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神社の伝説

「んーじゃあ何から話そうかしら?」


 琴音は話す内容を整理してから話を始めた。


「そうね、じゃあまず、うちの神社は八幡神社って言って八幡神を祀っている神社なんだけど……まぁ八幡神社自体は全国どこにでもあるからそう珍しいものじゃないから、八幡神社についての説明は省くわね」


「それでね、うちの神社にまつわる伝説みたいなものを説明した方がいいと思うのだけれど……それでいい?」


 頷く


「じゃあ、それでいくわね。あんた逹、さっきこの神社まで階段を上って来たわよね?疲れたでしょ?私も毎日のようにあの階段を上り下りするのは億劫なのよね……あ、いや、つまり何が言いたいかって、この神社って少し山の上にあるでしょ?でも本当は昔、本殿は海にあったの。いや、そんなだから?って顔してんじゃないわよ。大切な部分なんだから」


「で、何でその本殿が移されたのかって事なんだけど……それこそ、この神社に伝わる伝説が関係してるの。この町の祭にもね」


「えっと……むかし、むかし、あるところ……え?普通に話せ?雰囲気でるかなと思ったんだけど……あ、そう……えーすっごく昔、その頃はまだ本殿が海の近くにあった頃ね。この神社に祀られていた神様がいたの。そりゃ、神社だから神様が祀られているのは当たり前なんだけどね」


「話戻すわね。この神社で祀っている神様は大変綺麗な女神様らしいわ。それで、ある時、石の船に乗って海から男の神様がやってきて、しかもその男の神様も大変男前のハンサム野郎だったらしく、昔話によくありそうな話だけど、二人は恋に落ちたわけ」


「それから二人は毎日のようにお互いの愛を確かめ……別にやらしく話じゃないわよ……おほん、しかし、その二人の仲もずっと続くものではなかった。男の神様が次の地へと向かわなければいけなくなった」


「女神はたいそう悲しみ、あなたと別れたくないと嘆いた。もちろん男の神様も同じ気持ちなの。いいカップルね。憧れるわ……え、え~と、し、しかし、そうは言ってもついに男の神様はここを出て行く事を決めたわ。それでも別れたくないという女神。こうなると女は面倒くさいわね。相手の夢くらい尊重してやりなさいっての」


「そんでね、その女神に男の神様はこう約束した。一年に一度この日に君に会いにくる。だから今だけはさよならだ……今の台詞は私が勝手に作ったのだけど……まあ、そんなような事を言われたんでしょうね。その時はしぶしぶ納得した女神だったけど、いざ別れた後は毎日のように泣いたわ」


「波の音を聞くとあの人を思い出し涙を流してた。それを見かねた村人達が波の音が聞こえない場所、つまり、この場所に本殿を移したってこと。そして、一年に一度、七夕の彦星と織姫のように、男の神様と女神が出会う日が祭の日ってことね!」


「ほら、あんたは知ってるでしょうけど、毎年、祭で神輿を海からこの神社まで運んでくるでしょ?あれは、男の神様を迎えに行って、女神様の所まで運んでいるのよ」


「まあそうね、うちの神社の伝説はざっとこんなものかしら?ご静聴ありがとう……って言うほど清聴してなかった気もするけど」


 琴音の話が終わった。


 あまりに出来すぎているような気がする。話のいたる所に真白と重なる点があった。


 真白が綺麗というのも、女神で海から来る男の神様を待っている話なんて誰かを待っていた真白の話と上手く噛み合っている。


 真白はこの神社の神様で、俺と出会った砂浜でその男の神様を待っていた。つまり、そういうことなのだろうか?


 はっきりした答えとは言えないが意外にあっさりと真白の正体に近づくことができた気がする。捻りもなにもないと思ったが神社にきて正解だったようだ……


 しかし


「なあ琴音、その女神って記憶をなくしたりしてないか?」


 今の話だけでは記憶喪失になった理由がわからない。


「ん?そんな話はないけど、急にどうしたのよ?」

「あ、いや、何となく思っただけ」

「?」


 琴音は不思議そうに顔を歪めた。琴音が言うのならそんな話はないのだろう。記憶を亡くした理由まではわかないか……


「ねえ真白ちゃん!どうだった?おもしろかった?」

「なかなか」


 真白がこの話を聴いて何も思い出していなさそうだった。なかなかって、多分あんたの話をしていたんだと思うんだけど……


 祭の日に真白に会いに来るって言う男の神様に聞けば何かわかるかもしれない。


 というか、じゃあ要するに祭の日まで待っていれば、真白は待ち人に会えたということか……余計な事をしたか?


 んーまあ、目の前で倒れられて見過ごせなかったか。


「つうか幸一!今年の祭も神輿担いでくれないらしいじゃない!」


 げっ……こいつ祭の話で余計なことを思い出しやがった……


「そうだよ……」

「何でよ!毎年あんたに話を持って行ってるのに!」

「だから毎年持ってくるなって断ってるだろ……」


 神社の娘である立場を利用して小学校高学年の時から毎年この時期に神輿の話を持ってくるのだが、こっちからすれば迷惑な話だ。


「祭の準備で私が大変な思いをしてるのに何も苦労しないあんたが許せないのよ!」


 理由からして迷惑だ。


「お前だって今日は鈴音に手伝い任せて活動もできない軽音部に行ってただろ?あいつが忙しそなのお前が今日いなかったせいだろ」


「今日はどうしても行かないといけなっかたのよ……」

「何で?」

「入部したいって子がいたのよ!人数の少ない学校でまだ入部したいなんていう子をミスミス見逃せないでしょ?」

「……珍しい子もいるもんだな。で、入部してくれたのか?」

「……ダメだったわよ」


 あからさまにがっくりしている。


「人数が揃ってないなら……ですって!そんなの見りゃわかんでしょうが!部員が私だけなことくらい!他は名前貸してもらってるだけなことくらい!」


 と自分で言って悲しくなってさらに落ち込んでしまった。

 まあ普通、バンド一つ組めない軽音部に入るやつの方がおかしい。


「ねえ幸一……」

「嫌だ」

「まだ何も言ってないでしょう!」

「どうせバンド組んでとかいうんだろ?」

「一応、あんたも軽音部の一員なんだからいいでしょ?」

「それを言わない約束だったろうが……」


 軽音部に名前を貸している内の一人は俺だ。本当に貸しているだけで音楽にも楽器にも興味ない。今から楽器を覚えるのも気もない。


「でも結局、バンド組めないし……」

「そんなに音楽したいなら軽音じゃなくて吹奏楽にすればいいだろ?」

「吹奏楽じゃギター弾けないでしょ!私がしたいのは魂が震える熱いライブなのよ!」


 まあ、知っているのだが。

 ベットの下にあるのもエロ本なんかではなく大量の音楽CDなのも知っていた。


「鈴音にベースやらせてるからそうね……あんたはドラムね」


 鈴音がベースか……似合いそう。いや、というか


「やらねえよ」

「なんでよ!」

「何度も言ってるだろ面倒くさいんだって」

「他人事だと思って」

「まあ他人事だしな」

 

 うう……と恨めしそうに呻き声を漏らした後


「……はあ~、もういいわ」


 額に手をやりため息をついて諦めた。


「まあ、バンドの事はまた今度にするとして……」


 いや、全然諦めていなっかた。


「神輿は今年こそ出なさいよね?もう高校生なんだし、歳いった爺ちゃん逹にいつまでも担がせてるの可哀想でしょ」

 

 そう言われると何も言えない。


「真白ちゃんも祭まで残るのならこいつが神輿を担ぐ姿みたいよねー?」


 いきなり話を振られる真白。

 真白は琴音からの質問に一瞬首を傾げ俺のすそを引っ張る。


「こーいち」

「なんだ?」

「やれ」

「命令形!?」


 あれ?いつの間に主従関係というか上下関係が決まってしまったんだ?

 あ、いや、神様と人間の上下なんて初めから決まっていたか……思えば真白の俺の扱いって最初から上からだった気がしてきた……


「ほら、真白ちゃんもこう言ってんだし」


 琴音は真白が俺に命令しているのをみてニヤニヤ笑っている。


「他人事だと思いやがって」

「他人事だしね」


 さっきの仕返しだと言わんばかりである。


 性格の悪い女だ。

 幼馴染じゃなかったら殴っている。


「わかったよ、やればいいんだろ?」

「あら?意外と素直ね」


 俺が担ぐ神輿が男の神様を迎えに行くと言うなら、祭の日に闇雲に探すより見つけやすいだろう。

 まあ、その男の神様も真白のように見えればの話だが……


「そっ!じゃあ当日よろしくねぇ~」


 と琴音は嬉しそうだ。


 しかし、成り行きとは言え、俺がここまで真白のためにしてやる必要があるのだろうか?そんな正義感に溢れた人間でもないのだが……


 まぁ乗りかかった船か……何もしてやれない代わりに神輿くらい担いでやってもいいのかもしれない。


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