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狼少年の怪異事変。  作者: 睡眠戦闘員
四章:信頼と疑惑
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73.天才の努力

一話から三話まで大幅に加筆修正しました。話の本筋は変わっていませんが、結構セリフ回しの変更や描写を増やしたので、以前よりわかりやす読みやすくなっていると(たぶん)思います。

この機会にぜひ読み直してみちゃったりしてください。

 



 弱点潰しの訓練に入って今日で七日目。


 当初の予定がもし今後無慈悲に伸びたりしなければ、今日で折り返し地点である。


 汗だくのミツキはベンチにだらしなく横たわりながら、ペットボトルに入ったスポーツドリンクを口元に流し込む。口内に注がれて溢れ出したドリンクが頬を伝ってベンチに水たまりを作った。


 仰向けになっているため、妖魔界の空が勝手に視界に入ってくる。初めにこの世界に来たときはまさに冬真っ盛りといった灰色の雪雲が空を覆っていたが、今日は珍しく薄い雲が少しかかっている程度で、ほとんど晴れているといってもいいほどに青空が広がっていた。しかし、季節的には冬なので、池の水にうっすらと氷が張るほどには気温は低い。


 しかし、そんな寒さが信じられないほどにミツキは全身から汗を流していた。もし今の妖魔界が現世と同じ夏の初めだったら、ミツキは全身の水分が抜けるほどに干からびていたかもしれない。


 いままでの人生において、彼はここまで“努力”というものに忙殺されたことはない。


 ミツキははっきりいって誰もが認める秀才である。


 勉強など様々なところでその鋭い回転を発揮する思考力は、彼の一番古い記憶である二歳三ヶ月の時から持っていたと認識している。


 その思考力はその二歳三ヶ月後からだんだんと成長していった。


 五歳八ヶ月の時に公園で砂を撒き散らして遊んでいるロクとコカと出会った。もしその時に自分の精神年齢が同年代の子供たちどころか下手な小学生よりも飛び抜けて高いことに気がつき、周囲に自分の本当の学力を隠すようにしていなければ、今頃どこかの研究施設で机の上に並べられたESPカードなんかを睨んでいたのではないかと、ミツキは最近しみじみと思っていた。


 その自分の周囲と違う部分を五歳の時点で気がつける客観視の力も、ミツキの異常な頭の良さを物語っている。


 でも、そうして周囲の目を気にしているのも最近になってアホらしくなってきていた。だからこそ、小学生の時は平均点を取る様にしていたテストも惜しげもなく学力を使ってオール百点をもぎ取るようになったし、目立たないように生き物係や美化委員に入り続けるのをやめて生徒会に入って会長の座を狙うようになった。


 それも、ロクやコカの生き方に憧れたからなのだが、ミツキの性質は彼らの成り上がり方(・・・・・・)には合わず、それを真似ようとして何度か失敗した。


 そして遠回りをして見つけたミツキの成り上がり方が、今の汗だく状態を生み出しているのだが、ミツキは自身で見つけ出したその方法を実行して後悔はない。


 その方法というのが、今の様に弱点潰し訓練のように苦手をなくすというよりも、もともと突出していた特技をさらに伸ばすことだ。


 もちろんその特技は勉強などの頭を使う作業だ。得意の学力をグングン伸ばし、女の子の名前や服装、髪型を覚えているうちに記憶力も恐ろしくよくなった。これは努力というよりも日々の鍛錬によるものである。


 だから、逆に運動は全く伸びない。ボールを扱うテクニックや体の動かし方はすぐに体は覚えてくれるが、体力だけが伸びない。どれだけ努力してもただただ伸びない。ので、そうそうにやめた。


 特技を伸ばすときは、努力というよりも日々の継続的鍛錬によるものであり、元々まめなみつきにとって、苦しみはせずにむしろ楽しいくらいだったのだが、そうして楽しいに流された結果、いま汗だくになっているのならば、もう少し運動に慣れておくべきだったかもしれないとミツキは思う。


 現時点の七日目の訓練で、その成果は目に見えるほど伸びてはいなかった。


 しかし、逆にロクやコカは得意の成り上がりで、少しずつではあるが変化を見せ始めたらしい。なので、余裕のあるときは妖術の訓練も並行して開始したと、ミツキの監督をしているセロトから聞いた。


 サホはわからない。食事の時に食堂で顔を合わせるが、疲れすぎて栄養満点のコーンスープを口に運ぶだけでせいいっぱいだったので、ここ数日会話をしたか怪しい。この間三日に一回の休暇があったが、そのときはロクに付き合わされて一日中画面の奥のゲームアバターと睡魔と二つの敵と同時に戦っていたため外にも出ていない。


 こんな厳しい訓練逃げ出してもいいのだ。それでも、こうして続けている理由は、しっかりとミツキの中に芯として存在していた。


 ミツキはいつも心掛けているイケメンの表情などどこに飛んで行ったのかという疲弊した顔色で、ベンチから起き上がった。


 カラになったペットボトルをベンチ横のゴミ箱に入れ。立ち上がる。


 今はセロトの姿はない。毎日この時間に大事な会議があるそうで、その会議でこの運動場を離れないといけない間は、休憩時間というなの自由時間となるのだ。


 この間にたっぷりと体力を回復させておかねばならないが、それに必要な今まで飲んでいたドリンクが尽きてしまってはそれも間に合わない。あのドリンクは妖魔界で流通している体力回復を促進させる作用の魔力を含んだ特製のものらしい。


 セロトから聞いた話では確か訓練場内の城寄りの位置に設営された木造の建物に入れば、大量に在庫があると教えられていた。ロクとミツキ用に大量に仕入れたらしい。ミツキはそれを取りに行くために歩き出した。


 訓練場のトラックに敷かれた砂はすぐに途切れ、タイルの地面となる。大きな木造の建物は二棟で、建物同士は一階二階三階と、それぞれ別の渡り廊下でつながっている。その一階の渡り廊下をくぐって、右側の建物の入り口に入った。


 セロトの話では左側の建物はフィットネスなどの設備の整っており、シャワーや風呂、サウナなどもあるらしい。コカやロクはこちらにいる。


 左側の建物は図書館などの教養をする設備が整っている様だ。少人数用の教室があるらしく、サホはそこにいる。


 サホのことを思い出して、ミツキの頭は曇天に覆われた。


 ――嫌われている……


 今までならば、女の子をこの見た目で七割を、行動で二割、残りの一割を口説いて幸せへと導いてきたミツキ。


 なんとここにきて全体のパーセンテージを数ミリと動かさないただ一人の障害に悩まされている。


 ファーストコンタクトは最悪。それが全ての始まりである。


 そこから何かで挽回しようといろんなことをしてきたものの、全て絶対零度の視線を向けられ、最終的にはスルーされるのだ。その度にミツキの繊細な心はボコボコである。打たれ強いところはあるのですぐにひょっこり立ち直るのだが、その分傷ができる回数も増える。


 あるときは部室までのエスコートをしようとして、全スルーされた挙句部室に入る際に「うざい」と一括され。またあるときはカラオケで歌声を褒めようとしたら「自分より上手い人に褒められるときの虚しさって知ってる?」と微妙に言い返せない言葉を浴びせられた。


 ミツキは自分が相手に行うことに対して嫌がられるという経験はなかった。それはミツキの女の子への天才的な勘によって行われる“正解”の行動しかしてこなかったからだ。しかし、どういうわけかサホに対してのみ勘が正しく働いていない様で、毎回彼女を喜ばすに至ることができていない。


 悩みつつ、だけども今そんなことを考えても無駄かと思いつつ。


 そんなことで頭を捻っていると、建物に入ってすぐのところに置いてあった段ボールの山を見つけた。この中にドリンクが詰め込まれているはずだ。すでに一つだけガムテープが剥がされており、数センチほど蓋が開いていた。


 ミツキは重い腕を持ち上げて、空いている段ボールの蓋を開い……


「うおあああああッ!?」

「きゃあぁッ!?」


 人が入っていた。段ボールの中に。


 驚いて、腹の底からいったいどこにそんな叫ぶ力があったんだとばかりに大声が出た。一方段ボールに入っていた人間の方も、突然段ボール内に入ってきた光と、ミツキの叫び声で箱の中から飛び上がった。


「さ、サホちゃん!」

「神里くん!? なにやってんの!?」

「完全にこっちのセリフなんだけど!」


 びっくり箱の様にダンボールから飛び出してきたサホは、明暗の差に目を瞬かせながらミツキを見て驚いている。そしてすぐに不機嫌そうな顔をしながら、ダンボールから出てきた。


 そして、不躾にミツキに指を突きつけた。


「せっかく隠れてたのに見つけるんじゃないわよ!」

「理不尽すぎない!? それに隠れてたって……」


 話を聞くと、案の定苦手訓練に飽きて逃げ出してきたのだという。サホの訓練の指導を行なっていた監督官には何度もサボりを阻止され、今日ようやく今日室外まで抜け出すことに成功した、と自慢げに話していた。


 そして、もう今日は勉強しなくてもいい様にこの段ボール箱の中で息を潜ませていたのだという。


 しかし、それを祝える様なミツキではなかった。なんてったって授業をサボるという経験をしたことのない優等生なのだから。


「なんでまたサボったり……」

「やっても意味ないからよ。ぜーんぜん頭に入ってこないし~?」

「でも、繰り返しやれば頭には少しでも……」

「だからそれも意味ないの! アタシ、ネッカラ勉強なんて合わないカラ」

「ボクだって運動は合わないけどサボったりはしな――」


 そこまで言ってミツキはハッとサホの様子に気がついた。またミツキに絶対零度の視線を送っている。


 ミツキはロクを通して学んでいた。


 こういうやる気を出すことが苦手だったり、苦手をなかなか伸ばせない人間に対して、“できる”人間が「でもボクはできるよ」と言うとその言葉は「お前が頑張っていないだけだ」という理不尽な文句へと変換され、相手はものすごく気分が悪くなる上にできる人間へ言い返せずにストレスを溜めることになるのだ。


 ロクはその場で殴ってそのストレスを発散して貯め続けることはないが、きっとサホは違う。


 それを今更思い出しても、もう遅い。いつ、いつもの毒舌の矢が飛んでくるかと内心身構え、ミツキの額に先ほどまでとは違う汗が流れる。


「……アタシだって、やる気がなかったわけじゃないの」


 しかし、サホから出た声はいつもの冷たい声ではなく弱い声だった。身構えていた分拍子抜けしたミツキは、思わずサホの顔を見た。


 もうサホはミツキを見てはいなかった。斜め下に俯いて脱力し、ただ唯一力が込められているのは八の字に潜められている眉だけだ。


 サホはなにかぶちまけようとしている。それだけはミツキの勘は正しくはたらいていた。


 サホはため息をつきながらたくさんあるダンボールのうちの一つに腰を下ろした。ミツキも少し躊躇い段ボールの強度を確かめてから、サホの隣に座った。


「ね、神里くんはどうしてそこまでやる気が続くの? 嫌いなものに対してさ」

「え~……と」


 足に肘をつき、掌を両頬に当てたサホはその格好のまま隣のミツキを見た。自然と上目遣いになっているその表情を見て「かわいいな」と思いながら、ミツキはその問いの答えを探す。


 ミツキが今このただただ嫌いなマラソンを続けている理由はそこまで複雑なものではない。単に体力がないと言う弱点をこのまま未来に引き継ぎたくないという思いが元々あったのと、あの飽き性のロクが続けられているこの過酷な訓練を自分が先に投げ出したくないというくだらないプライドがあったからだ。


 だがそんなくだらない理由を答えとしてサホに話すことを躊躇って言い淀む。


 しかし、サホはミツキの返事が返ってくる前にため息まじりに言葉を続けた。女子特有の「返事は求めていないので愚痴を聞くだけ聞いて欲しい」というやつだ。経験則からしてここからは余計な口を挟まずに根気よく相槌をするに限る。


「アタシさ、一度出たやる気が続かないのよ」

「ま、まあ、それはだれにでもよくあることだと思うけど」

「そうかしら……だって、このやる気の出なさはちょっとウザがられるくらいだもん」


 サホはミツキから視線を逸らして自分の足元を見た。


「なんていうのかな……本当に“頑張る”のが難しいの。やる前はすごくワクワクしてたの、この妖魔界とか訓練とか。でもやっぱり続かなかった。いつもと一緒だった」

「いつも? って……」

「最初……例えば神里くんのマラソンだとするけど。やる前はやってやるぞって結構ポジティブなの。運動は別に嫌いじゃないし、むしろすっきりするじゃない? で、まあスタートで走り出すわけ」


 サホは人差し指と中指の二本指を走っている人の足に見立ててテクテク動かした。元気にシャカシャカと走るジャージを着たサホの姿がミツキの想像上に現れる。


「最初はいいのよ最初は。で、疲れてくるじゃない。苦しくて当然ペースも落ちるのね」


 サホの指人間を動かすスピードが落ちる。それに合わせてミツキの想像上のサホも、肩で息をして足を動かすのすら一苦労な表情をしているものに変化する。


「でも、ペースとタイムは前回に走った時よりちょっといい感じなの。しかも、一緒に走ってる友達も行こう行こうって励ましてくれるわけ。『あとちょっとペースあげれば自己ベスト更新だ』って」


 サホはもう一方の手を使って指人間を二体に増やした。ミツキの想像上のサホの隣にもジャージ姿のコカが出現した。いつものハイテンションでサホに何かをぺらぺらと話かけている様だ。これは励ましているというよりも集中を乱して苦行を強いている様にも見えなくない。


「それでアタシのやる気もたまるのね。あとちょっとなら頑張れる、これくらいペースあげればっていけるって頭の中で考えるの。このときのテンション走る前より高いくらいね。そして、頑張ろうって思った直後に――」


 途端、サホの指人間がぐたっと倒れて脱力した。もう一つの指人間はパッと掌を開いたため消えてしまった。ミツキの想像もそれによってかき消された。


「……突然やる気が完全に途切れて消え失せるの。せっかく頑張れたのに、エネルギーがなくて空回りして『もういいやって』。その瞬間に頑張る自分がバカらしくなって何も頑張れなくなるの。これが、“いつも”」

「やる気を出した瞬間に、やる気が消えるの……?」


 サホは俯いていた顔を上げて渡り廊下の天井を見た。


「なんか、これを頑張って何になるんだろうって思いが一気に押し寄せてくんのよ。続けたくても体が動かなくなるの」


 無力感というやつだろうか。脱力して天を仰いでいるサホの姿を見ていると、無力感というか無重力感の様なものを感じてこのまま飛んでいきそうに感じてしまう。


「だから、どうして神里くんとか他の人はギリギリになっても頑張り続けられるのか全くわからないのよね。……本当なら頑張ってコカと一緒に青春したいんだけどね~やっぱ努力ってしないのがあってるかも、アタシ」


 サホの口調が微妙に軽いせいで、ミツキにはサホが本気で悩んでいるのかわからなかった。他の女の子ならこんなことにはならない。やはりサホは難しい。


 ミツキは何か言葉をかけたかったが、サホの様な状態になったことがないので、余計に口出すと話がこじれそうで口を開けなかった。


 ボーッとしていたサホは、あ、と声を出した。


「そういやさ、神里くんってどうして大神くんたちとつるんでたわけ?」

「え? どういうこと?」

「なんていうか、神里くんみたいな優等生タイプは友達を選ぶイメージだから。アタシがいうのもなんだけど、大神くんもコカもちょっとやばいじゃない? いろんな意味で」


 それは全力で同意する。あの二人はよくわからない上におかしい。


 そう考えると、ロクとコカの関係はミツキにとって危うい。いつ風紀が乱れるかわからず、とても危うい。


 いつ、見えないところでロクがコカを押し倒したりしていないか心配になるが、コカにそれとなくセクハラを受けていないか聞いてみても問題はない様なので、今のところは大丈夫だろう。しかし、ロクはいつかやらかすとミツキは確信している。


 そうなる前にくっついてしまえとも思うが、なかなかどうしてあの二人の関係は長い付き合いをしているミツキでもわかりづらいものだった。


 だからと言って、それが心配だから一緒にいるわけではない。


 しかし、その本当の理由(・・・・・)をサホに言ってしまうのもどうなのか……


「そ、それは……ロクくんたちって素行が心配だからさ、ボクがついてあげなきゃって気がしてね! しょうがないんだよホント!」


 迷った末にミツキはなんとも説得力のないはぐらかしに逃げてしまった。ヘタレである。何が秀才なのか。


 ミツキのどもり様から真面目に話していないのかと受け取ったらしいサホは、一際大きなため息をついて立ち上がった。そして、今まで腰掛けていた空の段ボールの蓋を再び開けた。


「もういいわよ。引き止めて悪かったわね」

「え、ご、ごめん。まともに相談乗れなくて……」

「別に相談してないし。じゃ、アタシもうひと隠れするから」


 サホはそういうと、また最初に見つけた時と同じ様に段ボールの中に入った。そして、器用に体を縮こませ、さらに器用に自力で蓋を閉めてしまった。


「ええぇ……教室戻ろうよ」

「イヤ」


 段ボールの中からくぐもった声が聞こえてきて、ミツキはため息をついた。


「サホちゃんの監督さんに迷惑かけちゃわないー?」

「よく言った。坊ちゃん」


 ミツキは驚きで腰掛けていたダンボールから転げ落ちた。


 背後から聞こえた声の主は、手を差し伸べてミツキを助け起こした。二十代後半のその男は群青色のハカマという見慣れない服装をしているのにもかかわらず、ミツキは声をかけられるまでその存在に気がつかなかった。既視感を感じる。


 男はミツキから目を逸らすと、サホの入っている段ボールを目に留めた。


「こんなところに……」


 ぼそっと男が呟くと、ダンボールの中で息を飲む音が聞こえた。おそらく逃げるにも逃げられなくなっている。


 男はハカマの袖から何かドーナツの様な茶色い輪っかを取り出した。服越しだったのでわかりずらかったが、直後にバリバリと聞き覚えのある音を聞いてそれがなんなのか理解した。


 男はその輪っか――ガムテープでサホの入っている段ボールの蓋を止めてしまった。それを察したらしい中身のサホが「は!? ちょっと何やってんのバカ!」と騒ぎ始めるが、男はそしらぬ顔でガムテープを袖にしまい、そのボコボコと内側から暴れる段ボールを両手で持ち上げた。


「騒がせてすまない坊ちゃん。オレはこのお嬢の訓練を任されてる監督(教師)だ。名は寺木(じぎ)。よろしく」

「はあ、よろしくおねがします。神里です」

「ジジイ! 出しなさいよ! 王に言いつけるわよ!」

「アルセロト王子からサボりの際は何がなんでも連れ戻せと言われているので、実行したまで」

「もう全員嫌いよ! コカとときねんしか好きじゃないわアタシ!」


 ミツキが呆気にとられている間に、騒ぐサホを詰め込んだダンボールごと、その寺木という男は建物の中に運び去ってしまった。


 すると訓練場のトラック方面からセロトがミツキを呼ぶ声がした。ミツキは慌てて、ずっと取り損ねていたスポーツドリンクを別の段ボールから取り出す。


 そういえばサホの訓練の近況を聴きそびれてしまったなと思いながら、今までサホと交わしていた会話を一瞬で振り返る。


「“がんばる”か……」


 なんとなく、ミツキはこれから頑張らなければならないのだと感じていた。


 サホに汗だくになってでも結果を出す手本を見せなければならないと、思っていた。




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