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男の神様

パソコンが使えなくなっていたためしばらく投稿できなかった事をお詫びします。

 家についてすぐに自分のベッドに真白を寝かせる。

 真白は眠ったまま息を荒くし苦しそうにしていた。


 楽はまだ部活から帰っていなかった。正直これにはほっとした。具合の悪い真白を見たら楽なら間違いなく大騒ぎする。

 おっさんや救急車を呼びかねない。


 それに、今の真白は触れても触れていないように感じる。正体不明の病気かそれ以前にオカルトの部類として扱われてしまうだろう。


 楽が帰ってくるまでにどうにかしなければいけなかった。しかし、何をすればいいのか見当もつかない。


 とりあえず、人が風邪をひいた時と同じような処置をしてみるが、とても効果があるようには思えなかった。

 何か……何とかする方法は……


「あっ」

 焦る俺に一つの希望の光が見えた。初めて真白と会った日も真白に触れた感覚がなかった。そして触れられるようになったきっかけが名前をつけた事だったはず。

 それならば、もう一度、名前を呼べば元に戻るかもしれない。


「神代真白」


 真白のフルネームを呼ぶ。

 そして恐る恐る真白に手を伸ばし触れてみる。


「…………!」


 触れた真白の腕に触れた感覚はなかった。


「っっくそ!」


 やけになり、真白の腕を触ったまま真白の名前を連呼する。


「神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白!神代真白……!」


 どれだけ、何度も呼んでも真白の腕を触れたと感じることはなかった。


「じゃあ俺はどうすればいいんだよ……」


 うな垂れ崩れ落ちる。

 何も出来ない。何もしてやれない。苦しむ真白に対して自分の無力さを実感していたその時


 ピーンポーン


 と家のインターホンが鳴った。


 こんな時に誰だ?

 楽が帰ってきた可能性も考えたが、楽は家の鍵を持っているし、帰ってきたときは鍵がしまっていたから鍵を忘れていったということもないから楽ではなさそうだ。


 ただのセールスや宅配便だろうか?

 無視しようかと思ったが出なければいけない気がした。そして、誘われるがまま受話器を手に取る。


「……はい」


「あ、出た。なあ、俺の連れがそこにいるだろ?」


 その言葉を聞いて俺は受話器を急いで戻してすぐさま玄関へ駆け出した。「俺の連れ」という言葉に心当たりがあったからだ。というより、俺が、いや俺なんかよりも、真白がずっと待っていた相手、琴音から聞いていた神社の伝承にあった男の神様だと思ったからだ。


 鍵を開けてドアを開く。


「よお」


 ドアが開いた先で黒いショートヘアの鋭い目つきの青年が片手を挙げて挨拶してきた。


「あなたは……え?」


 誰かどうか聞く前に疑問に思った事があった。その青年の服装が俺と同じ高校の制服だったからだ。


「あれ?やっぱこの服装って変か?」


「いや、変っていうか……」


「まあ、服のことは気にすんな。それっぽい服にしただけだし」


 それっぽいとはどういうことなのだろうか?


「えっと、それであなたは?」

「大方の予想はついているだろう?そこの女神のいわゆるこれだよ」


 そう言って、小指を上げる青年。恋人と言う意味なのだろうが、表現が古いような……


「それじゃあ、あなたが神社の伝承の男の神様なんですか?」

「ま、そういうことだ。だから早くあいつの所に案内してくれるか?」


 青年は自分を男の神様だと認めた。確かに伝承通り中性的雰囲気のハンサムな顔をしている。服装が学校の制服だが、こんなやつが学校にいたらモテること間違いないような顔をしていた。


「わかりました」


 男の神様を招き入れる。いきなり来て少し怪しくも思ったが、ここまで知っていて嘘ではないとは思う

が……というより、もう俺には頼れるものがなかった。この男の神様が真白を助ける最後の綱なのだ。


「そういえば……えっと、神様?」

「あー神様って呼ばれるのは、ちと嫌だな、んーそうだな……じゃあ、それっぽくミコトとでも呼んでくれや」


 それっぽくとは、神様っぽいと言う事だろうか?なんて疑問に思っているとミコトはその発言にさらに


「ま、どうせ今日しか呼ぶことないだろうけどな」とつけ加えた。

「え、えーと、じゃあミコトさん」

「いいよミコトで俺も幸一って呼ぶからさ、同年代のような見た目なんだからそれでいいだろ」


 それは、服装のせいじゃないだろうか……というか、まだ自己紹介もしてないのに当たり前のように名前を知られていた。


「神様を呼び捨てにはできませんよ」

「あいつの事は真白って呼んでいるのにか?」


 それもそうだ。


「あと、敬語も使うな。堅苦しいの俺は苦手なんだよ」

「いやそれは……」

「いいんだよ!神が言ってんだから言うこと聞け!」


 横暴な神だった。権力の乱用ではないだろうか。


「……わかったよミコト」

「おう、それでいいんだよ幸一、でなんだっけ?」


「いや、なんで祭の日までまだ数日あるのにここにいるのかなと思って」

「へ!?いや!それはだな……あ、そう!恋人が危険かもしれないって時には駆けつけるだろ普通は!……というか、そんなのいいから早く会わせろよ!」


 何故ミコトがうろたえているのが気になったがちょうど俺の部屋についてしまった。


「この部屋」


 そう言って部屋のドアを開ける。中で真白が依然として苦しそうに眠っていた。

 それを見たミコトの目つきがいつも以上に鋭くなる。


「なあ幸一、お前ら今日どこ行ってた?」


 口調が厳しくなった気がする。神様と言っても別に俺たちの行動すべてを知っている訳ではないようだ。


「え、水族館だけど……」


 恐る恐る質問に答える。


「町の外のか?」

「……そうだけど」

「バカヤロー!!」


 ミコトは急に激怒して俺の胸倉を掴んだ。


「こんな状態の神様が社から遠くに離れたらどうなるか想像できなかったのかお前は!大体お前に……いや、すまん……これはお前に言うべき事じゃなかったな」


 そう言って力なく胸倉を掴んだ手を離した。俺は何も言うことが出来なかった。


「チッ、先にこいつの方だな」


 舌打ちをしたミコトはそういって、ベッドで寝ている真白に近づくと真白の顔に手をかざした。


「おめぇ無理しなければ……」


 しかめた顔をしてミコトが真白に向かって何か言っているようだったがよく聞こえなかった。一体何をしているのかわからないが真白の荒かった息が落ち着きを取り戻しているのが分かった。


 そしてついに荒かった息も安らかで柔らかになった。

 これが神様の力というものなのだろうか?本当に何も出来なかった俺とは違う……


「とりあえずこんなところだな」


 よかった……そう心から、心の底からそう思えた。


「じゃあ、こいつ連れて行くからな」

「え?」


「何だよ?文句あんのかよ?」

「いや別に……」


 そう、それが当たり前だ。どこにも疑問を挟む余地などないはずだ。


「……えっと真白はもう大丈夫なのか?」

「さあな……」


 さあなって


「いやでも、真白が楽になったのってもう大丈夫になったからじゃないのか?」

「俺がしたのは応急処置だけだ」

「じゃあまだ安心出来ないってことなのかよ?」

「そうだ」


 ミコトは言いきる。


「治るよな……?」

「…………」


 何で黙ってんだよ……!


 その時、プツンと俺の頭の中でなにか切れた音がした。


「お前、神様じゃないのかよ!真白の恋人じゃないのかよ!なあ!俺に出来ない事を何でも出来るんじゃないのかよ!それじゃあ!それじゃあ結局俺と……」


「黙れ」


 それは単なる言葉でしかないはずだが怒りを込められたその一言に俺は後ろに数歩後退してしまう。ミコトの一言の威圧に気圧された俺は次の言葉が出てこず、言われたとおりに黙ってしまう。


「お前がこいつと出会わなければこいつはこんな事にならなかったんだよ!」

「え?」


 やっと捻り出た言葉がこれだった。いや、本当は何も言えてなかったかもしれなかったが……


「あ、いやすまん……だからお前に言うのは違うんだったな……」


 似たような事をさっきも言っていた気がする


「それって……」


 今度はしっかり口に出して言えていた。


「真白が苦しんでいたのは俺が遊びに連れて行ったりしたせいってことか……?」

「いや、そうじゃねえよ……もっと根本的な……いや、いいか。とにかくこいつが苦しんでいるのはお前のせいじゃねえって事だ」

「俺のせいじゃないって言ってもそれって俺が関わっているって事だろ!どういうことか教えろよミコト!」


「いいんだよ、お前は知らなくて」

「どういう……」


「もう忘れろ。こいつに会った事は。もちろん俺に会った事もな。一夏の思い出にすらならない、絵日記のお題にもならんようなちんけなものとして」


「そんなの無理だろ……」

「ま、だろうな……だが忘れるのさ。お前らは。そういうものなんだよ」


 そう言うミコトは少し切なそうな顔をしていた。そしてその顔のまま真白に手を伸ばしミコトは真白を担いだ。


「じゃあな幸一。もう会う事ねえだろうな。俺とお前も、もちろんこいつとお前も、な」


 そういい残して真白と一緒にミコトは部屋から出て行った。

 俺はその後を追う事もしなかった。ただミコトと真白が出て行った後にその場に座り込みベッドに寄りかかった。そして何もしなかった。もう後悔すらする気力は残ってなかった。


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