小話:9.腹いせに暴露
小話の中でも結構くだらないジャンルのお話。
本編とはほぼ関係ないですが、一応四章閲覧後に読むの推奨です。
「……あ゛?」
「んにゃ?」
「え……」
「んー……ん!?」
四人はほぼ同時に目を覚まし、そして寝ぼけ眼を見開いた。最初の違和感は胴回り、そして腕にきつい圧迫感があり、それに伴う痛みだった。
ミツキはいち早く覚醒し、状況の異常さに気がついてあたりを見回した。
まず自分を見ると、胴体が腕ごと縄でぐるぐる巻きに縛られている。それと同時に気がついた。床がない。果てしない闇が延々と下へ続いている。ミツキは胴を縛られ、さらに宙ぶらりんに天井から吊り下げられていた。
周りを見ると右にロクとコカ。左にサホがミツキと同じ状態で吊り下げられて、ミツキと同じように右左を見て戸惑っている。
壁は、学校の教室くらいの広さの打ちっぱなしのコンクリートが剥き出しになっている。天井はあるのに、床だけが打ち抜かれているという、不思議な構造だ。
『グッドイブニング、諸君! いい子いい子だ。早く寝る子はよく育つぞ~』
戸惑って「なにこれ」と声を出すよりも前に、陽気な声が響く。しかも、ただ聞こえるだけではない。脳内に直接響く不思議な声。記憶がいいミツキでなくとも忘れるはずもない。
「ぱ……パテレスッ!?」
『覚えてもらって幸いだ!』
「パテレス生きてた!!」
「そもそも殺してないだろ」
つい先日撃退したばかりのパテレスが、どうしてこんなにも早く自分たちに接触してきたのか。ミツキの頭に様々な嫌な予想が浮かぶ。
『あ、これは先日負けた腹いせであって、そこまで意味のある行動じゃないからな!』
「考えて心配した時間返して」
テレパシーの向こうのパテレスは、ケラケラ笑う。
『じゃ、いくか!』
「なにを!?」
『それでは行ってみよう、心を吐き出せ! 黒歴史暴露大会~!』
コカとサホは、途端にぽかんと口を開けた。ミツキとロクは、彼女たちより一瞬早くその言葉の意味を理解して口元を引きつらせる。
『このコーナーは、ワタシの私怨により開催した自己満足バラエティー。この世界は夢の中であり、個人的恨みのある少年少女の意識を集めております。まあつまりお前らはみんな今現実では眠っていて全員同じ夢を見てるってことさな!」
「どりいむ!?」
「ゆ、夢なんだ……」
ミツキは妙に納得した。夢だとかそういう都合のいい世界線でなければ、ロクはとっくに自分を縛りつける縄を筋肉でちぎって脱出しているからだ。
『さあさあ、その少年少女の頭の中を、このテレパシー使いのパテレスがこじ開けて黒歴史、恥ずかしいこと、人に知られたくないこと、などなど本人に都合の悪いことをどんどん暴露して行っちゃうぞ♡ ……という趣旨の嫌がらせ(企画:独愚)だ!』
「は!? ちょっと待ちなさいよ、どういうこと!?」
「み、みんな同じ夢見てるなら、ワタシの恥ずかしいことロクくん達に知られちゃうじゃない!!」
『いいところに目をつけるじゃないか天雨! そこがミソだ!』
頭の中に、いかにも指を鳴らして指を刺してきそうな声が軽快に響き渡った。
『これからワタシがお前らの秘密を暴露していくが、もしそれに一切反応せずに耐えて聞ききルことができたなら! できたならば! その秘密を聞いた記憶を周りの奴らから消して夢から醒めさせてやろう。ちょっとでも悲鳴をあげたり言い訳したら即脱落だ』
「なんちゅう拷問……」
『はいはい、大神が夜更かししたせいで日の出まで時間がないので早速行ってみよう!』
「ちょっとまって心の準備させて!」
『させませーん』
ミツキが焦って叫ぶが、パテレスは無慈悲だった。ミツキは一瞬で頭の中に知られては困ることをリストアップした。思い当たるだけでもとんでもない数になる。と、逆に考えているとパテレスに読み取られてしまうことに気がついて必死に別のことを考え始めた。
『はい行きまーす。まずは大神! あーっと、どれどれ……あ、“貧乳じゃないとたたな”』
「いやそれは母親を思い出して萎えるからであってエロければ普通に――」
バツンッ!
「あ゛――あ゛あ゛あああああああぁぁぁぁぁッ!」
ロクが話を聞いていたのかと疑いたくなるかのように簡単に反応したロクは、自分が吊り下げられていた縄がブッツリと勝手に切れ、果てしない奈落へ落ちいった。ロクの大声も次第にか細くなって消えていく。
「ろ、ロクくーーーーーんッ!?」
「えぇ、恐ッ!?」
「こ、これが脱落……!?」
『はい、デデン! それでは次の標的は〜〜〜?』
間髪入れず、パテレスの口でドラムロールが始まった。心の底から楽しんでいるようだ。じゃんっとドラムロールが止まる。
『愛猫! お前だー!』
「げっ!」
瞬時にサホの表情が引きつる。それでも、反応しないようにしようとぎゅっと目を瞑った。そんな様子を嘲るようにパテレスが笑ってサホの思考を読む。
『どおれどれ……おお、これはスキャンダル! “愛猫は神里のことがす”』
「落として落として落としてーーーッ!!」
バツンッ!
「サホちゃん!?」
突然自分から落とせと宣言したサホは、本人の望み通り縄が切れ奈落へ落ちていった。
『……本当は全部言うつもりだったけど。言ったら本人が自害しそうなのでやめることにするぞい』
「ど、どんな秘密だったんだ……サホちゃん」
「実は猫が嫌いとか!?」
「それは……ないんじゃない?」
そう言ってミツキはコカの方を見て気がつく。もう自分を含めて一人だけしかいない。脱落した人間はこの場にはいないものの、パテレスの口降りからすると、おそらく奈落の底で全員の暴露を聞けるのかもしれない。本当に秘密を隠し通したいのであれば、ルール通りに無反応を貫くしかない。
『続いての標的は〜〜〜神里!』
喉の奥から悲鳴が漏れそうになったが、こんなことではいけないと持ち堪える。ロクの秘密からすると、かなりエグいものが掘り出されてしまってもおかしくはない。
覚悟を決め——
「“最近百合漫画と小説にハマり始めた”……と!」
「…………」
「ゆり?」
ミツキは頭の中で絶叫した。言葉の意味がわからないコカがつぶらな瞳で首を傾げ、こちらを見てくるのが辛い。
(ちがう! 百合が好きな訳じゃなくて、女の子が幸せそうにしてる物語が好きなだけだ……!)
待ったく意味のない言い訳をする。もしかしたらこれも聞かれているかもしれないと思うと発狂したくなる。
「“そのせいで、この間百合漫画と小説を大量購入した”……と!」
「ッ……!?」
だらっと汗が吹き出したが、寸前で耐えた。
(秘密は一つじゃないのか!?)
思い返す。そういえばパテレスはそんなこと一言も言っていない。
「ねえミツキくん。ゆりってなに!?」
「………」
今ここで反応してしまったらこれ以降もダメになる気がする。
ミツキは女の子を無視すると言う苦肉の策で自分を保つことにした。ここまでの代償を払えば、きっとミツキは救われるのだ。そう、後少しで——
『そして、“その大人買いの衝動のせいで、百合関連で本屋の本棚に並んでいたBL本にまで手が出”』
「ちがあああぁぁう!! あれは百合コーナーの隣にあったから間違えたの! しかも表紙が女装男子とか言う訳のわからなッ……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!」
バツンッ!
羞恥心と己のプライドを守るために言い訳せざるをえられなかったミツキは、先人二人と同じく縄を切断されて奈落の底へ消えていった。
「よくわかんなかったなあ……ミツキくんもロクくんも」
『このピュアさんめ! 一人残されたからと言って油断するなよ? ここは私の夢の中。よってワタシのテレパシーは奈落の底にあっても届くのだ!』
高笑いが響き渡る。コカはキュッと唇を噛んで耐える努力をした。コカに立って人に知られたら恥ずかしい秘密の一つや二つはある。
『それじゃあいくぞ! ……あー、んー……これは弱いな……もっとないのか? “道で歌っているところを通行人に見られた”とか弱すぎるんだが』
地味な恥ずかしい経験を暴露されたコカだったが、むんッと頬を膨らませて耐える。これくらいなんのそのである。
『えー……“猫と間違えてビニール袋に話しかけた”』
「………」
『“昨日、靴下を左右違うものを履いて登校してしまった”……』
「……………」
『“親が元忍者で国家スパイ”……なんだこの秘密』
さらりと家系の秘密をバラされてしまったが、コカは反応しない。無敵のメンタルこそが女の心である!
『あー、“お気に入りのパンツを水玉からしましまに変えた”』
「ぎゃば!? なんでそれ言っちゃうのッ……』
バツンッ!
『きゃわあああああああ!」
『え、これで?』
あっさりと顔を赤くして反応してしまったコカの縄が瞬時に切れた。脳内に響く『ええ……』という困惑するパテレスの声を最後に、夢は暗闇に包まれた。
・ ・ ・ ・ ・
「しましま……」
「びーえるとかゆりってなんなのかしら……」
「結局サホちゃんの秘密ってなんだったんだろう……」
「なんでお母さんが思い浮かんで元気なくなるの!?」
翌日の朝、各々の家のベッドの上で頭を抱えるオカルト部メンバーの姿が見られた。
四章締めです。
次回の五章までしばらくおやすみします。
くわしくは活動報告で活動報告してますのでよろしければ覗いてくだされ。