帰りの電車にて……
電車内でぐったりとした真白の頭を膝に乗せる。
膝の上で真白の息は荒くなっていた。
救急車は呼ばなかった。係員が呼ぼうとしていたが拒否した。病院で真白の検査ができるとも限らなかったからだ。
それでも呼ぼうとするので俺は真白をおぶり半ば逃げるようにしてその場を離れた。
だが離れたからと言って俺に何ができる訳でもない。
ただ後悔する事しか出来ない。それ以外に出来なかった。何もしてやれる事がなかった。
真白がふらついた時に帰るべきだったのだ。酔っただけ何て言葉を鵜呑みにせず直ぐに。
その時から予感はあったはずだ。不安も感じていた。それなのに俺はその予感も不安も無視して真白を連れ出してしまった。
というよりそれ以前からもっと問題だ。
いつも無表情で買い物の時も海でも何事もない様に遊んでいる真白を見て何となく大丈夫なものだと思いこんでしまった。だけど、そんな訳なかったのだ。
神様が、記憶をなくし、倒れているのだ。
誰にでも、俺のような馬鹿以外には、絶対に分かる程、明らかで、疑いの余地のない、異常事態だ。
連れ回していい訳がなかった。
神社に行った時に真白の正体が何となく掴めたからと言って、それで事が解決したわけではなかったのに……
自分が無力で真白に何もしてやれないならせめて事態の悪化がないように勤めるべきだったのだ。何もしてやれないなりに何もしなければよかったのだ。
真白も遊びたがっていたから、なにも出来ないならせめて一緒に遊ぶくらいしてやりたかったなんて言い訳にもならない。
結果その真白が倒れているなら一体、何の為に誰の為になると言うのだろうか。
無力なだけでなく俺は無能だった。
「ましろ……」
後悔と自責が頭の中で入り混じり、目の前で苦しむ少女をみて罪悪感に圧迫されていた。
「こう……いち?」
「ましろ?」
自分の名前を弱々しく呼ぶ真白の声が聞こえた。
薄目を開けて俺の顔を確認した真白は息を荒げながら小さな声で「ごめん」とだけ言ってまた目を閉じた。
「お前は……」
お前はいったい何に対して謝っているんだ?
謝るべきは何もしてやれない自分の方だと言うのに。
「ごめん……」
苦しそうな真白の頭を撫でる。こんな事してやれることの内にも入らないだろうが、何もせずに見てられなかった。
「…………」
何も言えなかった。真白の髪を撫でた俺はその場でくず折れそうになる。
既に薄々は気づいていた事だ。
真白に触れた手には出会った時と同じく、初めて真白に触れた時と同じように
触れている感覚が伝わってこなかった。