琴音との祭、火花散る
次の日、けたたましく鳴り響く携帯電話によって俺は起きる。
目覚ましのアラームなんてかけた覚えはない、誰かからの電話だろうか。音がそもそも電話がかかってきた時の音なのだが。
「はい……もしもし?」
まだ眠気が残しつつも電話に出る。
「もしもしじゃないわよ!あんた今、何してんのよ!?」
出た瞬間、アラームなんて比じゃないほどのけたたましい琴音の叫びが耳を劈き、思わず電話を耳から遠ざける。遠ざけた携帯電話の画面には午後の3時11分を表示していた。思ったよりもずっと長く寝ていたようだ。楽が起こしに来ないとここまで寝てしまうものなのか。
「ホントに何してたのよ?どんだけ連絡しても返信がないし……忙しいから電話もなかなかかけられなかったし……心配したじゃない……」
琴音には似つかわしくない言葉が聞こえた。そんな、半日くらい連絡来ない日くらいあるだろうに……とはいえ、心配させたのなら悪い事をした。
「悪いな琴音、昨日の疲れが溜まっていたみたいだわ」
「筋金入りの体力なさね……まあいいわ、あまり無駄話はしてられないのよね、まだやる事残ってるし……えっと、5時頃には時間が空くと思うから、そのくらいに神社に私を迎えにきなさい」
急にらしく戻りやがった。
「はいはい、迎えに行きますよお嬢様」
「うむ、よろしい!」
うむって……偉そうなやつってこいつの事だったのか……
「じゃあ、忙しいから切るわね、また後でね」
そう言うと琴音はそうそうに電話を切ってしまった。
「……ふう」
一息つき、寝過ぎたせいで凝り固まっている体をほぐそうと背中を伸ばそうとするが
「いてて」
筋肉痛がひどく伸びらずにやめる。神輿や歩き回ったせいで昨日予想した通りあちこち筋肉痛だった。動くのに一苦労しそうだ。
しかし、琴音との約束を筋肉痛を理由に破るのはわけにもいかない。というか、何より、昨日あれだけ汗をかいて砂浜をあるいて潮風にあったにも拘わらずシャワーをしなかったせいで筋肉痛と同じくらいあちこちべたべたしている。
とりあえず早くシャワーを浴びたかった。
きしむ体を無理やりベッドから起こす。肩が特に痛い。神輿の棒を担ぐのがどうやら一番負担が掛かっていたようだ。
風呂の準備をする時に真白の白いワンピースを見つける。結局、三着買ったが、どれも一度しか着ることがなかった。買った中には白のワンピースタイプの水着もあった。
これどうしようか……真白が着ていた服を俺が持っているというのはどうなのだろうか?
しかもよく考えれば、このワンピースのうちの一つは、最初、真白が着ていたものだ。水族館に行ったあの日は商店街で買った服を着ていたはずだ。
楽にあげるか?でも、何で真白の服を俺が持っているんだって話になったらややこしいか……まあ、真白の荷物が盗まれたから、着替えを買ったということになっているのだからおかしくはないのかもしれないが、それでも、一度着た服を持っているのは変態っぽいか。
ほぼ新品なので、楽にプレゼントって言って渡したら信じて受け取りそうではあるのだが、俺が買ったやつならいいが、元々着ていたワンピースを渡すのも気がひける。
まあ、今すぐに解決しないといけない話でもないか……
とりあえず、綺麗にたたみ直して、タンスの置くにしまい、自分の服を取り出し、シャワーの準備を再び始めた。
*
シャワーを浴び、軽く昼食を作って食べて、ボーっと筋肉痛を解していると琴音との約束の時間がきたから、家を出た。
神社周辺の通りは昨日と変わらず人で賑わっていた。
今日は昨日とは違い神輿を担がないで琴音と遊ぶだけなので気持ちが楽だ。……いや、どうだろう、琴音と遊ぶのも相当疲れるような気がする……まあ、そりゃ神輿を担ぐよりはましだが……
俺が今日神輿を担がなくていいと言っても、今日、神輿が担がれない訳ではない。昨日が男の神様を海まで迎えに行く日としたら、今日は海まで送る日だ。
ということは今日が本当は男の神様の正体であるミコトがその神輿に乗って帰る日だと言う事でもあるのだが、本当にあの調子で今日帰るのかは怪しいのだが、そもそもミコトがこの町に来たのも昨日ではなくずっと前だ、既にルールを破っている。
恋人の真白のために特別に破ったとは言っていたけどが、何にしても昨日の神輿を担いでいった事が本当はなにも意味がないというのは少々虚しくなってくる。
ミコトの事を知らなければそんな事は考えなかっただろうから、そんな気がする。
何て言ったら「なに?俺と会った事が損だって?言うようになったじゃねえか幸一」と絡んできそうだ。
…………真白とはまた会おうと言ったが、ミコトとはもう合えないのだろうか……ミコトは俺と会ってはダメと言っていたからけして会おうとしないだろうが……でも、会うのはダメとは言ってはいたが人間が嫌いというわけではなさそうだった。
真白と会っているのがばれた時、何だかんだ初めは怒っても結局、まあ仕方がないと笑って許してくれそうな気がする。
真白と会いたいし、叶うならミコトともまた会いたい、友達が少ない俺に出来た友達だからかもしれない。ミコトは友達ではないと否定しそうだが。
しかし、また会いたいが、ただ、気になるのは何でもう会ってはいけないかだ。説明も何もない、何も教えてくれないまま別れた。
ミコトは神と人間が仲良くするのはダメなのが何となく分かるだろと聞いて思わず、分かると答えたが、いや、何となくで言えば確かに分かるのだが、じゃあ、本当の理由をなぜ教えてくれなかったのだろうか?
会ってはいけない理由を教えてくれれば、何がダメなのか分かれば俺も真白に会うなんて思わなかったかもしれないのに……
もし、俺に言えないような事でも、同じ神の真白に教えているはずだ。にも拘わらず、真白はまたと言った。本当は会っても大丈夫ということなのか?
それとも、また会うと言ったのは真白の嘘か?本当は会えないけど、俺を安心させるために言ったとか?
……なくはない話なのか?真白が俺に気を遣う……?いや、言っちゃ何だが、あいつが俺に気を遣うようなやつじゃない、我侭で自分を通す、無表情の裏にはいつでも強い意志を持っているやつだ。真白がまた会えると言うなら合えるのだろう。
そもそも、俺に気を遣うようなやつではない。たった数日だがその中で一回でも気を遣われた事があっただろうか?……あったっけ?まあ、あるかないか分からないレベルというくらいだ。雑に扱われた思い出のほうが圧倒的に多い。そんな奴が最後だからと言って俺に気を遣うとは思えない。
これに関しては、希望的観測とかではなく、俺は確信を持っていた。
本当に会えるかは置いておくとしても、やっぱり真白が気を遣ってそんな事言うとは思えない。それなら、なんでミコトは会ってはいけない理由を言わなかったのだろうか?
……まあ、今どれだけ考えても仕方のない事なのだろう。
本当に会えたらその時に聞いてみればいいのか。じゃあ、今の思考の時間は何だったんよ?となるが、おかげで、家から神社までの時間を潰す事ができた。
神社に着いたが、琴音の姿が見当たらない。少し早く着いてしまったか、携帯を見ると時刻は4時54分を表示していた。確かに多少、早かったか。
時刻を確認したあとそのまま携帯で『迎えにきましたよお嬢様』と連絡すると、すぐに琴音から『ちょっと待って!すぐ行く!』と返信がきた。
そしてしばらくして、
「ごめん!おまたせー」
と謝りながら琴音が登場した。
「いやー思ったより浴衣着るのに時間かかっちゃたわ」
「時間通りだし大丈夫だろ?」
「そう?ありがと」
「というか、忙しいって言ってたのに何でまた浴衣なんだよ?」
流石に巫女服で来るとは思ってはいなかったが、普通に私服で来るものと思っていたのだが、手間のかかる浴衣を着てきたので少し驚いてしまった。
「別に何でって事はないでしょう?せっかくの祭なんだから」
「いや。まあそうなんだけど……」
俺と祭に行くだけで普通わざわざ浴衣を着てくるだろうか?
「いいのよ、あんたは細かい事は気にしなくて、それより……どうよ?」
そう言って、手を広げて一周する琴音、デジャブを感じる光景である。答えを間違ったら今回の祭が最悪の思い出になりかねない。
「まあ、似合ってんじゃねえの?」
「でしょ?えへへ」
嬉しそうにする琴音、正しい答えのようだった……だいぶ無難な答えだが……
この前の巫女服の時も同じように答えるのが正解だったのだろうか?巫女服は別に初めてでもないし、急に聞かれても、何を聞いているのか分からなかった。
浴衣は初めてではないが、琴音の浴衣姿なんて小学生以来だろう。中学時代は一度も見た事ないはずだ。
無難な答えを選んだと言っても、別に嘘というわけではなく、紺色を基調とした、落ち着いた色の浴衣は、中身は別として、外見は大人っぽい雰囲気の琴音にはとてもよく似合っているように思えた。
「何ジロジロ見てんのよ?もしかして見惚れちゃったの?」
「まあちょっとな」
「え、ちょっ、何言ってんのよ!」
おおー照れてる、照れてる、自分で聞いたくせに、珍しい表情だ。いつもそんな感じなら、もっと可愛げがあるのだが……
「もう!馬鹿なこと言ってないで行くわよ!」
「お前が聞いたんじゃねえかよ……」
「うっさいわね!」
逆ギレ……さっきまで機嫌よかったのに……まあ、照れ隠しだと思えば可愛いものか
「はいはい、悪かったって」
「たく、大玉のたこ焼あんたの奢りね」
「なんでそうなんだよ!」
「何よ不満なの?それなら一個くらいはあげてもいいわよ?」
「譲歩したみたいに言ってんじゃねよ!元々俺が買ったやつだろ!」
「ギャーギャーうるさい奴ね、じゃあいくつ欲しいって言うのよ?」
「だから奢る事が前提なのがおかしいだろ!?」
なんだこいつ……横暴過ぎる。
「仕方ないわね……ただで奢るのが嫌っていうのなら勝負しようじゃない」
「勝負?」
「そう、いくつかの屋台を巡って、そこで勝負して負けた方が最後に奢りよ!」
なるほど、奢りのくだりはこの勝負の話をするための茶番だったということか、回りくどいんじゃないか?
「いくつかって言っても今、そんなにお金持ってないんだけど」
「あんた金欠なの?せっかく遊んでやるって言ってやってんのに……何に使ったのよ?」
「まあ、ちょっとな」
昨日、真白と屋台を回ったからとは言えなかった。一応、旅行から帰ったという事になっている、それに、何で二人だけなのか聞かれても答えられないからだ。
「んーまあいいわ、じゃあ3回勝負にしましょう、そのくらいならあるでしょ?」
一応、財布を確認する。まあ、十分あるか。
「ん、大丈夫」
「じゃあ、それで決定ね」
勝負か……まあ琴音と遊ぶならそうなるか。
「じゃあ、負けたらたこ焼きって事でいいんだな?」
「そうね……それなら、一つだけ言う事を聞くっていうのはどう?」
「いやどうじゃねえだろ、罰ゲームの内容をいきなりハードにすんじゃねえよ」
どこのデスゲームだ。
「何よ、負けるのが怖いの?」
「なに?」
琴音のやつ、なんつう安っぽい挑発をしてきやがる……だが、安っぽい挑発の方が受けたくなるのは何の性だろうか?
「いいぜ琴音、受けてやるよ」
安請け合い上等、勝てばいい。
「言ったわね、後で泣いても知らないからね」
「こっちの台詞だ」
どこかで聞いた事のある掛け合いだが、こんなのはいつもの茶番だ。勝負事があればいつもこんな感じだ。最近はしていなかったが……高校生になってもノリのいい奴だ。人の事は言えんけど……
「今回はガチで勝たせてもらうわよ」
琴音は気合が入っているようだった。まあ、琴音の願いを考えたら小学校の時の勝負のようにはいかないだろう。
俺もこいつの幼馴染、今までの行動から何を考えているのかくらいわかる。しかし、それなら
「俺も負けるわけにはいかねえ」
そっちがガチなら俺もマジだ。琴音が俺に言いたい事があるなら、俺だって言いたい事がある。
「じゃあ、行きましょうか」
「おう」
そして、なんの勝負をするか話しながら俺たちは戦場(屋台)に向かった。
今週はここまでです!読んでいただきありがとうございました!
感想、誤字脱字がありましたらお願いします……というか、誤字は現在修正中です!
同時に文章も多少の変更を加えています!現在5話まで修正しています!暇を見つけては修正していくので今後もよろしくお願いします!