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狼少年の怪異事変。  作者: 睡眠戦闘員
一章:狼男と妖狐
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4.狼男と鎌鼬

やっと敵が出てきてくださいましましで初バトルシーンでござぁます。


今回からそれ程では無いかもしれないですが流血や残酷な表現が出てきます。

ニガテな人はご注意を。

 



 放課後の部室についたロクは疲労からくるため息を遠慮なく吐いた。


 今朝に説得して図書室に押し込んでおいた白髪が、本を読み散らかして図書委員の顧問の教師を絶叫させた以外は、無事に放課後を迎えられた。


 先に部室で待たされていたポジティブ組のふたりがロクを見ると、その顔色に気づく。


「ロクくん大丈夫? なんだか疲れてるような……何かあったの? お腹空いたの?」

「ぶっ通しで寝てたくせにね、はははッ……あ、ちょホントの事の言っただけッグヘアッ! ……な、なんでェ」


 ミツキの体に、扉から飛んで肉迫したロクの拳が突き刺さる。余計に回るミツキの口も、このやり取りも相変わらずだ。


 鳩尾を抑えて蹲るミツキを無表情でスルーして、ロクは鞄を背負い直す。


「うぇ? ロクくんもしかして帰るの?」

「……ちょっと用がな」

「サボり……じゃないよね?」


 その途端、コカのいつものプラスオーラの笑顔は消え、ジー……とロクを見透かすように見てきた。


 部長のコカはサボりには厳しい。


 オカルト部は校長にゴリ押しで無理を言って立ち上げた部活なために、いくつかの条件を提示された。


 条件の一つである部員を三人集めるために、コカは幼馴染のロクと、当時部活が決まっていなかったミツキの二人を引きずり込んでようやく設立できた部活だった。


 その他の条件に、理由のない部員の欠席は無いようにというものがある。幽霊部員や、サボりが発覚した場合は審議の結果廃部にされてしまう。


 コカの小さな頃からの憧れのオカルト部の廃部は断固避けるべきというわけで、部活を守る部長として部活内風紀には敏感なのだ。


 ロクはコカからの意外とキツい威圧に内心狼狽えるも、表に出さぬよう返事をする。


「……違う、担任にも許可とった」

「なら良しバイバイ!」

「変わり身早いねコカちゃん……」


 しかし、深刻な雰囲気で解説したものの実際コカがしっかりしている事が教師の間で浸透しているし、生徒会に入っている優秀なミツキもいるおかげで教師の監視の目はゆるゆるだ。


 というわけで、担任の許可の話は嘘だ。


 ロクはふたりに見送られて部室を出ると、待たせていた白髪に声をかけた。


「行くぞ、白髪」

「白髪? あ、オレか」


 学校を出ると曇り空ではあるが雨が降ってくることは無かった。しかし、風が強く吹き付けるために、白髪の長い白髪がバサバサとなびく。


「あのコカってしっかりした部長の部活より大事な用事ってなんだ?」

「……てめぇの事だよ……」


 ロクはギリっと凄みの聞いた目で白髪を睨む。


 今日一日を過ごしてロクが気づいたことは、白髪は日常的にロクらの周囲を横行する怪異や心霊の類と同様に、一般の人間には認識されないという事だ。


 しかし、それはロクと同じ眼を持つコカたちには普通に視えるということ。


 こんな素行が目立つ問題の塊を数十メートルも離せない状態で部活に出るなどもってのほかと判断し、ロクはやむなく部活から離脱した。


 それに話し合わなくてはいけない事がたくさんある。腕輪の鎖の件や封印されていた件など、見逃せない要件がたくさん残っているし、そもそもロクは白髪の名前すら知らない。……本人は興味も無いだろうが。


「まだ腕輪のこと言ってんのか? ……ま、使ったりしなけりゃ面倒な事にはならな……」

「使う? なんか使い道があるのか……」


 そこまで言ったところでロクは白髪に言葉を遮られた。


「おいガキ。お前は逃げた方がいいかもな」

「あ?」


 白髪は、言葉の割には呑気に笑うような口調でそう言った。


 ドプンッ


「うおっ、なッ……!?」


 ガクンと全身が一瞬落下する感覚にロクは驚く。


 足元を見るとロクの立っていたコンクリートの地面が泥のように溶けロクの足を飲み込んでいた。刹那後には何事も無かったかのように固まって、元のコンクリートに戻った。もちろんロクの足ごと固まって、ガッチガチに固定された。


「足が……! おい、これどうす……あ!?」


 ロクは不本意ながらも助けを求めようとして白髪の方を見ると、いつの間にかその姿は消え去っていた。


 すると、今度はそれと逆の方向から 鎖の擦れる音が聞こえてきた。


「だから逃げろって言ったのに。見事にハマってまぁw」

「笑うなァア! てめぇいつの間にそこに……!」


 声のした方には白髪が近くの民家の屋根の上で頬杖をつき、ロクを見下ろしていた。距離が長くなったせいか、ロクと白髪の間に例の銀鎖が現れていた。


 余裕綽々であからさまに寛ぐ白髪の大きな態度に、限界が来たロクはキレる。


「ヤァ、やっト見つケたァ!」


 吹き付ける強風がその強さを増す中、風の唸りの合間に歓喜のような感情を含ませた叫声が聞こえた。はっとしてロクが前を見ると少し離れた道の向かいに誰かが立っている。


 見た目はロクの年上程で、頭部以外の全身を覆う外套を纏う青年だった。距離のせいで表情までは確認出来なかったが、よく見ると頭頂部付近なの左右に動物な耳らしきものが見られ、異質極まりない風貌をしている。


「あれが……ケモ耳……?」


 ふと状況も忘れてロクが呟いた言葉に青年はブルリと身震いした。


「イ、いマ寒気ガ……まァ、いいカ。オイ、キミが『コン』かイ?」

「コン?」


 青年が発した「こん」という単語に、ロクの頭に狐が鳴く様子が唐突に浮かんだ。


 イントネーションの狂った青年の言葉には、表情を見ずともその顔に浮かぶニヤつきが目に浮かぶような不気味さを感じる。


 馴れ馴れしさも感じ取れる口調だが、もちろんロクは青年に見覚えがない。少なくとも親しい間柄の人外のケモ耳フレンドはいない。



「いヤ、キミじゃなクて」


 疑問符を浮かべるロクを無視して、青年は外套に隠れた腕を持ち上げて宙に指先を滑らせた。そして行き着いたのは屋根の上にいる白髪だった。


「きミの方さ」


 名指し(?)をされた白髪はギクリと肩を震わせて、顔を引き攣らせた。


「エッ、オレ全然チゲーシ。コンジャナイシ」


 少々頭が足りないロクでもわかる棒読み具合だった。どうやら白髪の名前は『コン』というらしい。


「間違いナさそウだねぇ……キミ、チョット僕と一緒に来てクレない? 頼むヨ」

「……フン、何でだよめんどくせえ」


 不気味に笑いながら青年はゆっくりと歩みを進めてふたりとの距離を縮めてくる。


 そこでロクは自分の事を思い出した。コンクリートにハマった足と青年を目線だけで交互に見る。アイツを近寄らせて大丈夫なのかと思考する。


 白髪──コンは訝しそうに青年を見ると、追い払うように手をヒラヒラ振った。


「こっちは忙しいんだ。帰れ」


 何が忙しいだ、さっきまで図書室で本をトランプタワーを積み上げていたくせにと、ロクがツッコミを入れようとしたが、あたりに吹く風が更に吹き荒れ始め、民家から飛んできた植木鉢が後頭部に直撃して遮られた。


 青年は立ち止むると、それに合わせて風が吹き止んだ。すると、青年はゆらりと腕を真上に上げ、真っ直ぐにロクたちを見据えた。


「待て、まさかアイツも人外──」


 周囲の異変で青年の正体に気づいたロクの顔が引き攣る。


「ナンでって……ぼくノ国の兵器になってモらうタメダ!!」


 叫び声と同時に青年は腕を手刀のごとく素早く振り下ろした。


「“風爪(かざづめ)”!」


 刹那空気が地鳴りに似た音を立てて揺れ、コンが屋根から飛び退いた。身動きが取れないロクは咄嗟に腕で顔を隠した。


 耳障りな金属音がロクの耳朶を打った。


 共にコンが先程までいた民家の屋根や塀の周辺に、爪で裂かれたような大穴が開いた。


「イッ……てっ!!」


 鋭い痛みに思わずそちらを見ると、顔を庇った手に赤い線が走っているのを見てロクは目を見張った。手の甲についた傷自体は小さいものの、鮮血がタラタラととめどなく流れ出てくる。


 周囲は民家の屋根すら切り裂く見えない刃のようなものが、暴れ回ったような酷い有様だった。


 なんじゃこりゃとロクが傷を凝視している間に、屋根から電柱へと飛び移ったコンに向けて不気味な笑いが飛んだ。


「なンで避けるンだいコンくん。おかげで手元が狂ってそこの子供に当たってしまったジャないか」

「あのクソガキは知るか。それよりヘイキだあ? オレは道具じゃねえぞ、このバカマイタチが」


 ロクはその言葉で我に返りコンの方を向いた。ふたりの間には距離が開いたせいで鎖が出現している。


 人間ではいささかハードなコンの跳躍力にロクは驚くが、そんなことではないと頭を振った。


「って、バカマイタチって……カマイタチ!? あの『鎌鼬』か!」


 いつか部室でコカに強要されて読んだ図鑑のひとページがロクの脳裏に浮かんだ。


 ロクに正体を勘づかれたことに気づいた青年──鎌鼬は笑いながら先程風を起こした腕を振った。


 ロクについた傷も家の破壊も全て、鎌鼬の固有の能力の“風爪”による見えない風の刃による被害だった。


「……にしても、鎌鼬も落ちたな。鎌鼬は人を切っても痛みも血も出さずに真っ二つに出来るんだろ? アイツ痛がってるしちも出てるし、お前の鎌はなまくらかよ」


 からかうようにコンが鼻を鳴らした。どうやらロクと同様に、鎌鼬も見下した様子だ。


 コンの言うように鎌鼬は、つむじ風に乗り人を刃物で切りつけられたような鋭い傷を負わせるが、その傷の断面から血は流れることはなく痛みもないとされている。


 ロクもコカに強制的に叩き込まれた謎知識と状況との矛盾に疑問を持った。


「ナカナカ酷い事を言うネ……でモ痛いノは当たリ前だヨ!」


 自分が有利だと思っている気分で鎌鼬はケラケラと笑い続ける。


「だっテ……痛ク感じるようにシテルンダカラね」


 完全に僕の趣味だけど、と腕をチラつかせる鎌鼬のその言葉でロクは目の前の妖怪が敵だと理解した。






ちなみにコンの喋りかたが少々オッサンくさいけど精神年齢はロクと同じ位です。

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