに訪れた。最初と同じように全て断る。すると次々と間隔なく来ていたメディア達も次第に間隔を空けて来なくなっていた。
何も食べず、考えることなく時間が過ぎる。気を紛らわすためにやっていたゲームにも飽きてしまっている。テレビのゴールデンタイムもやってきたが、笑う気にもなれない。
寝る前にスマホを覗いた。数少ない友人の1人、吉田翔也からメールが届いている。
『ニュースでやってた事故って智己の両親だよな? 大変だろうけど、また顔見せてくれよ。先生も学校にはいつでもいいから、来た時話をしたいって言ってた。何か俺にできることがあったら言ってくれ』
気遣いながらも決して深くは聞こうとしないメールは智己に孤独と悟らせなかった。彼に適当な返信をして、感謝する。
母がよく言っていた『嫌なことがあったら寝るが一番』というフレーズを思い出す。まるで昨日の出来事の後の智己のための言葉のようだった。
そんなフレーズに従い早めの就寝につく。何も考えることがなかった。睡眠を妨げるものはなかった。