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賑やかな朝

 真白に出会った次の日の朝、気持ちよく寝ていた俺は、腹の上に何かが乗っているのに気づき目が覚めるが、まだ眠たく目が開かない。


 誰かが上に乗っているみたいだ。

 

 楽か?


 朝飯は俺が毎日作っているため、毎朝まだ起きていない俺を朝練が終わった後に起こしにくる。おかげで規則正し毎朝であった。まあ夏休みくらい昼間まで寝かせて欲しいのだが。


 しかし、楽が起こしに来たにしては違和感があった。


 あまりにも静か過ぎる。楽が起こすなら目覚まし百個分くらいうるさい。楽が起こしにきて起きなかったらそれは多分死んでいるのだと思っていいくらいうるさい。


 じゃあ、誰だ?

 

何て、もう思い当たるのは一人しかいない。いや、昨日のはやっぱり夢ではなかったのか……

 楽以外にこの家に今いるのはもう真白しかいない。一体、人の上で一体何をしているんだ?


「……おい真白、何してんだ?」

 

眠気をおして目を開くと


「ん?うわあああああ!?」


 体の上にいるものを見て悲鳴をあげる。真白ではなかった。長い黒髪の何かが俺の上にのしかかっていた。長い髪で顔が隠れて見えないのがさらに恐ろしい。


 その何かは俺が起きたのを見て、ゆっくりと顔に手を近づけてくる。


「やめろっ!」


 俺はその何かの肩を掴んで、引き離す。押した衝撃で髪の毛が後ろへと流れ、隠れていた顔が見える。


「こーいち?」

「……え?真白?」


 そこにいたのは、見た事がある無表情の顔と首の傾き、そして聞き覚えのある声だった。しかし、全く見覚えのない黒い髪がそこにはあった。


「おはよう」

「お、おはよう」


 普通にあいさつしてくるがそれどころじゃない


「真白!その髪の色どうしたんだよ!」

「なに、が……?」


 真白はまた首を傾げている。上に乗っているのは真白らしかったが髪の色に気づいていないらしかった。


「いや、昨日の夜まで白色だっただろ?」

「…………くろい」


 真白は自分の髪をみてやっと気づいたらしかった。鈍感って

レベルじゃないなこれは……


「何で黒くなったかわかるか?」


 真白は首を振る。駄目もとで聞いてみたがやっぱりだめだったか。

 急に重さを感じるようになったり、髪の色が白から黒になったり、真白に何がおこっているのだろう?記憶がなくなったことに関係しているのだろうか?


「わっかんねえなぁ……」

「?」


 真白が首を傾げている。何もわからない。それは寝て朝になっても何も変わらない事だった


「あっそうだ」


 黒髪へのカラーチェンジの衝撃ですっかり頭から飛んでいたが


「真白、何で俺の……」

「兄ちゃん朝だぜ!!」


 上に乗っているのかという質問を打ち切り、ノックもせずに騒がしく入ってきたのは、もちろん妹の楽だ。朝練が終わった後だろう、ジャージ姿に汗をかいていた。


「ええ!?兄ちゃんが知らない女の人に押し倒されてる!?」


 すごく面倒くさい事になりそうだ。


「何だ?何だ?何が起きているんだ?兄ちゃんに彼女なんて出来る訳ないのに!」


 失礼なやつだ。確かに今まで彼女は出来たことないけども……


「兄ちゃんがあたしを差し置いて彼女を作る訳がねえ!」

「言い切ってんじゃねぇよ!そんな訳ねぇ訳ねえだろ!」


 こいつ、兄の事を何だと思っているんだ。いつもベッタリのくせに時々、酷く辛辣な言葉を言ってくるのはどんな飴と鞭だ。


「え?じゃあ、じゃあ、その人って本当に兄ちゃんの彼女なのか!?」


 今の答えだと確かにそうなってしまうか。どうにかして誤魔化すか。


「違うよ楽、昨日も紹介しただろ?この人は神代真白さんだ」

「神代さん?いや、兄ちゃん神代さんって髪の色って白かったじゃねえか!嘘がバレバレだぜ!」


 ここにいるのは、お前の言う神代さんなのだが……。あれだけ印象的だった白髪の色が変われば誰かわからないか。俺もそうだったし疑う楽に誤魔化しを続ける。


「それはな、あの髪はカツラだったんだ」

「カツラだって!?」


 いい反応を返してくれる妹だった。


「あーなるほどなー確かにそう言われると神代さんの雰囲気があるな」


 チョロく納得してくれそうだったが


「……ん?いやいや、いや。兄ちゃん!それじゃ何でカツラなんてしていたのか聞くことになるぜ?それに何で神代さんが兄ちゃんを押し倒してるのかもわからないぜ!昨日、あれだけ何もしないって言ったのに!」


 流石に納得しなかったか。まぁ当然の話だった。想定内だ。ここでニヤリと俺は笑い答える


「それはな、お前へのサプライズだ」

「サ、サプライズ!……ってなんだ兄ちゃん?」


 流石にサプライズを知らないのは想定外だ。そのことがサプライズだった。ニヤけ顔が引きつる。


「お前を驚かせたかったって事だよ!」

「え?何でだ?」


「真白がお前と仲良くしたいから、話のネタになるようにと思ってこうしてお前を驚かしたんだよ。昨日、お前がしつこく真白と何かするんじゃないかって聞いてきたから、カツラ以外にもこのサプライズを思い付いたんだよ」


「……ごめん兄ちゃん何言ってるか全然わかんねぇわ」

「……とにかく全部、真白がお前と仲良くするために計画したことなんだよ」


 なんだか全部真白のせいにしてしまった気がする。じっと真白がこっちを見ている。無表情なのに視線が痛かった。


 しかし、楽は


「そうなのか神代さん!いやぁ、人が悪いぜ!そんなことしなくても仲良くしようと思っていたぜ!あたしは!」


 とても嬉しそうにしていた。


「よろしくな!神代さん!」


 そう言って楽は真白に手を差し出す。満面の笑みだった。その笑顔は明るく、人懐っこさが滲み出る。バカだが素直、バカだから素直。こういう妹の姿は兄として誇らしく思う。しかし、このくらいで誤魔化されてしまうのは少し不安だ……


 対して楽から差し出された手を握る真白の顔は無表情ではあったが、コクコウと何度も頷いており、どうやら嬉しいようだった。


 とても微笑ましい光景だった。ただ真白が俺の上に乗ったままじゃなければもっと微笑ましかっただろうに……


「なあ、真白そろそろどいてくれるか?」

「あ、そうだぜ神代さん、もう終わったなら兄ちゃんからどかねえと」


 真白は頷き。楽と握手したてを借り起き上がる。やっと解放された体を起こす。硬い床で寝ていたせいかあちこちが痛む。


「そういえば楽、用があったんじゃないのか?」


 痛む腰を揉みながら楽に聞く


「そうだった兄ちゃん!早く朝飯作って欲しかったんだった!あたしは腹減ったぜ。あと、今日は昼からも部活あるから弁当も頼むぜ!」

「あいよ、わかったよ」


 普段と変わらない、いつも通りの用事だった。


「じゃあ、準備するから下で待ってろ」

「わかった兄ちゃん!」


 そう言って楽は俺の部屋を出て行った。本当に嵐のように騒がしい奴だ。


 とりあえず着替えるか……


 と思ったが一つ気づく。


「そういえば真白、その白いワンピースしか服ないのか?」

「ない」

「そうか……」


 今日は神社に行こうと思っていたが、ついでに真白の服も買いに行こうか。何なら、琴音と鈴音にも服選びを手伝ってもらうか。


「悪い真白、今日はとりあえずその服でいいか?」


 頷く真白


「じゃあ、とりあえず朝飯にするか。何か好きな食べ物あるか?」


「べっこう飴」

「それお菓子なんだけど……朝ご飯に何食べたい?」


 結構、子供っぽい好みだった。


「豆腐」

「豆腐ね。じゃあ冷奴に豆腐の味噌汁でも作るか」


 3回真白は頷く。あ、嬉しいんだ。


「じゃあ、着替えるから、真白も先に下で待っていれくれ」

「わかった」


 と真白は部屋を出て行った。そういえば、何で上に乗っていたのか聞くの忘れてたな……


「まぁいっか」



 騒がしい朝だった。楽がいるのでいつも騒がしくはあるのだが、真白が加わったおかげで、いつもよりもこの家は賑やかだった。真白自体は無口なのにおかしな話だ。


しかし、暖かな気持ちになっていると一つ疑問が生まれる。


 あれ?というか真白は砂浜に戻らなくていいのだろうか……?


 今回、あの砂浜から離れたのはイレギュラーだろう。それならまた誰か分からない誰かを待つために、すぐにあの砂浜に戻ると言うかもしれない。あの孤独な砂浜に。


それは少し寂しく思った。せっかく楽とも仲良くできそうだったのに……

 服を用意しなければと思ったが、今日すぐにでも、あの砂浜に戻るのならばそれも必要なくなる


出来ればまだ一緒にいて、もっと話してみたかったのだが……

どうするのか決めるのは真白だ。俺が口出しすることではない


まぁもし、砂浜に戻るならまた散歩しに行けばいいだけだ。

どっちになっても最期ってことにはならないだろう。


何にせよ真白の手伝いをすると決めたのだ。解決するまで見届けなければいけない。


どうなるかはわからないけど俺は俺に出来ることをすればいい。



そしてこのあと、真白が着替えを覗いていたり、パンツ一丁で真白を怒っているところに、楽が来てまた誤魔化さないといけなくなったり、朝食の豆腐の味噌汁を食べた真白の頷きが止まらなかったり、楽が部活の時間を間違えてドタバタしながら家を出ていったり、今日の賑やかな朝はあともう少し続いた。

すいません、手違いで少し投稿が遅れてしまいました。

読んでくださりありがとうございました。

感想、誤字脱字の指摘、批評をよろしくお願いします!

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