第6話 魔王令嬢、絶望する。
遅くなってごめんなさい。
「・・・・・グルゥ・・・・・・・グルゥ・・」
そんな鳴き声のような音と、周りにはった結界に魔物の反応があったため、私は目を覚ました。
私の魔力感知にも先ほどから魔物の気配がひっかかっているから、いることは間違いない。
ここは、洞窟の奥の方だから外の光を入ってこない。
そのため、姿を確認するには光を灯す系の魔法を使わなければならない。
しかし、それは相手にも自分達の居場所を知らせることになる。
それに、私の魔力感知の感覚から、相手はそこそこレベルの高い魔物だと思われる。
何の魔物かまではわからないが、おそらくはBランク相当。
最低でもCランクの魔物ということが分かる。
Cランクまでの魔物なら倒せるとは思うが、まだBランクの魔物とは戦ったことがない。
それに、洞窟というこの空間ではどうしても魔法の種類が限られてしまい、戦う手段が少なくなる。
そもそも……
(どういうことですの!?
この森には、Bランク以上の魔物はほとんどいないはず…。うぅ〜、Cランクの魔物だと信じたいですわ。)
私は、迷った。
バレル可能性はあるが見つからない可能性にかけて、このまま隠れて身を潜めるか。
それとも、確実にバレてしまうかもしれないが、逃げること覚悟で相手の正体を確かめるか。
思考加速を用いて、考えては却下。
今この状況において、何をすれば1番いいのか。
…そこまで時間が経った気はしなかったが、ずっと考えていたため意外と時間が経っていたらしい。
その間にも、魔物はこちらに近づいて来ている。
認識阻害の魔法により、ハッキリとは私達の場所を掴めないでいるようだが、こちらに何かがいるのは気づいた様子だった。
(確かに、この魔法は寝ながら継続ぐらいの魔法ですから、高レベルの魔物には効きませんわ。ですが、大抵の魔物には効くはずなのですが。
ということは、この魔物は高レベルの魔物ということ。まずいですわね…。ですが、この場所は周りから見えにくい分、地形が他と違って洞窟の広い部分に出れる場所は1ヶ所。取り敢えずは、ララに隠れてもらうのが1番いいですかね。)
取り敢えずだが、私はそう結論付けた。
『ララ、起きて。敵よ。
それも、そこそこ高レベルの。
私が様子を見てくるから、あなたはもう少し奥の方に行って、あそこの岩陰に隠れていてほしいの。
できるよね?』
敵にバレてはいけないので、私は意思疎通てララに話しかけた。
『分かった。
…確かに、あれは強そうだね。
危険だと思うけど、お姉ちゃん気をつけて。』
私は、旅に出てから1番このララの態度に驚愕した。
なぜなら、いつも敵が現れても脳天気に
『お姉ちゃん頑張れ〜!!行けるよ〜!!』
と言って、私に守られてばかりだったララが、わざわざ敵が強いことを指摘し、私を心配しているのだ。
私は、恐怖のあまりすくみそうな体を意思の力でなんとか支え
『行ってくるわね』
と言い残し、周りの様子を確認することにした。
出口の方、また、魔物の気配がする方に近づくことにして、そして気付いてしまった。
出口と魔物の気配がほぼ同じ方向、位置にあることに。
そしてそれは、魔物が出口の前でこちらの様子を伺っているということに。
(……すごい殺気ですわね。これ以上動く気配はありませんが、あそこにいられたら私達は洞窟から出れません。しかし、ずっと中にいても、いつかはバレてしまいますし。)
そこで、私は自分がおかした最大の失敗に気づいた。
認めたくはないのだが、それ以外ありえない可能性にいきつき、私は苦笑いを浮かべるほかなかった。
(…なるほど。ここはあの魔物の住処なのですね。そして、ここ一帯はあの魔物の縄張り、と。そう考えれば、あちらが私達に敵意を向けている理由。そして、妙に平坦で住みやすいこの地形。
なにより、ここ周辺に魔物がいなかった理由にも全て説明がつきます。………はぁ、私は何でこんな単純なことに気づけなかったのでしょう。まだまだ、未熟ですね。)
そして、決意する。
(どっちにしろ、助かる手段はあの魔物を倒すしかないことはハッキリしましたわ。
正直、勝てる自信はありませんが諦めるよりはずっとマシですものね。お母様とお父様の言葉。オディールに鍛えてもらい、ここ数日で少しだが強くなった私の力を信じるしかありませんね。)
そして、魔法が届く範囲のギリギリのところまで下がり、しかし、しっかりと魔物は見れるような位置取りの岩陰に隠れた。
『ララ!戦うしかないようなので、私はまずこの魔物の正体を確かめるため、灯火を使います。
あなたでは、勝てないと思うから、絶対に出てきてはだめよ!!』
そして、
「灯火!!!」
灯火は、私の周りを照らすのではなく出口の方。
つまり、魔物の周りを明るく照らした。
ほとんどの部分が分かるようになった、正体不明の魔物。
私はどうかその魔物がCランク上位くらいまでの魔物のことを祈り、魔物を目視する。
そして………………………………
「…………………嘘…………でしょ。」
私の希望は一瞬で崩壊し、そして絶望した。
私の五感が最大限に警報を鳴らしている。
「逃げろ!」と。
しかし、それは出来なかった。
目の前にいる魔物の風格と、放っている威圧が、今までの魔物など霞んで見えるぐらいの違いがあったのだ。
明らかな、格上。
バカみたいに真正面から戦って、勝てる相手ではないのは一目瞭然だった。
そう、目の前の魔物はAランク。
その種属は、「牙狼帝」。
狼の魔物の中の最上位種で、レベルは個体差による違いはあるが、80前後。
人間でいうならば、超が何個もつくぐらいの一流冒険者や、化物と言われる冒険者。
大帝国の騎士や魔法使いの中でも、皇帝の側近などの本当に一部の人ぐらいだ。
これを普通に倒そうとしたら、一流以上の冒険者が5人は必用となる。いや、それだけじゃ足りないかもしれない。
だから、この魔物に一人で挑むのは、正気の沙汰とは思えないのだ。
それぐらい目の前の魔物は化物であり、それに加えて最大限に怒っている。こちらのいる場所にも気づいたらしく、物凄い威嚇をとばしてくる。
今にもこちらに突っ込んできそうな勢いを見て、
私は
(あぁ…………………………、終わったかも。)
と考えながら、命を捨てる覚悟でその魔物と向き合った。
剣を構えて、相手の様子を探る。
そして今、戦闘の幕が上がった。
文中に、
「ララ、起きて。」と書きましたが、
よくよく考えたらスライムって寝る必要のない魔物でしたね。
ですが、昼寝が趣味のスライムという設定にしたいと思います!