第8話 魔王令嬢、新たな能力を取得する
意外と長くかけました
戦いが始まった。
正直な所、私は逃げるのに精一杯だ。
牙狼帝の攻撃は1発1発が強い。
まともに当たれば、即死か重症は免れないだろう。魔法の属性としては、攻撃力の高い雷や様々な用途で活躍する風を主に使ってくるし、体当たりだけでも馬鹿みたいな威力だ。
先程から、私が避けた突進がそのまま勢いを止められずに洞窟の壁に突っ込んでいるが、壁に大きな穴が空いたり岩が崩れたり粉砕されるだけで、牙狼帝が無傷で全くダメージを受けている様子がないのは勘弁してほしい。
しかも、こちらの攻撃は、避けられるか殆ど効いていないのだ。
だが、自慢じゃないが、今のところ致命傷になりそうな傷は受けていないし、魔法も突進もだいたいかわせている。
だから、取り敢えず逃げて逃げて逃げまくって、先程の"聖魔陽炎澪撃"で使った大量の魔力が回復するのを待って、また大きな魔法を打ち込もうとしているのだ。
しかし、避けるのも当然楽じゃない。
先程から、
「吹雪」
や
「死雷撃」
などの、レベルが4〜5の魔法は何発か撃ち込んでいるのだが、その分厚い体毛に阻まれて殆どが無力化してしまう。
それどころか、私が先程の攻撃で与えたダメージや"聖魔陽炎澪撃"での切り傷も殆ど無くなっているのだ。
このままでは、ジリ貧だ。
いつかは、負けてしまう。
そうして、ちょこちょこ魔法での攻撃や相殺をしながら逃げ回っていたが、とうとう
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
牙狼帝の体当たりに真正面から当たってしまった。
私は急いで、衝撃を吸収する魔法を自分自身にかけ、洞窟の壁にぶつかった時の衝撃を減少させた。
そのおかげで致命傷とまではいかなかったが、魔法が展開中に壁にぶつかってしまったため、大怪我なことには変わりない。
私が身動き取れずに、しかし何とか立とうと頑張っているうちにも、牙狼帝は次の攻撃の準備をしている。
そして、
「貴様はよくやった方だ。
しかし、まだ我には届かぬ未熟者よ。
さて、もういいだろ。貴様の攻撃は我には効かぬ。
さぁ、我が領域に踏み入れたその身の愚かさを悔やむがいい。
死ね!!!!!」
そう言い放ち、もう一度こちらに突進してきた。
私には、もう避ける手段もその突進を防ぐ方法もない。
(あぁ。もう、終わりかな。
お父様、お母様、ごめんなさい。私はここで命果てるようです。ですが、もう少しでいいから旅をしてみたかったですわ。そして、家族3人で一緒に暮らしたかったです。
ふふ、しかしそれももう叶わぬ夢か。
そして何より、ごめんなさいララ。
あなたを守りきれなくて。せめて、この衝撃に紛れて逃げてくれたらな。
少しだけでしたが、あなたとの旅は本当に楽しかった。ありがとうね、ララ。
はぁ、できれば直接お礼が言いたかったな。)
そうして、私の生涯は終わろうとしていたのだが…………………………………………その時、突然
『お姉ちゃん!!!』
という念話と共に、近くの岩陰から何かが飛び出してきた。それは、私の目の前でその体を広げ、私に突進してきた牙狼帝を受け止めた。
「ララ!!!」
そう、その飛び出してきたものとは、岩陰でずっと隠れていたララだった。
ララは、そのスライム独特の粘性の高い体を広げ、牙狼帝を受け止めたのだった。
牙狼帝を受け止めたララは、体を少し震わせて
少しだけ後ろに飛ばされたが、ダメージは全く受けていないように見えた。
そして、牙狼帝はというと、突然表れたララに警戒したようで、飛び退いて私達から離れていた。
「ララ、大丈夫!?
怪我してない?ダメージは!?」
私は焦って、ララの状態を確認した。
しかし、私の心配は杞憂だったようで、
『大丈夫だよ〜。
あのね、お姉ちゃん。スライムは、物理攻撃にはすっごく強いんだよ!
ちょっと思った以上にあいつの力が強くて、耐えきれなかったけど、ダメージは全くないんだから!それより、お姉ちゃんは大丈夫?
わぁっ!大丈夫じゃなさそうだね。
ちょっと待ってて。』
と言って、いつもの調子で胃袋から回復薬を取り出した。
私が旅をする際に、両親が用意してくれた荷物の中に入っていた回復薬だ。
おかげで、私の傷は綺麗サッパリ治った。
しかし、この回復薬をどうして胃袋に持っていたのか?すると、私の戸惑う様子を見ていたララが、
『さっき、荷物と一緒に岩陰に隠れているときにね、荷物を胃袋に入れておいたの。
これも、スライムの能力でね、吸収の1つだよ』
と私の疑問を解決するように答えてくれた。
相変わらず牙狼帝と戦っている状態は変わらないし、本当は「何で出てきたの!?」とララを怒るべきなのだろうが、そんなことはどうでもいいように感じられた。
そして、とても穏やかな気持ちになった。
「ふふ。ありがとう、ララ。
今回はあなたに助けてもらっちゃたわね。
でも、本当に助かったわ。」
何が何でもララを守りたい。
そして、これからも一緒に旅をしていきたい!
そう強く思った。
すると、突然目の前が光り、
《レベルアップ・能力取得のお知らせ。
全属性魔法LV8→LV9にレベルアップ
能力:魔力超過
…能力を使用時、魔力の質が上昇。
魔法の威力が上昇。
しかし、魔力の消費が激しくなる。
超速回復
…体力・傷・魔力が凄いスピードで回復
する。精神攻撃、即死以外のだいたい
全ての状態異常が回復。
鑑定眼
…相手のステータス・状態異常・
苦手な属性の魔法など様々な情報が
鑑定できる。
しかし、相手が隠蔽の能力を持っていた
場合、鑑定不可能。
隠蔽
…鑑定眼の能力を持つ者から自分の
ステータスを隠蔽できる。
一撃必殺
…その攻撃に全ての魔力を消費するが、
その技は本来の威力の10倍の威力に
本来その技に使う魔力以外の魔力分
(余分な魔力分)技の威力が上がる。
以上が取得した新たな能力です。》
と、表示された。
それを読み終えると同時に、私に大きな力の
注入が感じられた。
魔力の回復スピードも、とても早くなった。
表示はされていなかったが、今まで既に持っていた能力も大幅に強化されたようだ。
ララを守りたいという強い気持ちも合わさって、身体強化による強化が今までの2倍程になっていた。
ここまで一気に、能力の取得・レベルアップは
驚いたが、このような局面では本当に幸運と
喜ぶべきことだろう。
人間も、強い思いによっていつもより強い力が出せることはある。
しかし、魔物は思いの強さによって強さが決まると言われるほど、思いの強さによりその強さが大幅に変わるのだ。
私は両親の長所を引き継いでいたため、
今回のように大幅に能力アップしたと思われる。(だが、今回はちょっと上がり過ぎだが)
身体能力が今までの2倍、魔力や傷・体力が
とても回復するようになり、魔法の威力があげれるようになり、敵の弱点が分かるようになり、
一撃だけだが、超威力の必殺技が使えるのだ。
(勝てる!!)そう思えた。
牙狼帝もいきなり纏うオーラが変わった私に驚き、警戒している。
絶対に勝ってやる!
そして、私は魔力超過をONにして、
牙狼帝に向かいあった。
「さぁ!ここから反撃開始よ!!!」
そして、私の反撃が始まる。
能力取得しすぎましたね。
まぁ、これぐらい取得させないと面白くないなかったので。お許し下さい。
意外とこの戦い編が長くなったが、
次の話で終わらせます。