再会
遅れましたが続きです。
締め切り守れない私をどうか責めてください……
本当に毎回毎回、申し訳ございません!
「おいおい、俺のことは無視か?」
ヘラヘラと笑いながらミコトは何事もないかのように俺に話しかけてくる。
驚きで混乱している頭でなんとか言葉を発する。
「いや、だって、お前」
「おい幸一、名前で呼ぶことは許可したがお前と呼ぶまで許可した覚えはないな、これでも神様だぜ?」
これもヘラヘラしながら話しているところをみると言い方ほど怒ってはいないようだが、一応、関係性を明確にしておいたのだろうか。
しかし今はそんな事で話を逸らさないでほしい。
「なんでいるんだよ!?」
「あん?ずいぶんな言い方じゃねえか。俺に会いたくなかったのか、それともこいつにか?」
「茶化さないでくれ!」
思わず叫んでしまう。バツが悪そうにするミコト
「悪い悪い、怒らないでくれ。俺も捨てゼリフのようにあんな事を言った手前、あんたに会うのが少し恥ずかしいのよ」
あんなこと――「もう会うことはない」と真白を連れ帰る時に言った事だろう。
そう、ミコトは確かに言ったのだ。会う事はないと、ミコト自身、それに真白とも
しかし事実、目の前にいる。ミコトも真白も
それなのに何で……?
「わたしがいった」
答えたのはミコトの横にいる真白だった。
「まあ、そういう事だ幸一」
「いや、わかんねえよ」
何一つ情報がない
「だーかーらーこいつがお前に会いたいって言ったから会わせてやった、それだけの話なんだよ」
そんな事なのか?そんな事で会えるのならあの時、もう会えないなんて言わないんじゃないのか?
「あーでも勘違いすんな?こんなの特別中の特別、特例中の特例だ。大体お前も何となく分かるだろ?神様と人が仲良くするなんて普通じゃないことくらい――だから、これが俺が聞くこいつの最後の我侭なんだよ」
最後の我侭――つまりお前に会わせるの最後と言っているようなものだ。
「というかミコトはそれでいいのか?聞いた話じゃ真白とミコトって恋人みたいなものなんだろ?」
「え?俺とこいつが?……あーあー!そうね!いやまあ、そのくらい寛容なのがいい男ってもんだろ?」
そんなものなのだろうか?二人が恋人という言葉にも意外そうな反応を見せていた。
……まあ、実際そんなものなんだろう。むしろ一年に一度しか会えない相手にちょっとした事では嫉妬しないのかもしれない。
でも、真白の危険を感じ取ってわざわざ駆けつけていたところを考えたらそこまで冷めてもいないのだろうか?神様なのだからその辺の価値観というのもまた違うのかもしれない。
いや、そんなことよりだ。
「もう大丈夫なのか?」
もちろん真白のこと、ずっと気になって、気掛かりだった。会えないからもう知ることは出来ないと思っていたこと。
真白は俺の質問に――頷いた。
「ああ、大丈夫だ。といっても記憶の方は戻ってないけどな」
ミコトはさらに付け足して答える。
記憶は戻ってないか……まあ確かに雰囲気も前と変わらない。まあ、元々の素がこんな感じなのかもしれないのだが。
「流石にあれだけ弱っていて完全回復とはいかねえわな」
弱っていた。神様が弱る理由、原因、やっぱり俺に関係しているのだろか?ミコトが言った「お前と出会ったせい」と言ったのがやはり気掛かりだ。
もう思い出さないようにとしてきた事だが、それはもう会えなくてどうしようもないと思ったから。
しかし
会えたなら、知る機会が与えられたならやっぱり知りたかった。それが、後悔につながるとしてもだ。
「なあミコト……真白が記憶を亡くしたのって……俺が関係してるんだよな?」
「いや?してないけど?」
何でそんな事を言っているのか不思議そうに答えるミコト
「し、してないって……それなら真白を連れて行ったあの時、俺と出会ったせいで真白がこうなったみたいな事を言ったのはなんだったんだよ!」
「あれは俺があの時、最悪の状態の真白を何も考えずに連れて行った事に腹を立ててつい言ってしまっただけで深い意味なんてねえよ。それに言っただろお前に言っても仕方がない事だって、そんなの言われないとわかんねえからな」
「違う!連れ回したことよりもっと根本的な事だって言っていただろ?それってどういう意味だったんだ?」
「ん?そんなこと言ったっけな?あの時は俺もカッとなっていたからよく覚えてねえな」
ごまかしている?あの時ミコトは確かにカッとなっていたがすぐに冷静になったはずだ。
「疑ってるな?幸一?いや本当にお前は関係ないんだって、大体考えてみろよ、お前がこいつと初めて会った時からこいつは記憶をなくしていたはずだろ?」
それは確かに疑問に思っていた。真白は俺と会う前から記憶を亡くしていた。だから俺が記憶をなくした事に関係していると考えるのは不可解なのだ。
「おいおい、まだ難しく考えているのかよ?確かにお前は事態を少し悪化させたかもしれねえ、だけどそれだけ。それにおれ自身も、こいつの記憶がなんで亡くなってるのかよくわかってないんだよ。意味深な事を言って不安にさせたなら謝るからさ」
そしてミコトはさらに「それよりさ」と続く
「こいつと祭を楽しんでやれよ。今日はそのために無理を通して来たんだぜ?それもこれも全部お前との思い出を残すために、それがそんな暗い感じでいいのかよ?なあ?」
そう言ってポンっと真白の背を押すミコト、真白は俺の顔を見て頷き
「いけ」
と言った。
何で命令形……と思いつつ少し苦笑してしまう。
「うん……そうだな、そうだよな……」
本当はもう会えないはずだった真白が会えただけで十分なのだ。無事だったということが分かっただけで十分なのだ。
これで本当に最後という言葉は確かに寂しいが、それでも、以前のような別れのように唐突ではなく、真白を苦しめることもない。
もう後悔する別れ方はしたくない。悲しい別れなんてしたくない。
「じゃあ行くか!真白!」
真白は何度も頷いた。
「そうそう幸一、楽しんでくればいい、後悔のないようにな。満足したらまたこの神社に帰ってこいよ」
「ありがとなミコト」
「いや、いいんだよ、こいつの最後の我侭なんだし」
と言いながら一瞬切ない顔をしたように見えたが、つかの間、「じゃあ楽しんでこいよ」とだけ笑顔で言い残しその場からいなくなってしまった。どこに行くんだろうか?まあ、神社のどこかにはいるのだろうが……
「いこ、こういち」
服の袖を引っ張って急かす真白。顔には出ないが相当ワクワクしているのだろう。
「ん、じゃあ行くか……と、その前に」
せっかくだから楽や琴音達にも真白がいる事を伝えてようか。楽も琴音も鈴音も忙しくてもきっと少しくらうなら一緒に祭を楽しんでくれるはずである。
「なあ真白、楽たちも呼ぼうか?」
ともうすでに真白が頷くのを予想して携帯の準備をしていたが――真白は首を横に振った。
「いい」
「え?」
予想外の答えに思わず聞き返す――そして
「ふたりが、いい」
頭に一瞬、空白が出来る。
しかしすぐに
「そっか」
と何事もないかのように返事をした。
「じゃあ、改めて行くか」
真白は軽く頷き歩き出す俺の横にぴったりとくっつく。
神輿を担いだ疲労感や、急な出来事への驚き、祭の日の何とも言えないワクワクなど、いろんなものを感じていたが、いま心の中を占めていたのは全て、水族館に行った時に感じた、感じてしまった――真白への変な意識だった。