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狼少年の怪異事変。  作者: 睡眠戦闘員
一章:狼男と妖狐
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小話:1.真性のアレ

読まなくても本編には差し支えないです。

短い小話をどうぞ。

 




 日暮れ前の校舎に男の呻き声が響き渡る。


 声の発生源は人の気が少ない三階にあるオカルト部の部室から。


「おえ……なんで、ぼ、ボクがこんな目に……うっぷ……」


 部室では、天井からロープで逆さ吊りにされて顔色の悪いミツキと、それをただパイプ椅子に座って眺めながら昆布を口に運ぶロクがいた。


 コカもいるが、ふたりを全く気にしていない様子でワクワクと妖怪図鑑をめくっている。


「吐くなよ〜、吐いたらその体勢のまま『ガチホモ小説(R-18)とリョナ小説(もちろんR-18)を俺のガチ朗読の刑』追加だからな」

「ボクの嫌いなものベストファイブに入るやつ……もう勘弁してええぇ……」


 ミツキはダウンしているので、このカオスにツッコミを入れる者が存在しない。


「うおっ、な……なんだこれ?」


 すると、オカルト部の扉をすり抜けてセロトがひょっこり顔を出した。逆さ吊りのミツキを見てドン引きの表情だ。


 ミツキにはセロトを視ることができるが、気分の悪さにそれどころじゃなくセロトの存在には気づいていない。


「あ、セロトくん! こんにちは〜!」

「あ、あぁ。天雨。コンの様子を見に来たんだが……この状況はなんなんだ?」


 念の為ミツキに聞こえないよう、セロトは小声でコカに問う。


 まさか、コンが悪さをしてこんなことになったのでは……と、不安になるセロトだったが、どうやら違うようだ。コンは今姿を消す術を施して部屋の隅で機械いじりをしている。時折ミツキの方を見上げては吹き出して笑いながら機械のネジをドライバーで回している。


「これねー! 一週間前にミツキくんが部活遅刻した罰の『カカシの刑』と、学校探索の時と先生に質問したときの『吊るしの刑』を執行するの忘れてたからって、ロクくん今まとめてやってるんだって!」

「あとは、駅前の食べ放題店の奢りな。後で奢らせる」

「お前ら悪魔か!?」

「俺は有言実行する男だ」


 あまりの非道さにセロトが叫ぶ。セロトの中でおっとりした印象だったコカが、笑顔で恐ろしいことをサラッと言った衝撃も相当のようだ。


 もともとこんなことになったのは、ミツキのせいでもある。ロクはすっかり刑を言い渡した事を忘れていたというのに、ミツキがちょっとした話の流れで『ああ、ロクくん短足だからねえ』と口を滑らしたのが運の尽きだった。


 キレやすいロクの前で本人のディスりなど自殺行為である。


「そ、そいつが何をしたかは知らないが、そろそろ勘弁してやったらどうだ……」

「えー、でも部活遅刻したんだよー?」

「そ、そうか……でも、そいつの呻き声だいぶ校舎に響いてたぞ? これじゃあ人が寄り付かなくなってしまうんじゃ……」

「え!? そ、それは困るよ!」


 人が寄り付かない=新入部員ができない。そのズレた思考回路でハッとして立ち上がったコカは、慌ててロクへ走る。


「ロクくん! ミツキくんのオシオキおしまいにしてあげて?」

「……俺は満足してない」

「そこをなんとかぁ!」


 コカはペチっと手を合わせて「お願いー!」と頼み込む。


 コカにとって大切なオカルト部を潰さないために、新入部員は喉から手が出るほど欲しく、逃したくないので必死だ。決して、ミツキのためではないというところに、セロトは漠然とした恐ろしさを感じた。


 頼み込まれた方のロクは、暫く憮然とした態度で黙っていたが、口の中の昆布を飲み込むと、立ち上がってミツキを吊るすロープを解き始めた。


 支えずにロープを解かれたせいで、ミツキはドシャッと床に落ちて「扱いが……ひどいよおぉ」とうわ言のように呻く。


「あ、ありがとうロクくん!」


 予想外にも素直に言うことを聞いてくれたロクに、コカは少し動揺しながら礼を言うと、ロクはコカ達へ背を向けたままミツキと共に床に落ちたロープを回収する。


「……なに、礼をするこたぁない。これから悲鳴を上げてもらうんだからな」

「………………………ん!?」


 ロクの口から飛び出た不穏なワードに、コカとついでにセロトも動きを止めた。


「ミツキのオシオキ“は”、やめにする。だが、確かお前にも学校探索の時に、吊るしの刑するって言った分が残ってたからな」

「え、い、言ったっけえ? そそ、そんなこと?」

「言ったな」


 ゆらりと振り向いたロクは、手に持ったロープをビンッと引っ張りながら、じりじりとコカとの距離を縮める。ヤル気満々である。


 無表情を貫いて近づいてくるロクに戦慄を覚えたコカは思わず後ずさる。が、しかし、背後はすぐに壁に阻まれて逃げ場を失ってしまった。


 なす術を失ったコカは傍らのセロトに視線で助けを求めるが、「すまん無理」と言うかのように手のひらをあわせて……いや、合掌していた。正義感の強いセロトだって命は惜しい。


「俺に二言はないが、逆さ吊りにはしないでおいてやる。抵抗しなければ最初のうちは辛くないぞ」


 ガシッと両肩を掴まれたコカは、耳元で囁かれた女にだって容赦しない超ド低音の刑執行宣告にその引き攣った笑みを崩した。


「や……やぁあだあああああッ!!」


 今度はコカの絶叫が校舎に響き渡った。


「…………アイツは、もしかして真性の魔王(サディスト)か……?」

「さあね……」


 グルグルとロープを体に巻かれていくコカを呆然として眺めながらのセロトの呟きに、コンは機械から目線を逸らさないまま適当に返事をした。


「お前……とんでもない大物を契約者に引き当てたんだな……」

「そしてお前はそのとんでもない大物にオレのお目付け役を頼んだな」


 セロトは今後、決してロクを敵に回さないように注意しようと心に誓った。




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