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祠探し

やっと投稿できるということで、すいません遅れまして。

7月までに完結するって言ってたのですが結局8月も終盤になってしまいました……

今日で一応区切りとなります。

 テンテロテンテロ~♪テンテロテンテロ~♪


「ん~ん」


 携帯のアラームが鳴っている。というか、目覚まし?楽が起こしにくるから、掛けていないはずなのだが……早起きする予定があっただろうか……?


 テンテロテンテロ~♪テンテロテンテロ~♪

 うるさく鳴り続けるアラーム。手探りで携帯を探して、アラームを消して起き上がる。


「何でアラーム?」


 夏休みに予定が出来ることなんて滅多にないんだが……しかも早起きしてまで。

 時刻は6時、楽が起こしにくるのは大体、7時半だ。


 というか、なぜ俺はアラームを設定した理由を覚えてないんだ?


 ……覚えてない?


 その瞬間、昨日の出来事が頭の中に、出て行ったものが戻ってくるように、流れこむ。


「う、ああ……」


 突然くる記憶の逆流に呻き声がもれる。

 しばらく痛む頭を押さえて蹲る。そして、痛みが和らいだ後も俺は蹲ったまま頭の中が一つの事でいっぱいになっていた。


 忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた忘れてた。


 俺はいま真白を忘れていた。

 すっかりと、ぽっかりと、しっかりと、俺は真白を忘れていた。

 いなくなっていた。ただ、抜けていたわけじゃない。寝ぼけていたわけではない、はっきりと俺の中から真白が消えていた。


 それは、つまり真白を覚えている人間がいなくなっていたという事で、真白の存在が完全に消えてしまっていたということ。


 蹲っていた体を起こして、着替えて玄関に向かう。

 昨日、お兄さん、本当の男の神様が俺に真白の事を覚えているか聞いた事を思い出す。

 俺が真白の事を忘れる可能性を予想した質問だったのだろうか。


 玄関で靴を履いて外に出る。

 向かうのは砂浜。俺は焦っていた。


 真白の事を忘れていただけじゃなく、真白自体を思い出せなくなっている気がするからだ。顔が思い出せそうで思い出せない。本当にこんな顔であっていたかどうか、声色は?無口なのは覚えているけど、癖とかは?


 たった数回あっただけの少女の事を細かく覚えていなくても全然おかしい事ではない、でも、俺にとってそれは十分に怖いことだった。


 自分以外の人たちが全員、記憶をなくしているのだ。俺が今、覚えているといっても、同じように忘れる可能性が十分ある。それに、あれだけ夜に決意したにも関わらず次の朝には忘れていた。


 もう、それだけで危機感を感じるのは十分だ。時間がない。悠長にしていられない。

 砂浜に汗だくになりながら走っていく。

 祠はもう目立つところにはないのだろう。今まで見つけることが出来たのが、子供の頃に一度だけしかない。何度もきている海で一度だけという数字はかなり見つけにくい場所にあるように思えた。


 砂浜に真白がいたといっても、もう見える所にあるとは思えない。砂浜周辺の茂みまで捜すとなるとかなりの広さになる。

 小学生くらいならば余裕で草や木が生い茂っているこの中に突っ込んでいっていただろうが中学生くらいからはまず入らないところだ。今まで、祠を見たことがなく、小学生くらいの時に見つけたとなれば、やっぱり茂み中にあると考えるのが妥当な気がする。


 真白初めて会った近くの茂みまで行く。


 しかし、広がる雑木林を目の前に少し入るのを躊躇したくなる。葉でいたるところが切れそうだし、虫も絶対にいるのが容易に想像できてしまう。間違いなく、蜘蛛の巣に引っかかるだろう。考えるだけで恐ろしくなる。


 子供の頃、よくこんなところに入ってまで遊びまわれたものだ。


 といっても躊躇していては始まらない。行かなければ、真白が消える。

 夏の太陽の光を浴びて伸びに伸びた草をかきわけて茂みに踏み入ろうとした時


「あれ?兄ちゃん?」


 後ろから声が聞こえてくる。


「やっぱり兄ちゃんだ!何でいるんだ!こんなんところに!兄ちゃんはあたしが起こさない限り眠っているはずじゃねえのかよ!?」


 どこの眠り姫だ。毎朝、お前のキスで起こされてるのか俺は……うわ、考えただけで気持ちが悪い。


「お前こそ、なんでいんだよ楽」


 何でこいつは朝からこんなテンションが高いんだよ


「いや、兄ちゃん、何でって事はないだろ?あたし、毎朝ここでトレーニングしてんだからよ」


 こいつ毎朝この砂浜を走っていたのか。そういえば、どこでトレーニングしているのかは聞いたことなかったな。


「あたしのことより兄ちゃん方だぜ。もしかして、あたしに起こされるのが待てなくて会いに来たのか?」

「そんな、もしかしてはない」


 何でお前にわざわざ早起きしてまで会いに行かないと行けないんだよ。


「じゃあ、何でこんなところにいるんだよー?」

「祠を探してんだよ」


 俺は誤魔化さずに言う。


「祠?」

「祠っていうのは神様とかを祀っている場所のことだぞ楽」

「いや、祠の意味くらい知ってるよ兄ちゃん。馬鹿にしすぎだぜ」


 なんだ祠が何なのか聞き返したのかと思ったぜ。


「で、何で祠なんて探してんだ?」

「大切な事なんだよ」

「よくわかんねえよその答えじゃ、夏休みの宿題みたいなもんか?」

「……そうだな」


 その通りかもしれない。昨日の今日でこれなのだ。夏休みが終わった後まで記憶が残っているとも限らない。

 夏休みの宿題か……神様を救うって話にしては軽い言葉のように思える。


「ふーん、兄ちゃんが真面目に宿題をするとはなあ……俄かには信じがたいぜ」


 お前の兄ちゃんってそんなに不真面目な奴だったか?


「よーし!わかったぜ兄ちゃん。そういうことならあたしも手伝うぜ!」


 一体、何を理解して何がそういうことならなのだろうか?


「いやでもお前、トレーニング中だろ?」


 人手は確かに欲しいが、こいつこれでも中学の陸上部のエースだ。迷惑を掛けるわけにもいかない。


「いいって、いいって兄ちゃん!困った時はお互い様だろ?いつもご飯作ってくれる兄ちゃんにあたしからの恩返しだぜ!」


 別に飯を作るだけがお前にしている世話ではないのだが……


「そんなことをお前が気にすることねえよ。当たり前の事してるだけだ。恩をなんて感じられても困るだけだ」


 とは言っても、こいつがそんな事を考えていたとはな……実際は少し嬉しくもあった。


「そうなのか、じゃあ、ごめん兄ちゃんさっきのは嘘だ。本当は一緒に遊びたいだけだ。恩なんて感じてない」


 いや、それでいいんだが、いいんだけどね。もうちょっと言い様があったんじゃないだろうか?


「だいたい遊ぶって、別に遊びじゃねえんだぞこれ」

「いいのいいの、兄ちゃんと何かするって言うだけで楽しいからさ!で何すればいいんだ?」


 ……まあいいか、どうせ部活までだ。しかも、焦ってここに来たから忘れていたが、どうせ楽の朝ご飯と弁当を作るために一度、帰る必要がある。

 それに、記憶がなくなったと言っても、真白と仲がよかった楽には一緒に探してもらったほうがいいのかもしれない。


「わかったよ楽……俺もどんな祠なのかは知らないからそれっぽいのを見つけたら教えてくれ、かなり朽ちてるらしいから原型が残ってないかもしれないけどな。目に見えるところにはないと思うから、多分この茂みの中のどこかにあると思ってるんだけど……」

「ん、わかったぜ!」


 そう言って楽は何一つ躊躇することなく茂みの中に飛び込んでいった。


「……俺も行くか」


 焦っていた気持ちも、何だが抜けてしまったが、早く見つけなければいけないのは何も変わらない。

 一人より二人の方が見つけやすい。これでよかったのかもしれない。

 楽が掻き分けていったところから、俺も茂みの中に入っていった。


 しかし、二人で探すこと二時間と少し、祠らしきものが見つかることはなかった。茂みの中は伸びた雑草や木の葉で周りが見えにくくなっており、見つけるのはかなり困難な気がした。

 今日も楽の部活があると言うので、楽と一緒に一度家に帰り、朝食と今日も昼を挟んでから部活動があると言うので弁当を作って持たせる。

 ギリギリまで祠を探していたせいか、部活に遅刻しそうな楽は弁当を貰ってすぐに


「行ってくる!」


 と言って、ダッシュで家から飛び出していく。あいつ、一体どんなスタミナしてやがる……昨日は祭で部活がなかったらしいが、朝に自主トレして午前と午後に部活があるっていうのに、学校まで行くのも走っていくのかよ……

 さらに部活が終わったらまた祠を探すのを手伝うといってくれた。


 体力が無尽蔵過ぎる。


「さて」


 楽も見送りもすんだところで祠を探す準備を始める。

 さっきは気が動転して急いで出て行ったせいで何も考えずに飛び出したが、あの茂みに入るなら暑いが長袖の方がよさそうに思える。さらに夏のこの熱さだ。麦茶を水筒に入れて水分も確保しておく。自分が倒れてしまってはしょうがないだろう。


 ある程度の準備をして、もう一度、祠を探しに生みに向かった。

 



「見つからねえ……」


 一度茂みから出てきて荷物などを置いておいた屋根のついたベンチに腰掛ける。

 探し始めて4時間くらいだろうか、一向に何の手がかりも見つからなかった。


 ずいぶん昔から忘れられてしまったのだとしたら、「この先に祠」みたいな看板が立っているわけもないのだが、何かしらの手掛かりがないと、始めに真白と会ったこの周辺に祠がないのだとしたら、見つけるのは絶望的に思えた。


 夏の暑さと疲労感でため息が漏れそうだったが我慢する。ここで弱気になるわけにはいかない。神を救うのだ、それくらいやってみせなくてどうする。

 まあ、腹が減っては戦は出来ないとも言う。とりあえず、楽の弁当を作るついでに自分の弁当も作っておいたので、その弁当を広げて食べる。


 暑さで腐らないように保冷財に包んだお握りは冷めている。まあ、冷めても美味いのがお握りだと俺は思う。


 お握り片手に携帯をかばんから取り出すと、画面上に恐ろしいものが映っていた。


 琴音からの大量の着信履歴だった。


 探しているときに茂みの中で落としたら間違いなく見つからないと思ったため、持っていかなかったが、まさかこんなにも琴音から着信が着ているなんて……

 何の用事だろうか?……いや、何となく予想はつく、このまま、気づかなかったふりをして無視するべきかもしれない。


 そっと携帯をカバンの中に戻す……が


 テンテロレン♪テンテロレン♪


「うわっ!とっとっ」


 突然鳴り出す携帯に驚き思わず持っているお握りを落としそうになる。

 戻そうとした携帯を恐る恐る確認すると、まあ、予想するまでもなく琴音からの着信だった。


 ……出るべきか、出ないか。


 テンテロレン♪テンテロレン♪


 電話が切れる様子がない。このまま、自動的に切られるまでかけ続けるきのようだ。


 テンテロレン♪テンテロレン♪


 鳴り響く着信が琴音の無言の圧力のように感じられてしまう。「いるんだろ?無視するんじゃないわよ」と。いや、わかるはずがない。大体、さっきまでは本当に携帯を持っていなかったのだ。俺が勝手にそう感じているだけだ、だけなのだが……


 テンテロレン♪テンテ……ピッ


「……もしもし」


 出てしまった……


「あ、やっと出た。もしもし?あんた今、何してんのよ?楽器の練習するから早く家に来なさい!」


 ……だろうな。思ったとおりの電話内容だ。昨日、あれだけ軽音活動できるって喜んでいたもんな……。


「ちょっと今、手が離せなくてな」

「だから何してるのよ?というかどこにいるの?家の中じゃなさそうだけど、やたらセミがうるさいし」


 確かにミンミン、シネシネ、うるさくて適わない


「海だよ。祠を探してる」

「ほこら?何でそんなもん探してるのよ?」


 まあ正常な反応だ。


「えっと、自由研究?」

「ないでしょ高校に、自由研究は」


 楽とのやり取りが尾を引いてつい変な嘘をついてしまった。


「あーえっと、俺のじゃなくて楽のやつだ」

「中学の時も自由研究ってあったかしら?鈴音に聞いてみようかしら」


 あ、まずいバレる。


「い、いや、ほら!あいつ馬鹿だからさ、補習の代わりに出されたんだよ」

「うちの中学にそんなシステムあったかしら?」


 当然、琴音も俺も楽と同じ中学なわけで、去年までその中学にいたわけで、記憶も新しいわけである。流石に苦しいか?


「ほ、ほらっ、楽って陸上部でしかもかなり優秀だろ?合宿とかあった時に融通がきくように自由課題になってるんだよ」


 これは上手い言い訳ではないだろうか。


「なるほどね」


 納得してくれたようだ。


「で、なんで祠なの?」

「……えっと」

「あと、一応楽ちゃんにも自由研究があるのか聞いてみようかしら」

「…………」

「……あんた、何隠してるの?」


 凍てつくように冷たく鋭い言葉が耳元に響く。思わず電話ごしにも関わらず「ごめんなさい」と夏の太陽に熱された砂浜に頭をこすり付けて土下座するところだった

 何一つ誤魔化せてないし、納得もしてくれていなかった。


「……昨日あんたが言ってた真白って子に関係してるの?」

「えっ……」


 突然の琴音から発せられた真白という言葉に動揺してしまう。


「やっぱりそうなのね。一体、誰なの、その子?」


 ――誰なのよ?仕方がないとわっかっているが、それでもやはり悲しい気持ちになる。


「言ってもわかんねえよ。信じてくれねえだろうし」


 あ……

 言った後にしまったと気づく。しかし遅い。


「何よそれ?」


 さっきよりも数段も鋭く冷たく、そして……重い言葉が電話口から聞こえる。


「昨日、あれだけ一緒に軽音活動するって約束したのに、何も説明してくれないって言うの?」


 あーやっちまった……真白を忘れている琴音に少しきつい言い方をしてしまった。誰が悪いわけでもないのに琴音を少し怒らせてしまった


「いや、そういうわけじゃねえけど……」


 誤魔化せればよかったが、いきなり真白の話になると思わなかった。昨日、真白の事を話してきた時は特に深く聞いてこなかったから、琴音はもうこの話に興味が無いものだと思っていたのだが……


「それなら説明してよ」


 と言われても……本当に信じてもらえないような話だ。さらに怒らせる未来しかみえない。ただまた誤魔化そうとしても、思いつきでは粗が出て誤魔化しきないだろう。


「神様だよ」

「は?」


 もうどうにでもなれ。本当の事をぶちまける。


「真白は神様だよ。しかも、存在が消えかかってる。お前らは忘れちまてるけど、本当にこの前、海で一緒に遊んだんだぜ?みんな楽しそうにしてた。それなのに、みんな忘れちまった。しかも、俺たちは小学生の時に会った事も忘れちまってるんだよ。真白と会った時、あいつ誰かを待ってるって言ったんだよ。その待ってる誰かって俺たちの事なんじゃないか?また俺たちと遊びたいと思ったから記憶も亡くしながら、存在が消えそうでも俺たちを待ってたんじゃないのか?やっとまた会えたのにすぐ消えていなくなるなんてそんな悲しい事ねえだろ。俺たちがまた真白を忘れちまうなんて事あったら駄目なんだよ。どんどん俺の記憶からも真白が消えていってる。俺が忘れたら今度こそ真白の存在は消える。でも、もしかしたら祠を見つける事ができたら、救えるかもしれねんだよ。だから、俺は俺の仲の真白記憶が消える前に祠を見つけなきゃいけないんだよ。だから、ごめん。楽器の練習はもう少しだけ待って欲しい」


「……何よそれ、何を言ってるのか全然わかんない」

「だろうな」

「……もういい」


 その言葉と同時に電話が切れる。やっぱり怒らせてしまったようだ。仕方が無い事だ、琴音からすれば、ただ楽器の練習をしたくない奴が意味のわからない言い訳をしているようにいかきこえないのだから。


「あっちいなあ……」

 呟いて、残りのお握りをすべて食べてしまい、また祠の捜索に戻る。



 琴音の電話の後、しばらく探していると、部活帰りに楽が手伝いに来てくれた。

 しかし、結局見ける事が出来ないまま、辺りは暗くなりまともに探せる状態じゃなくなりその日は帰ることになった。

 正直、少し焦っていた。今日だけで、真白と出会った場所の辺りは見尽くしたがそれらしいものはなかった。


 こうなってくると、手がかりも何も無いため海全体を調べる必要があるかもしれない。流石に一人じゃ調べきれないかもしれない。楽は明日も今日と同じく朝と部活後に来てくれるらしいがそれでも見つかるかどうか……だからって諦めるわけにもいかない。

 明日も探す以外俺にはない。




 次の日の朝


「あれ?兄ちゃん、あたしより早起きして何してんだ?」

「見りゃわかんだろ。朝飯とお前の弁当を作ってんだよ。昨日みたいに何度も海と家を往復するのも手間だからな」

「そんなに夏の課題に切羽詰ってんのかよ」

「まあな……つうかお前も人のこと言えないだろ」

「あたしは最初からやるつもりがないから切羽詰る事はねえぜ?それに今度、友達に宿題を見せてもらうから大丈夫だぜ!」

「あっそ……」


 まあ、勉強は大切だけど絶対に必要とも思わないので、ズルをする事には何も言わない。それにこいつの場合は、身体能力がずば抜けている。無理に勉強しなくても、その道を進んでも問題ないだろう。それに、毎朝、規則正しく早起きして、朝のトレーニングから部活までしっかりこなしている楽はそれぐらいのズルは許されてもいいんじゃないだろうか。

 と言っても、もう少し馬鹿なところを直して欲しくはあるが。


「つうか兄ちゃん、今から朝食を食べちまったら部活前に腹減っちまうぜ」

「そういうと思って多めに作って置いたから、一回帰った時にでも食べろよ」


 我ながら気が利く兄である。


「おーサンキュー兄ちゃん!」

「おう……ふわぁー」


 欠伸が出てしまう。


「眠そうだな兄ちゃん。慣れねえ早起きなんかするからだぜ」

「ん……まあ、そうだな」


 そういうお前は、朝から元気だな。寝起きがいいやつだ。まあ、楽が元気じゃないときなんてほとんどないのだが。


「はい、じゃあもう出来るから出かける準備してこいよ」

「ガッテンだ!」


 気合が入った返事とともに何故か楽は走って準備をしにいった。ちょっと元気すぎるな。


「ふぁ」


 また、欠伸が漏れてしまう。いかんいかん。気合を入れなければ。まったく、楽の元気を少し分けて欲しい。


「ん、出来た」


 少し味見した豆腐の味噌汁はいつもよりもちょっとだけしょっぱいような気がした。




 見つからない。時刻は午後1時を回っていた。楽は部活の昼休憩くらいの時間だろうか。

 結局、朝も見つからず楽が部活に行かなければ行けない時間となり、俺は一人で引き続き今まで探していたが、一向に見つからず、少し休憩を挟む。

 不安が昨日よりも大きくなる。このまま探してい大丈夫なのか。もし、昨日探したところで見落としていたとしたらもう一度、探す時間は残されているのだろうか。など、不安が積み重なる。


 問題の真白の記憶は昨日とあまり変わらない。もしかして気づいてないだけなのかもしれないが。と言っても、正直、それだけは今の俺にとって救いではあった。一日経てばもうほとんど思い出せなくなってしまっていたら絶望しかなかった。しかし、油断は出来ない、徐々にではなく、急に真白の全ての記憶がなくなる可能性もある。それを考えると、うかうかはしてられない。


 昨日と同じお握りをほお張り体力を回復する。


「あ、いたっス」


 この声は……


「ふふふぇ!」

「汚いっすから食べ終わってから喋ってくださいっス……」


 ほお張りすぎて中々飲み込めずに苦労したが、何とか飲み込み改めて


「鈴音!」

「別に驚いた所までやり直さなくてもよかったすよね?」


 それは何となくのその場のノリなので流して欲しかったのだが……


「ていうか、お前何しに来たんだよ?」

「何しにって幸兄いに会いに決まってるじゃないっすか」


 俺に?


「何で?」


 それを聞いて鈴音は溜息をついてから


「何でじゃないっすよ幸兄い、またお姉を怒らせたっすね。昨日、急にギターをスピーカーみたいなのに繋げて大音量でかき鳴らし始めて家中大パニックっすよ」


 マジか、それは悪いことをした……いや、琴音のやつも何してんだよ……。


「全く、お姉激おこっすよ、激おこの激が襲撃の撃になりそうなくらい怒ってったすよ」


 例えがよくわからないが身に危険が迫っている事だけはわかった。


「まあ、何とかなだめて、攻撃の撃くらいにはなったすけど」

「それなんか変わった?」


 襲撃の撃と攻撃の撃って結局同じ漢字なのだが……何にせよやはり身が危ない


「正直、幸兄いがお姉にどうされようと知った事じゃないっすけど」

「えっ」


 冷たいやつ。


「……それでも、お姉がイライラしてると、家の中がピリピリしてしょうがないんすよ、だから、祠っすか?探すの手伝うっすから、早くお姉のところに行って機嫌とって欲しいんすよ」

「手伝うって、お前、、琴音からなんで俺が祠を探しているのか聞いたのかよ?」

「聞いたっすけど、真白?って子のために探しってるんすよね?」

「いや、そうだけど、ちゃんと話を聞いたのか?」

「んー聞いたっすけど、正直よくわからなかったっす」

「いいのかよそれで……」

「いいんすよ、どうせまた困ってる人がいたから放っておけなかっただけっすよね?」

「俺はそんなどこぞの主人公みたいな性格じゃねえよ」


 楽にも同じ事を言われた気がする……お前ら本当に俺の妹と幼馴染かよ。


「そうっすか?まあ私にとっては幸兄いはそういうかっこいい人っすよ?」

「そりゃどうも……」


 本当にそう思ってんのかね……


「だから」


 ん?


「今回も裏切らないでくださいっすね!」


 そんないい笑顔で言われても……裏切るも何も俺はそんなやつじゃないって言ってるのだが…………まあでも、今回くらいはそんな主人公みたいな自分になった気でいてもいいのかもしれない。そのくらいが調度いいのかもしれない。


「ん、まあ頑張るわ」

「おー!ガンバルっス!それじゃあ、私はなにすればいいっすか?」

「そうだな……とりあえず、昨日俺が見たところをもう一度見てくれるか?」


 昨日、探した範囲を鈴音に教える。


「了解したっスよー」


 と敬礼のマネをして、ガサガサと茂みの中に入って行った。楽といい鈴音といい、この中に何で躊躇いなく入っていけるのだろうか?それとも俺が女々しいだけなのだろうか?


 まあ、でもこれで、もし昨日、見落としていたとしてももう一度、鈴音のチェックが入る。少しは安心してもいいかもしれない。正直、楽は探す範囲が広いが、探すと言うより茂みの中を駆け回っているといった方が近い。まあ本人的には遊んでいるだけなのだから無理もないのだが、正直かなり不安ではあったので、鈴音が手伝ってくれるのは本当に助かる。


 大まかには楽に探してもらって細かいところは俺と鈴音で見ていくというのがよさそうだ。ただ……欲を言えばまだ人が欲しい。真っ先に思い当たる人は相当怒っているらしいのでたぶん手伝ってくれないだろうしなあ……和久のおっさんは店で忙しいだろうし、後はミコトくらいか?いや、このメンバーに急に加わるわけがないか。というか、なんであの神、自分が統治している町の祠一つの場所もわかんねえんだよ……いや、神に頼るのはだめなんだったか、そういや。人間が、特に記憶が残っている俺が探さないといけないんだった。もう神様にはどうすることも出来ない。文字通り神頼みしててはいけない。


 となると、やっぱり、人間の誰に頼るしかないのだが……これ以上、頼れる人が思いつかない。自分の人間関係の希薄さに呆れてしまう。

 今更、そんな分かりきっていた事を嘆いても仕方がない。この3人で何とか見つけ出すしかない。

 休憩する前に出てきた茂みからもう一度、探し始める



 真白の祠の捜索に鈴音も加わってからしばらくしてから、部活が終わった楽も加わり3人で捜索する。

 ガサガサとかき分けながら祠らしきものを探すが、相変わらず何も見つからない。


 さすがに二日続けて一日中、外で探し回っていると疲れてくる。まあ、二日どころか毎日この炎天下のなか走り回っているやつがいるので弱音なんて吐いていられないが、ほとんど家で過ごしている俺には流石につらいものだ。それに……


「うおっ!」


 長く伸びきったツタに足を取られて、思いっきりこける。


「いって~」


 受身を取った右手が少し擦り剥けていた。


「うお!?どうした兄ちゃん!大丈夫か!?」


 何故か、俺が探している所よりも先を探す事をお願いした楽が近くいた。


「大丈夫、ちょっと擦り剥いただけ……つうか、何でお前、俺の近くにいんだよ?」

「ん?グルグル走り回ってたら、たまたま兄ちゃんの近くにいただけだぜ?」


 こいつ、ちゃんと戦力になっているのだろうか?てか、まだ走る体力があるのか……

 まあ、走り回って見つけられなかったって事はこの辺りにあるとしても目立つようには置かれてないって事なのだろう。


「本当に大丈夫か兄ちゃん?かなり疲れた顔してねえか?」


 そう言って楽は心配そうに倒れた俺に手を差し出す。手についた砂を払いその手を掴んで起き上がる。


「ん、ありがと、というかお前こそ大丈夫なのかよ、部活の跡で疲れてるんじゃないのか?」

「いつもしてるクールダウンの代わりだから特に問題ないぜ?」

「そ、ならいいんだけど、俺は大丈夫だから引き続き探してきてくれ」

「おう!任せてくれ兄ちゃん」


 俺に背を向けて走っていった……一体グルグル走るってどんな探し方をしているのだろうか?しかし、こんな走りづらいところでよく走れるものだ。忍者のようなやつだ。

 楽のような運動神経がない俺はまた転ばないように注意しながら探し始めたが、しかし、結局今日も日が暮れるまで見つける事は出来なかった。




 祠を探して三日目、また朝早くから楽と一緒に探したが見つからなった。もう、かなりの範囲を探したはずなのだが……

 今日も鈴音が手伝いに来てくれるというので、お礼というわけではないが鈴音の分の昼飯を作って持っていく。せっかく振舞うので、いつも自分が食べている、お握りだけではなく、いつも楽に作っているような、おかずも入った弁当にした。


 昼ごろに、鈴音が来てくれたので休憩ついでに昼飯にする。


「なんだか遠足の時に食べる弁当を思い出すっす」

「それ褒めてるのか?」

「家庭的ってことっすね」


 まあ、から揚げとか、ハンバーグとか子供の好きそうなものは大抵は作れる。


「私は料理したことないからわかんないっすけど、これだけ作るのって結構、手間がかかるんじゃないっすか?」

「まあな……まあ、時間があったからな」

「朝早くから頑張るっすね、通りで目元にクマが出来てるんすね。ちょっとくらい休んだらどうっす?」

「いや、そういう訳にもいかねえよ。それに探していないところもかなり限られてきたんだから、きっとあと少しで見つかるだろうし」


 3人で間に合うかと思っていたが、しかしそれは自分の探すスピードが基準にして、単純に3倍くらいのペースだと思っていたが、楽が走り回って見てくれているおかげで、見た範囲だけなら、多分、海全体の茂みの中を見たんじゃないかと思う。


 ただ、やっぱりそれでも見つからないという事は、もうすでに祠の原型を留めていないとか、忘れられたしまったというぐらいならば、本当に見つかりにくいところにあるのかも知れない。


 弁当を食べながら鈴音にもその事を伝えて、細かく探すように頼んだ。

 綺麗に食べ終わった弁当箱を片付けてしまい再び捜索に戻る。。


「じゃあ、私はこのあたり探してるっすね」


 鈴音は茂みに入っていった。


「それじゃあ、俺はもうちょい先にするか……て、あ」


 タオルを忘れてしまった。汗でベトベトしながら探すのは少し気持ち悪い。さっきまで弁当を食べていた場所まで戻る。


「ん?」


 ランチをしていた場所からそこまで離れていなかったのでその場所は直ぐに見えて来たのだが


 誰かいる?


 泥棒か?こんな治安のいい田舎にそんな事をする輩なんていないと思っていたので、無用心にもカバンを放置していたのだが……警察を呼ぼうにも携帯はカバンの中だ。


 髪が長いので女性だろうか?泥棒かと思ったが、物をとるような様子も見せない、ただ座っているだけのようにも見える。でも、わざわざ、誰かのカバンが置いてあるベンチに座るだろうか?他にも屋根がついているベンチはあるというのに?


 と、座っている女性は今度は頭を抱え始めて、蹲る。何してるんだ本当に……?

 恐る恐る近づいて行くと、どこか見覚えの…………いや、もう誰だかわかった。


「ほんっとに、何で私、一人でこんな……鈴音は楽しそうに弁当食べてるし……、いや、寂しい訳じゃ……ないわけでも……でも、今更……」

「何してんだよ琴音」

「ハウっ!?」

「うわっ!」


 予想以上に驚くのでこっちも驚いてしまう。つうか、「ハウっ!?」ってどっから声が出たんだよ。


「な、なんで?さっきここを離れたばっかりなのに!何であんたここにいるのよ?」

「タオル忘れたから取りに来たんだよ。何ではお前のほうだろ?」


 本当に何でいるんだ?というか、一昨日、激怒させたんだった。まさか本当に鈴音がいったように襲撃でもしに来たのか?


「な、何でって私はただ、あんたが私との約束破ってまでどんな事してるのか気になっただけよ!」


 襲撃をしにきたわけではないようだ。


「ちゃんと、探してるみたいだったけど……鈴音と楽しそうにお弁当食べてるし……」

「いやまあ、昼食くらい食べるだろ?」


 というか、見てたのか?一緒に食べればよかったのに、実はそこまで、食欲があったわけじゃなかったから、琴音の分は分ける事は出来たのだが


「別に、駄目とは言ってないわ」


 じゃあ、何で言ったんだよ……


「昨日も楽ちゃんと鈴音と三人で探して……」

「ん?昨日も来てたのか?」


 それなら、今日来る必要なかったんじゃ?というか、顔ぐらい出してくれても……


「ち、違うわよ!鈴音から聞いたに決まってるじゃない!何で私があんたが何をしてるかなんて見に来なきゃ行けないのよ!」


 それもそうか。


「ほんとに、鈴音も行くなら行くって行ってくれれば私だって……」

「ん?」

「何でもないわよ!ばか!」


 ばかって……やっぱり怒ってる?


「もういいわ、暑いから私もう帰るわ!」


 琴音はベンチから立ち上がる。


「あ、ちょっと待てよ琴音」

「何よ?」

「いや、俺からこんな事頼めた義理はないんだけど、祠を探すの手伝ってくれないか?」


 言うと、琴音の眉がピクリと動く。やっぱり、怒るよなあ……


「約束破ったのは本当に悪かったよ……でも、どうしても祠を見つけないといけないんだよ。多分、時間もない。楽も鈴音も手伝ってくれてるけど、まだ人手が欲しいんだよ。見つけること出来たらいくらでも練習するから……どうか頼めないか?」

「……嫌よ、そんなの自分勝手過ぎるわ」


 まあ、そうだよな……


「ただ、前にあんたが話した意味のわからない話を信じる訳じゃないけど、その真白って子と小学生の頃に会った事あるって言ってたわよね?覚えてないけど」


 何度も覚えてない事をあまり強調しないで欲しい。小学生の頃の事は俺も忘れているから何もいえないのだが


「それが祠の場所と関係あるのだとしたら、もしかしたら、私達の秘密基地が在った場所じゃないかしら?」

「秘密基地?」

「この前話した時はあんた覚えてたはずなんだけど?あんたと、その真白って子がいたっていう、その海で遊んだ日に、昔はよく遊んでたのにって話をしたじゃない?秘密基地も作ったなあって話してたでしょ?」


 そんな話をしていたかは覚えていないが、確かに秘密基地を作って遊んでいた覚えがある。


「でも、何でそこにあるって思うんだ」

「あんた、この前、神社について聞きにきてたわよね?あの話覚えてる?てか、何でそんな事、あんた聞きにきたんだっけ?」


 それは、真白の正体を知りたかったからだ。結局、その話のせいで、ミコトと真白の正体を勘違いしてしまったのだが。琴音からしたら観光客に説明したという事になっていたはずなのだが……


「覚えてるよ。男の神様と、女の神様が出会って恋をして、いざ、別れる時に悲しくなって一年に一度は会う約束をしたって話だろ?」


 あのミコトがそんな別れるのが悲しくて泣いたなんて想像できないのだが……


「いや、そうだけど、そこじゃなくて、うちの神社が少し山の上にある理由も話したでしょ?元々、あの神社って海に在ったって」


 そういえば……


「私達が秘密基地にしてたのがそこなのよ、未だにうちの私有地になっているから誰も来ないし、海も近いし、遊び放題っていって遊んでたでしょ?結局、母さん達に危ないから、あそこで遊んじゃ駄目って言われて、その夏休みだけしか遊べなかったんだけどね。もう神社の痕跡もないし、祠なんてあるかわからないけど、もし、あるとしたらそこじゃないかしら?」

「…………」

「な、何よその顔?別に、本当にそこにあるかわからないんだから、聞き流してくれてもかまわないんだからね」

「琴音」

「何なのよ?」


「お前は、ほんっとに最高だな!」

「べ、別にこれくらい普通よ。それにあんたに早く楽器の練習してもらわないといけないから、ちょっと寝る前に考えたぐらいなんだから」

「それでも!」


 確かにそこなら、もう誰も来ないし、見つかりにくい、海も近い、そして、昔、俺達がそこに行った事がある。条件に当て嵌まっている。可能性は高そうだ。


「そこに連れて行ってくれるか!?」

「そんな興奮しなくても案内するから落ち着きなさい」


 興奮もする、やっと見つけた手掛かりだ。これで、もしかしたら、真白を救えるかもしれないのだ。


 テンションが上がりすぎて、頭がクラクラするような……?目が霞む、体に力が入らない…………これ……やば……


「幸一!?」


 太陽に焼かれて熱くなった砂が俺の頬を焼いている。熱い、でも、起き上がれない。でも、起き上がらないと、真白に会いに行かないと……


「あれ?お姉何でいるの?って、幸兄い!?なんで?大丈夫!?」


 鈴音の声が聞こえる、口調が戻っている。大丈夫、だから、ちょっと、ふらついただけだから。言いたくても口が開かない。


「兄ちゃん!?どうしたんだ!?救急車か!?救急車呼べばいいのか!?死ぬな兄ちゃん!」


 大げさなんだよ、そういえば楽に警察と救急の番号を間違えている事を教えるのわすれてた……大丈夫、大丈夫だから。救急車も必要ないから。


 もうすぐ、真白を助けれるかもしれないのに……


 駄目だ。寝るわけには、俺が忘れるわけに……は、、、


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