祭のあと
またもや間に合わず、そして三話投稿は出来ず……一話のみ
本当に申し訳ない。次週こそは!ってこれ何度目でしょう……本当にすいません!
金魚掬いをした後もしばらく真白と屋台をめぐった。食べて、遊んでを繰り返えした。
しかし、時間も時間だ。どこの屋台も次々に店じまいしていった。
真白が十分に楽しめたかどうかは、相変わらず無表情なので何とも言えないが、真白の格好だけ見れば祭を満喫した事だけはよくわかった。
頭にひょっとこのお面を被り、右手に金魚を、左手で水ヨーヨーを弾き、手首には光るブレスレットをして、口元にはさっき食べた、たこ焼きのソースがまだ残っていた。
格好だけみれば今日の祭を一番楽しんだのは多分こいつだと言える。
「おい、ソース付いてるぞ」
ポケットからティッシュを取り出して真白の口元を拭く。
「んむ」
されるがままに黙って拭かれる真白。
さーどうしようかね?一応来た道を戻っているが、ほとんど店は閉まっている。人通りも本当に同じ所を歩いているのか疑う程少なくなっていた。
まあ、十分満足いくほど屋台で遊ぶ事は出来たはずだ。
「おーい、お兄ちゃん達!」
聞き覚えのあるようなないようなうろ覚えな声が聞こえてきた。
声の主はリンゴ飴を売っていた出店の店主だった。
通りでうろ覚えな声なわけだ。
「どうしたんです?」
呼ばれたからには無視するのも悪いのでどうしたのか話を聞きにいく。
「普通のリンゴ飴も欲しそうに見てただろ?売れ残っちまったから兄ちゃん達にどうかなと思ってな」
「え!本当ですか?」
「おう、500円のところ姫リンゴと同じ300円でどうだ?」
きっちり金取るのかよ……商売精神を忘れない人だ。
「んーどうだ?真白?」
元々欲しそうに見ていたのは真白なので買うかどうかは真白に聞いてからの方がいいだろう。
「じゃま」
「いやあの、お嬢ちゃん?ほら、もう人も少ないし……邪魔にはならないんじゃないかな?」
おーめげないなこの人。圧倒的なノーを突きつけられたのに
「んー?」
考え始める真白。チョロ過ぎじゃないだろうか?
「こういち」
「はい」
「ゆずる」
「あ、どうも」
あれ?おかしくないか?思わずお礼言ってしまったけど、買うのは俺なのに譲るというのはおかしいだろ……そしてちょっと偉そうだし……。
「ほら兄ちゃん。お嬢ちゃんからのプレゼントだぜ」
とリンゴ飴を差し出してくる。調子のいいおっさんだ。
「はいはい、わかりましたよ……」
「流石!男前!よっ色男!」
「ぱねえ」
はやし立てないで欲しい、というか真白はどこでそんな言葉を覚えてくるんだ?
言いたい事は色々あったが、もう何も言いたくない。店のおっちゃんに300円を黙って渡す。
「ありがとな!お兄ちゃん!」
感謝の言葉とリンゴ飴を受け取る。久々に買ったが、やはりでかい。胃がもたれそうだ。
「あー兄ちゃん達、よかったらまた明日も来てくれよ!ここでまた店開いてるから!」
「あはは……」
と微妙な笑いをしたが、店のおっちゃんも、さして気にした様子もなく「完売♪完売♪」なんて鼻歌交
じりに店の片づけを始めた。
「はあ、まあいっか……」
リンゴ飴をとりあえず今はまだ食べない。人が少なくなって邪魔にならなくなったと言って説得されたが、普通に食べにくい、歩きながらではボロボロこぼしてしまいそうだ。
店から離れ、周りを見ると、どうやらリンゴ飴を買っているうちに、やっている出店はもうなくなってしまっていた。
「なあ、真白」
首を傾げて反応する真白
「神社に帰りたいか?」
「まだ」
「……だな」
俺もそう思っていた。
屋台巡りは満足かもしれないけど、まだお別れは早い。
ミコトは満足したら戻ってこいと言っていた。それならまだ、まだ戻らなくてもいい。
「じゃあちょっと歩くか」
真白は特に反応を示さず黙ってついてきた。
「…………」
「…………」
歩いている間は二人揃って何も話さなかった。そういえばそうだ。基本的に無言。二人だけで歩く時といえば最初はかなり気まずくて仕方がなかったのを思い出す。
だけど、今は、この静寂が心地よかった。
特に行く場所を決めて歩いている訳ではなかったが自然とその足は海の方へと向かっていた。
今日は特に満月と言うわけでもなく、初めて真白とあった時のようには明るくはなかった。しかしそれでも真夏の夜、晴れてさえいれば、薄暗くはあるが真っ暗というほどではなかった。
砂浜を真白と歩く。
ゆっくりと、かみしめるように、ゆっくりと、ふみしめる。
少し歩くと真白が水ヨーヨーを左手から金魚を持つ右手に持ち替えた。間違えて金魚を弾くんじゃないかなんて馬鹿な事を考えていると、真白は俺に手を突き出した。
持ち替えたのはそういうことか。
何も言わずにその手を握る。やっぱりまだ少し照れくさい。
それよりどうして急に手を繋ごうとしたのだろうか?屋台の通りのようにはぐれそうなわけでもないのに……んーまあ、砂に足を取られて転ばないようにとかそういった理由だろう。
それくらいのエスコートはしましょう、お姫様。真白はお姫様ではなく神様なのだが。
しかし、こうしているとやっぱり、少しドキドキはしても、俺の中で真白は楽と同じ妹みたいな存在のようなのだと思う。
いや、別に楽にドキドキするということではないので安心してもらいたい。
何といえばいいだろうか?妹みたいに大切?と言う感じが近いのだろうか?……それもまた違うような気がするが……
守らなければならない思いがあると言えばいいのかもしれない。そこが楽と重ねてしまうという事なのだろう。
親が家にほとんどいないため保護者代わりとして、一番近い人間として、兄として、傍にいてやらないといけない楽と
会った時から記憶をなくして、会った時から無視できないやつで、ずっと俺には、弱々しく、消えそうで、儚くて、ほっておく事が出来なかった真白とでは、
二人とも理由は違えど、守ってやらねばと俺に思わせる存在だった。
自分の手に握られている小さな手を少しだけ強く握った。真白はそれに対して特に何も反応をみせなかった。
しかし、守ってやりたいなんて本当は言えないのだが。
守るどころ何も出来ず、苦しめてしまっていた俺には。
まあその話を蒸し返しても仕方がない。神様の事を人間がどうこう出来る訳がなかったのだから。もちろん、開き直るわけじゃないし、反省してないわけじゃない。ただ今は、反省よりも悔いるより、難しい事を考えないで、真白との最後の時間を楽しむ事が一番重要だという事だ。
……あとどれくらい一緒にいられるのだろうか?
時間は見なかった、見てしまうと、一瞬のうちにこの時間が終わってしまうような気がしたからだ。
「ちょっと座るか」
近くのベンチに足を止める。
足を進める程、終わりが早まるような気がしたからだ。
ベンチに座っても手は離さなかった。話したらどこかに行ってしまう気がしたから。
何をしても終わりが来るのはわかっている。延ばす事が出来ても、時間が止まる事はありえない。
波の音だけが聞こえる。無言の心地よさもいつの間にか焦りに変わり始めていた。
「しりとりでもするか?」
「いい」
「ですよねー……」
テンパリ過ぎだ。しりとり何かで貴重な時間を潰してどうするんだ俺!
と言っても何を話せばいいのだろうか?最後に何を伝えればいいのだろうか?
言いたい事や聞きたい事が山ほどあり、迷走し口が開けなくなっていた。
「こういち」
何を話すか必死に考えていると先に真白が俺の名前を呼んだ。
「ど、どうした?」
改まった場面で一体何を真白が言うかが想像できず、少し構えてしまう。
「すき」
「……………………へ?」
聞き間違いでしょうか?好きって言われなかったか?いやいや、いや。それは駄目だ真白!記憶がないからってお前にはミコトがいるんだぞ!いや、でも……!
「らくも、ことねも、すずねも、おっさんも、みんな、すき」
「…………………」
「みんな、いいひと」
「……そうだな」
残念なような安心したような……いや、残念がってはいけないのだろうが……初めて告白されると思ったのだから許して欲しい。
「また、あいたかった」
会いたかった、その言葉はとても寂しかった。しかし、それなら
「会いたかったなら、何で二人がいいって言ったんだ?」
それなら何で二人がいいなんて言った?
真白は首を傾げた。
「……………………」
「……………………」
真白は首を傾げたまま黙っている。ずいぶんと考えているようだ。一体何を考える事があるのだろうか?もしかしてまずい事を聞いたか?
と真白の斜めっていた首が元に戻る。そして
「ひまそうだったから?」
とまた首を傾げて答えた。答えたというか疑問系なのが謎なのだが、というか考え抜いた答えがそれですか……ならもっと早く答えられただろうに……
「あっそう……」
げんなりとしながら答える。まあ確かにおっさんは知らないが、楽は友達と一緒だったし、琴音や鈴音も忙しかっただろう。そうなると、残ったのは俺だけか……当たり前といえば当たり前の話だ。真白の正体も事情お知っているのって俺だけだし……いや別に、何かに期待していたわけじゃないが、まあ、そりゃ、ね。
そしてまた沈黙が訪れる。結局、真白が何を伝えようとしたのかイマイチわからなかった。質問したせいで水を差してしまったかもしれない。
「…………なあ」
沈黙に耐えられず、何かを話そうと真白を呼ぶが特に内容が上手く浮かばない。真白は俺の次の言葉をじっと待っている。何も言わないでいると次第に真白の首が少しずつ横に曲がっていった。
「あ、いや、えーと」
真白は完全に首は傾げてしまった。まずい、完全に不審がられている。しかし「いい天気だな」くらいしか思い浮かばない。そして諦め天気の話をしようとした時、手に持っていたリンゴ飴が眼に入る。そういえば
「なんでお前、飴が好きなんだ?」
絶対に今聞く事じゃないだろ
「あまいから?」
「そうですね……」
本当に何を聞いているのだろうか……あれ?
「そういえばお前、なんで飴が好きな事は覚えてるんだ?」
よくよく考えたらおかしい事だ。ほとんど何も覚えてない真白がなんで飴が好物だった事を覚えているのはちょっと変に思えた。しかも、正しくはただの飴ではなくべっこう飴と妙に具体的だったのも気になる。
「だれかに、もらった」
真白は話し始めた。
「あまくて、やさしかった、だから」
好きと真白は言った。初めて聞く話だ。
「その誰かってミコトの事か?」
「……ちがう…はず」
「そうなのか?」
「たぶん」
判然としない。しかし、ミコトじゃないなら誰なのだろうか?もしかしたら俺が真白と会う前にも真白と出会った人がいたのか?それならば、真白はミコトじゃなくてそいつを待っていたという可能性もあるのか?
もしそうなら……一体、いつの時代の人だ?神様相手なら長年待ち続けても会える可能性はあるだろうが、人間なら一〇〇年もあれば死んでしまう。
「……真白、やっぱり、これお前が持って帰れ」
俺は手に持っているリンゴ飴を真白に差し出す。
「どうして?」
「いや大した意味はないんだけどな、俺が持って帰るよりお前がお土産みたいに持って帰るほうがいいと思っただけ」
まあ、本当にその理由もあるのだが、今の話を聞いている限り、真白が誰かに飴をもらう事が何か特別な事のような気がしたからだ。
今まで何度ももらっている所を見ても、何も反応がないので本当は特別な事なんて何もないのかもしれないがそれでも
もう、会うことが出来ないその誰かの代わりに飴を渡したほうがいいように思ったからだ。まあ、べっこう飴ではなくリンゴ飴だし、甘いかもしれないがやさしい味がするかもわからないのだが。
それでも渡して置きたかった。ただの自己満足だが。
「ん、わかった」
と言って、真白は俺の手からリンゴ飴を素直に受け取った。
「ふふっ」
リンゴ飴が加わった事でまたさらに祭を超満喫した少女になっていて少しおかしくなって笑ってしまう。
真白はなぜ笑われたかわかってないようで不思議そうに首をかしげた。そして、狙ってやったかのように頭に被っていた、ひょっとこの面がずり落ちて真白の顔に被さった。
「あははははは!」
一人で爆笑である。真白は面をまた頭に被り直し、まだ笑っている俺の右すねを蹴った。
「いってぇ!」
けっこう痛い……笑えないくらい痛い。少し涙目になりながらすねを摩る。今の照れ隠しなのか?一応、真白にも恥かしいって気持ちもあるんだな。
すねの痛みが少し引いてくると、さっきの真白の姿を思い出してニヤニヤしてしまう。今までの人生の中でもトップ3には入る程の珍場面だったように思う。
「て、いったぁ!?」
ニヤニヤしている俺に怒ったのか真白はさっきと全く同じ右すねを蹴ってくる。何で一点集中攻撃なんだよ……俺の右すねを破壊する気満々の真白だった。
しかし、そんな恐ろしい兵器を前にしても俺は痛みに悶えながらも自然に笑みが零れてしまっていた。
笑っているのに気づいた真白がまた近づいてくる。
「ちょっ、違う真白!別にお前の事を笑ってるわけじゃないんだ!わ、わかった!謝るから!謝るから許してください!すみませんでした!!」
本気の謝罪だった。誰だって足を壊されたくはない。真白も俺の懇願を聞いてくれたようで蹴られる事はなかった。
「なあ、真白」
結局、口元が緩めるのを辞められずに真白に話しかける。今度は真白も蹴りにくる事はなかった。それを見て俺はもう満面の笑みをみせる
「楽しいな」
俺の心の底からの言葉だった。ずっと思っていた事がついに溢れ出て零れるように真白に伝えた。
「まあな」
「ははは……」
急に口調が変わるのも慣れたものだ。まあ、突っ込みたくはなるが。
楽しくて、面白くて、なんだか懐かしい。たった数日、会った日や今日を含めても一週間も満たないくらいしかまだ真白とは過していない。それでも、もう昔から仲がのよい旧友かのように、一緒にいるのが楽しかった。本当に楽しい、楽しいからこそ、俺の中に欲を生んでしまった。
「本当に今日でお別れなのか?」
それは言うまいと心に決めていた事、言ったって無駄なのもわかっていたはずだったのだが。
どうにもならない、どうしようもない、どうすることもできない、そんな当たり前の事実を受け止めているはずなのに、俺は止まれない。どうにかなってしまっていた。
「明日も祭があるし、それに明日なら楽も、琴音も、鈴音も言ったら来てくれる。少なくとも琴音は絶対に来る」
決壊したダムのごとく楽しさが溢れたのと同じように俺から我侭が漏れ出した。別れたくない、これで最後なんて嫌だ。
今日だけで満足出来る訳がない、やっとまた会えたと思えたのに、もう会えないと、会えるわけがない、真白にやっと会えたというのに……
何が特別だ、会わせるくらいならもっと時間をくれてもいいじゃないか、少し会わせて、すぐに別れなんて残酷過ぎるじゃないか。
湧き上る不満の数々は冷静に考えればどれも的外れな事ぐらいわかる。というか今も、痛いほどわかっている、わかっていても、言わずにいられないのだ。
「真白がよければ、俺もミコトにお願いするから、あと一日ならもしかしたら許してくれるかもしれない、だから……」
「悪いなそれはできねえんだ幸一、そういう約束だからな」
「!!」
突如現れたのは他でもないミコトだった。
「まったく、おせえから駆け落ちでもしやがったのかと思ったじゃねえか」
ミコトはニヒルな笑みを浮かべているが、こっちにとっちゃ笑えねえ冗談だ。
「神社で待ってるんじゃなかったのか?」
「残念だけど時間切れだ幸一、にしても、こいつどんだけ祭満喫してんだよ」
ミコトは真白の姿をみてゲラゲラと笑っている。
「なあミコト、本当にもう明日まで延ばしたりできないのか?」
「できねえ、何を言っても、何をされても、それはできねえ」
さっきまでのヘラヘラした表情から一転、その表情は真剣そのものだった。これだけは譲れないと言う頑なな態度を示しているように思えた。
「言ったと思うが特別中の特別なんだこんな事、本当は無理だって事くらいお前もわってうるだろ幸一?」
わかってる、だからと言って、諦めたくない。
「あーあー、もう、そんな顔すんじゃねえよ。俺も鬼じゃねえ、急に来て連れて帰ったりなんかしねえから……そうだな、とりあえず……三分間まってやる、命ごいを……」
「「ばるす」!」
「目がああああ」
「いや、急に何してんだよ!?」
真面目に話しをしている時にボケないでくれ。思わずのってしまったが、というか真白ものっていたような……。神様もラピOタみるのか?
「あっははは!まあ、ちょっとは落ち着いただろ幸一?」
「落ち着けるか!」
余計に興奮してしまっている。
「まあまあ、お前が深刻そうな顔してたからちょっと和ませようとしただけじゃねえかよ」
「…………」
「いいか、幸一、真白も今は大丈夫って言ってもこの前まで危険な状況だったんだぜ?無
理させる訳にはいかないんだよ。それに何度も言うけどな、こうして会っていること自体
が特別、これ以上は許容できん。それに言っただろ?後悔しないようにって、そんな
事を考えながらじゃ、別れがよけい辛いだけだぜ?」
さとすようにミコトは俺に言う。
「……わかった」
俺はその言葉を受け入れる。ここまで言われて別れを認めたくないなんてもう言えなかった。思えば大丈夫と言っても、真白はまだ記憶も戻っていないような状態、全て解決したわけじゃない。むしろ何も解決してないとも言える。もともと危険な状態になったのは俺が遊びに連れて行ったせいなのだから……俺の我侭のせいでまた真白を危ない目にあわせるとこだった。
「さっきも言ったけど今すぐ連れて行くわけじゃねえ、今はお前らにもう神社に戻る時間だって事を伝えに来ただけだ。行かねえと、いつまでも戻って来ねえんじゃねえかと思ったんよ。まぁそういうことだ幸一。早くとは言わねえ、でも寄り道はすんじゃねえぞ」
「じゃあまたな」そう言ってミコトは一人歩き出す……
「と、そうだ。お前の荷物邪魔だろ?先に持って帰ってやるよ?」
と思いきや踵を返して真白の荷物を受け取りにきた。全て受け取ったミコトは真白と同じく、祭を満喫した人と化していた。ひょっとこの面がハンサムな顔の上についているのは何だかシュールに感じた。
「ん?なんだ?それは自分で持つのか?」
見ると真白の手にはリンゴ飴が握られていた。
「別に食べたりなんかしないってのに……まあいいけど、じゃあ今度こそ行くわ、ホントに真っ直ぐ帰ってこいよ?次は無理にでも連れて帰るからなー」
と今度こそミコトは去っていった。そっちは神社の方向じゃないのだが……気を使ってくれたのだろうか、確かにお別れを言ったのに帰り道が同じだったって結構気まずいもんな……というか逆方向に歩いて俺たちより早く神社に着くことが出来るのだろうか?
まぁ、今も突然現れた所を考えると、瞬間移動のような事が出来るのかもしれない?なんだかバトル漫画みたいな話だ。真白も本当は使えるのだろうか?
真白を見るとベリベリとリンゴ飴の包装を取っていた。いま食べるのか……?もう結構な量を食べた気がするのだが……。
「はい」
と真白は包装のゴミを俺に渡す。
「はいはい……」
そこらに捨てられても困るので受け取り、ティッシュに包んで無造作にポケットに突っ込む。真白の小さい口ではこの大きさのリンゴ飴は食べにくそうだ。
「持って帰ってからの方がいいんじゃねえの?」
「いや、いい」
「まあいいけど」
本当は持って帰って切ってから食べるという食べ方がおいしく食べるコツらしいのだが、と言っても祭で買ったものをその場で食べないのも無粋のようにも思えるので、真白が今食べるのは正しいのかもしれない。
しかし、全部食べ終わるのを待つ時間もないので
「いくか」
と真白に言う。これで本当に最後、もう駄々はこねない。受け入れたくなくても、受け入れないといけないと受け入れた。諦めないでいるのを諦める。逃げても無駄だし、先延ばしにしても別れはくる。それが今日だという話だ。突然の別れのように思ってしまっていたが、そんな事はない、何時間も前から知って準備をしていた。本当はもっと前から、なんなら会った時から知っていたような気もする。さっき出た我侭は別れを受け入れるための最終確認だったのだろう。もう大丈夫、完全に覚悟は出来た。
俺は優しく真白の手を握る。真白は特に何の反応も見せないで飴を舐めていた。俺はそれに苦笑して最後の別れへと歩き出した。
ゆっくりになるはずもなく、ましてや止まるなんてありえない時間がベンチに座ってから今やっと動きだした気がした。
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