記憶のない神様2
神様を背負いようやく帰宅、足には明らかに負担が掛かっていた。重さを感じないというだけで実際に重さはあるようだった。
古くなった引き戸を片手でガタガタと音を鳴らしながら開ける。親父の両親が住んでいた家だ。あちこちがボロボロだ。
「兄ちゃん!おっかえりぃー!」
扉を開ける音に気づいた楽がジャージ姿で玄関に飛び出してきた。
「てっ、ん?んん?なぁ兄ちゃん、誰だその人?」
神様を見た楽が不思議そうに聞いてくる。妹にも神様が見える様だ。とりあえず、自分だけに見えている訳ではないようで少しほっとする。
流石に本当の事を言えない。いくら何でも怪しすぎる。
「えっとな楽、この人は旅行客だ」
「旅行客?」
「ほら今、夏休み中だろ?休みの間にこの町を観光しに来たんだけど、泊まる場所が見つからない所に俺が来たってことだ。途中に疲れて寝てしまったから背負ってきたんだ」
一応、帰る途中に考えておいた説明を言う。これなら十分納得してくれるだろう。
「ふーん、相変わらず困っている人をほっとかねぇな兄ちゃん」
納得してくれたようだが、俺はそんなどっかにいそうな主人公みたいな性格ではない。
「てか兄ちゃん、旅行客って割に荷物が少なくねぇか?兄ちゃんも何も持ってないみたいだし」
「…………えっと」
そこまで考えてねぇよ……急に何でそんなに鋭いんだよお前!
普段はバカなはずの妹が見せた勘の鋭さに動揺してしまう。
「に、荷物は誰かに盗まれたらしいんだ!だからお金もなくて宿も探せなかったんだよ!」
「なんだそれ大変じゃねぇか!早く警察に連絡しねぇと!」
そういうと楽はポケットから素早く携帯を取り出し警察に電話しようとする。
「いや、待て待て待て!もう兄ちゃんが連絡したから大丈夫だから!」
「ん?そうなのか?仕事が早いな兄ちゃんは」
ギリギリ通話ボタンを押す前に止める事ができた。携帯をポケットにしまうのを見て安心する。
しかし、微かに見えた携帯の画面には119の文字が並んでいた事が別の不安を生んでいた。
一応、後で確認しておかないとな……危ないし……
しかし、何とか誤魔化す事は出来た。
「じゃあこの子、俺の部屋で寝かすから」
靴を脱いで玄関に上がるが
「え?兄ちゃんの部屋で寝かすのか?あたしのベットを使えばいいじゃん?」
「何でだよ?お前は明日も部活あるだろ。ゆっくり休んどけよ」
「いや、でもさ、男の部屋に……その、女の子と二人っきりっていうのはまずいだろ?」
「全然まずくねぇよ……」
ちょっと照れくさそうに言うんじゃねぇよ……どこで覚えてきたんだそんな事
まあ、妹も中学二年だ。そんな時期なのかもしれない。高校一年の俺が言うことでのないかもしれないが。
「ええーでもさー」
「大丈夫だって、兄ちゃんがそんな事すると思うか?」
まだ不満そうな楽を真っ直ぐに見つめて問う。
「うん」
即答された。信用のない兄だった。
「あーもう!大丈夫だから!しないって言ったらしない!神に誓ってしない!」
神様の目の前で誓っているのだから信じて欲しい。そんな事は楽に伝わるはずもなく不満そうだ。
本当は別にどこで寝かせようが構わないが、神様は重さを感じない上に、触れている感覚がない。楽にバレないように、できるだけ楽から遠ざける必要があった。
「あっそうだ兄ちゃん!」
「ん?どうした?」
何か思いついたらしかった
「あのな、その人は兄ちゃんの部屋で寝かせて、あたしと兄ちゃんが一緒のベットで寝ればいいじゃねぇか!」
「いいじゃねぇか!じゃねぇよ嫌だよ」
「え!何で!?」
[驚いてんじゃねぇよ!嫌だろ普通は!自分の妹と一緒に布団に入るのは!]
「何でだよ兄ちゃん!あたしの事嫌いになっちまったのか!?昔はよく隣で寝てくれてたじゃねえか!」
「いつの話だよ……」
まぁ確かに昔から両親がともによく出張に行っていたから寂しそうな楽と一緒に寝た事もあったけれども……思春期が来たと思えば全然兄離れしない妹だった。
「じゃあ今度、一緒に寝てやるから今日はもう我慢してくれ」
とりあえず承諾しておけば落ち着くだろう。今日さえ凌げばこんな口約束なんていつでも反故できる。
「本当か兄ちゃん!えへへ、兄ちゃんと一緒~」
兄が本気で約束を守るつもりのないのも知らず楽は本気で嬉しそうにしていた。
「………………」
また少し寂しくなっているのだろうか?一回くらい我慢してやってもいいかもな、何て考えてしまう。
今も両親は出張中でしばらく帰って来ていない。いつも元気な楽だがやっぱり中学生になっても寂しい気持ちはあるのかもしれない。
甘やかし過ぎだろうか。妹離れしてないのは自分のほうかもしれなかった。
「じゃあ、この子を部屋に置いてくるからな」
「わかったぜ!兄ちゃん!」
喜びで不安があった事を忘れたのか楽はあっさり承諾した。
「じゃあ」
楽を置いて二階の自分の部屋に戻ろうとすると
「なぁ兄ちゃん」
「ん?」
楽に呼び止められる
「名前」
「名前?」
何だかデジャブを感じる会話だ。
「その人の名前なんて言うんだ?」
「なま……え?」
そういえば、神様は自分の名前も忘れていた。何て名前かわからないのだった。
「ん?どうした?兄ちゃん?」
家に招いておいて名前を知らないのは確かに不自然だ。
「えーと……」
振り返ると神様の綺麗な真っ白い髪が目に入った。
髪の白い神様か……
「かみしろ……」
「え?何て言った兄ちゃん?」
「神代真白だ」
と言った瞬間
へ?
突然のことだ。体が何かを乗せている質量を感じ、背中に暖かさを感じ、手には太股の柔らかさを感じた。急に体が神様を感じた。
「神代さんか!髪が白いからてっきり外国の人かと思ってたぜ!というか神代真白って神代さんの見たままの名前だな!名は体を表すって言うもんな!」
「あ、あぁそうだな」
また楽が何か鋭い事を言っていたが、神様の重さが戻った驚きが大き過ぎて何も言い訳をする余裕がなかった。
「じゃあ、明日部活あるからあたしは寝るぜ!兄ちゃん!おやすみ!」
「お、おう……おやすみ」
楽はさっさと先に二階に上がって自分の部屋に戻っていった。
楽が戻ってしばらくして、未だに混乱しながらも神様を背負いながら二階の部屋に向かう。
階段を上ろうと踏みしめた足には神様の重みを確かに感じた。
今週はここまでです。まだ慣れていないので不備などありましたらご指摘をお願いします!