またあえる
すっかり二週に一回投稿になってしまいました……。一度、楽をしてしまうと中々抜け出せないのを実に染みて実感できますね……。相変わらずの言い訳ですが、、、今回も投稿遅れて本当にすいません、次週こそは……
神社まで歩いて十分程だろうか、ゆっくり行っても十五分もあれば着いてしまう。それが俺に残された最後の真白との時間、俺は未だに何を話せばいいか迷っていた。しかし、時間は進む。もう延ばす事もできない。一歩一歩、歩けは歩くほど終わりが近づいてくる。もう無言が心地よいなんて言っていられなかった。
頭に浮かんだ事をとりあえず話していく。
「今日楽しかったか?」
「うん」
「何が一番楽しかった?」
「……きんぎょ?」
「金魚掬いか?まあ、確かにあれが一番集中してたもんなお前……じゃあ、上手かったものは?」
「あめいったく」
「いや、その答えはどうなんだ?……まあいいんだけど、というか、ミコトと一緒にいた時も飴とかもらえるのか?」
「ミコトがくれる」
「ふーん、神様の事情はよくわからないけど、普段は俺たちとそう変わらない生活なのか?
飯食ったり、寝たり、お菓子食べたり、遊んだり、仕事?とかもしたりしてるってことなのか?」
「まあ、そう」
「ま、そうか、俺の家にいた時もそうだったもんな、食べて、寝て、遊んで…………病気もしてたな……会った時から、というか今も……何かミコトは言ってなかったのか?」
「ない」
「あいつ俺はともかく当の本人にも言ってないのかよ……自分ではどうなんだ?大丈夫なのか?」
「だいじょうぶ」
「なら、いいけど……記憶は何も思い出せない?」
「……うん」
「そっか、じゃあ結局、お前は誰を待ってたんだろうな、ミコトだったのか、それともまた別の誰かなのか、それに何で記憶がなかったのかも、全部謎のままだったな、ミコトは何か知ってる感じだったけど何か聞いてるのか?」
「いえない」
「一応、聞いてはいるんだな」
「ひみつじこう」
「なんでちょっと言い直したんだ?」
「きんそくじこうです」
「だから何で言い直すんだよ……それにお前の雰囲気は長門の方が近いだろ。というか神様の間でアニメが流行ってんのか?」
「きんそくじこうです」
「何があったらこの質問の答えが禁則されんだよ!神様達は俺達に何を隠そうとしてんだよ?」
「しりたい?」
「……いや、怖そうだからいい……まあ、禁則事項になるなら少なくともアニメは見てるってことなのはわかった」
「……しってしまったか」
「知ってはいけない秘密を知ってしまったみたいな雰囲気だすの冗談でも本当に怖いから辞めてくれませんか?あの、冗談だよな?」
「……………………」
「なぜ黙る!?」
「……じょうだん」
「本気で怖いから辞めろよ!てか、何の話をしてたんだっけ?……ああ、そうか、何で記憶をなくしたのかミコトからは聞いてるって話か……脱線し過ぎだろ……で詳細は言えないって事か」
「いえない」
「そうか」
「きんそくじこうです」
「やめろ繰り返すな」
「むう」
「不満そうにするな。しかし、何で言えないかはわからんけど、そっちで決まった事に俺は何も言えないからな、それこそ冗談じゃなく俺が知ったらいけない話なんだろうな」
「そうだ」
「ちょっと偉そうだし……神様だからホントに偉いんだろうけどさ……」
「えへん」
「現実の本当に偉い人はえへん何て言わねえよ」
「うむ」
「それは言いそう……いや、何の話をしてんだ…………そういえばミコトからは記憶がなくなる前の話は聞かないのか?」
「ない」
「え、何で?……あっそうか、一年に一度しか会えないって話だったけ?そういえば」
「うん」
「あれ?でも、一年に一回、会っていたって事はお前が記憶をなくしたのって少なくとも一年以内になるのか?それより前ならミコトが異変に気づくだろうし」
「……いえない」
「これもか……、あんまりその辺の事情は聞かない方がいいみたいだな」
「ん」
「そうだな、えっと、じゃあ……」
とここで次の話題が浮かんでこない。話題が制限された事が引き金だろうが、ずっと頭の中で最後がこんな話でいいのかといったモヤモヤが渦巻いていた事が一番大きな原因だっただろう。
また沈黙してしまった。
真白は俺が話さないと見るやリンゴ飴に齧り付いてしまった。何とも豪快な食べっぷりである。
こいつは今の状況になんとも思わないのだろうか……
「なあ、お前は俺と別れるのって寂しくないのか?」
つい言ってから気づく、なんと女々しい発言だったことか、しかし発した言葉は返ってくるわけもなく真白に届いている。
リンゴ飴を口に中でモシャモシャと食べながら俺を見る。そして、飲み込んですぐに
「いや?」
おや?今、いや?って言われた。あ、あー嫌ね!別れるのが嫌って事ね。本当に言葉足らずでわかりにく……
「さみしくない」
マジすか……え、じゃあ何で我侭まで言って会いに来てくれたんだよ。寂しくないとかそんな残念な事があっていいのか?
「こ、これで最後って言うのにお前は寂しくないのか?」
少し泣きそうに、いや既に半泣きしているかもしれない俺の問いに真白は首を傾げた。
そして首を振った。
え?
「さいごじゃない」
最後じゃない?
「いや、でもミコトがこれが最後って言ってただろ?」
「だいじょうぶ」
「いや、大丈夫って……」
「また、あえる」
その言葉に一体どれだけの根拠があるのか俺には検討もつかない。いつも何を考えているのかわからないやつだが、今回は本当に意味がわからない……わからないが、しかし、真白が言うならきっと会えるのだろうと思ってしまった。これは俺の根拠のない真白への信頼だが。
今日を思い返してみれば、一貫して真白はいつも通りだった。俺のように悲しくなったり、寂しくなったり、苦しんだりする様子を見せなかった。
それは、悲しくないとか、寂しくないとか、そういう話ではない、真白は今日を特別だと思っていないだけの事だったのだ。
俺以外にも会いたいと言っていたのに、わざわざ二人でいいって言ったのもまた会えると思っていたからなのだろう。
真白にとって今日は別れでも、最後じゃない、また会える、そういう事なのだ。
「そっか、それじゃ焦る必要もないか……」
「そう」
また会えるなら、焦る必要もない。最後じゃないならゆったり構えていればいい。
真白と同じようにいつも通りにすればいい。
その後はもう俺は言葉を無理に捻り出そうとはしなかった。
そしてそのまま俺も真白も神社に着くまでお互い話さないで着いてしまった。しかし、その間の道のりには、焦りが消えてまた心地の良い静けさが俺たちの間には再び流れていた。
*
「ありゃ?思ったより早かったじゃねえか?俺の予想じゃ俺の言ったことを無視して二人で逃げ出すかと思ってたぜ」
「しねえよ、そんな事」
まだそんな事思ってたのかよ……と神社の中ではなく、神社に続く階段下の鳥居の柱にもたれていたミコトの言葉に突っ込む。というか、逆向きに歩いて行ったはずなのに何で先に神社にいるんだよ……なんて突っ込みは神様には通用しないか……
「ま、それは冗談だとしても、寄り道一つくらいはしてくると思ったんだけどな」
「いや、駄目だって言ったのミコトだろ?」
「言ったろ?俺も鬼じゃねえって、寄り道するなって言ったら、してもいいって振りだろ?」
「分かるわけがないだろ……」
そんなお決まりみたいに言われても、結構真面目に話していたようにみえたのだが
「ま、もう帰って来たってことは、どちらにしろ、そんな寄り道する必要がないって事なんだろ?」
「……まあ、な」
「意外とすっきりしてんだな、また駄々こねられると思ってたぜ俺は」
「…………」
駄々をこねないのは、また会えると思えたからかもしれない。きっと、というか、やっぱり、心のどこかでは別れたくないと、どれだけ押さえつけても消える事はなかっただろうから。
「お前らがそれでいいなら俺はそれでいいんだけよ……本当にもういいなだな?」
「いいよ、ミコト」
「マジでさっきはあんなに不満そうだったのにここに帰ってくるまでに一体、何があったんだよ?」
ミコトでも全部が全部、分かるわけではないようだった。神様と言ってもそこまで万能というわけではないらしい。
「まあ、ちょっとな……」
ミコトの問いに少し言葉を濁して答える。
「そっ、じゃあ、これで本当に言い残した事とか、何かないか?」
言い残した事なんて、なかったが俺はただ一言だけ
「またな」
と真白に言う。そして頷く真白。
少し明さまな言い方過ぎたかもしれないが、きっとこれでいいのだろう。本当に最後ではないのだから。
「おい、幸一……」
やはり、明さまな過ぎたせいで何かミコトが言ってくると思ったが
「いや、やっぱり何でもねえ」
結局、ミコトは何も言わなかった。
「じゃあ、これでさよならだ幸一、今度こそは本当にな」
「ああ」
ミコトはやっぱりもう俺と真白を会わせる気はないようだ。それでも真白とはまた会える。そんな気がしてならない。真白がそう言ったからという理由もあるが、俺も何となくそんな気がしていた。
確信があるわけではないし、楽観的というか、ただの希望的観測でしかないのだが……何とかなるような気がする。すぐにではなくとも、いつか、またきっと会える。
「じゃあ、いくぞ」
とミコトは真白に言い、真白は頷いてミコトの後に着いていった。
鳥居をくぐって、神社に続く階段を登って少ししたところで真白は少しだけ振り向いて、俺に手を振った。
俺も手を降り返し、心の中で「またな」と言う。
階段を上りきって見えなくなるまで見送ってから、家に帰ることにした。
疲れがドッと押し寄せてくる。神輿をかついだ後も結構な道のりを歩いたのだから、それは疲れるに決まっている。
引き摺る様に足を動かしながら、家に帰る。
疲れの割に気分は清々しさで満たされ、ゆったりと歩く帰りの道のりは静かで気持ちがよかった。
いつもの二倍くらいの時間をかけて家に帰る。
友達の家で泊まって楽がおらず、家はシンと静まりかえっていた。
俺はシャワーも浴びずに真っ直ぐ自分の部屋に向かい、ベッドに倒れる。
そして今日の出来事や、真白と遊んだ、海や水族館などの事を思い出しているうちに俺は気を失い、いつの間にか眠ってしまった。
その夜、俺は真白と初めて会った日と同じように
夢は見なかった。