1.プロローグ
オリジナル小説初投稿でございます。
まあ、わかってはいたのだ。タダでは終わらんとは。
気づいた時には視えていたアイツらとは身を守るための地味な攻防を繰り返せばいい。それでずっとやっていけるものだと十年も経つ頃にはそう考えていた。
もっと早く気づけ馬鹿め。自分の体質は元から分かっていただろうが阿呆め。
そんな愚痴をこぼす間にも、足元に倒れている小動物的な耳を生やした男が頭からシュウシュウと焦げ音と共に狼煙のように上がる煙を見て、腕輪から聴こえてくる笑い声は更にその音量を増していく。
この鬱陶しい声が、普通の人間が傍に居てさえも聞こえないと思うと恨めしい。
一体何をどう間違えてこんな事に。思考を巡らそうとするが、この要領の悪い頭では、所々あまり思い出したくないシーンが瞬きをする度フラッシュバックして嫌になってくる。
そして、この自らの運命を恨めしく思うのだ。
──何処からか、空洞を抜ける風の音が聴こえる。
・ ・ ・ ・ ・
──ふと、窓の外に散らしていた意識が戻ってきた。
どれだけ時間を潰せたかと、止まっていた思考を回転させながら少年は欠伸を噛み締めた。
窓から見える殺風景な校庭で、他クラスが体育を行っていたのを羨ましい気持ちを込め睨みつけるように眺めていたことまでは覚えているような。
少年は、午後の静寂のせいで耳鳴りが気になり、ようやく座った姿勢で固まっていたその猫背を伸ばし、視線だけで周りを見た。
教室の中の生徒達のほとんどが机に食いつくようにして机上の紙にペンを走らせていた。それ以外の生徒は机に突っ伏したり、用紙を眺めたりと各々が好きに過ごしていた。若干名、ほんのりと絶望したオーラを放って頭を抱えている者もいる。
そのどれにも当てはまらず、鉛筆を持っているわけでもなく寝るわけでもなく、この小一時間ただ肘をついて外をボーッと眺めていたのがこの少年である。
少年が再び思考停止を仕掛けたその時、それを邪魔するように授業終了を知らせる鐘が鳴った。同時に水が溢れたように周囲の話し声や雑多が爆発する。
「そ、それでは後ろの人から回答用紙を回収してください……!」
気弱な女のクラス担任の声が生徒の活発な話し声にもみくちゃに埋もれている。
どうやら、今までテストの時間だったようだ。しかし、テスト用紙が配られたことさえ気づいていなかった少年の解答用紙には、大神緑という自身の名前すら記入されていないわけだが。
短髪だが、普通よりも無造作に伸ばされた髪から飛び出たアホ毛、前髪から覗く双眸は濃い隈に縁取られている。そして、頬の端すらピクリとも動かない無表情。そのおかげで、常に不機嫌と誤解されがちだが今もそこまで機嫌が悪いわけでは無い。眠いのだ。
ただ、ものすごく短気なのは一切の否定が出来ない。
「ロクくん!!」
眠気を飛ばす作業に忙しく油断していたロクの耳の中を、すぐ隣から飛び出した声が鼓膜までビリビリと駆け抜けた。
その呼びかけは、親が大変怒って我子の名を呼ぶときの様な怒り混じりの声ではない。むしろ、なぜかわからない喜びのような楽しみのような、暴力的にポジティブな感情の嵐のごとき声色をしている。
そんな初見の人間が思わず身を竦めるほどの迫力を持ったハイテンションな声は、顔をしかめたろくに構わずに続けた。
「今回のテスト難しかったね! 先生急に範囲広げるんだもん、まったく!! まだワタシの得意教科だったからいいけど!」
デカイ、とにかく声がデカイ。
「ロクくんはどうだった!?」
白紙のまま放置された用紙を見て言ったのか、見ないで言ったのか。
ハイテンションな声の主はロクのすぐ隣の席から、テスト後にも関わらずガタッと椅子を寄せてきた。
「うっせぇ」
「ごめんね! って、わぁ! テストが一面の雪景色! キレー! まるで新品みたい!!」
「新品傷なしだ。お買い得だぞ、お前買えよ」
「うちにはもう一枚あるからいらないね!!」
目つきの悪いロクをものともせずにぐいぐいロクの顔を覗き込んでくるのは、幼なじみの天雨 狐果だ。
小学校に入る前からの友人でロクの良き理解者で、家も隣なら教室の席も高確率で隣に、もちろん今隣にいる時点で学校も全て丸かぶり。いわゆる腐れ縁である。
所々ハネたり、少しうねりのついていたりする色素が薄くて長い髪。服装は、袖があまり気味の紺色セーターに膝上までの長さの標準スカート。そして黒のスパッツ。
見た目はパッとせず目立たないが、最大の特徴は少しつり目気味で潤んだ瞳を見せ付ける様に目蓋をこれでもかと常に大きく開いているところか。そのために照明や太陽の光をたっぷり反射してキラキラと輝いている。
性格は見ての通りハイテンションで明るい。成績も悪くはなく、コカの机の上にある回答欄は全て埋まっているし、もちろん自分の名前は書いてある。
半目で光のない三白眼、短気に飽き性のロクとは正反対の存在とも言える。
「あ、コラ! ロクくん名前書いてないよ! ゼロ点になっちゃうよ!!」
「名前どころか一つも回答してないんだからゼロ点は当たり前……それに俺今、眠くてシャーペン持つ握力とかねーから……」
「嘘じゃん! 運動神経絶対学年一位なのに!! もうー……また昨日寝なかったんでしょ!!』
ロクがグダッと机に倒れると「しょうがないなあ」と言いながらコカがロクの用紙にサラサラっと名前だけを書き足した。そしてカンニングが疑われぬようすぐさま自分の席に戻る。入れ違いに後ろから来た生徒に解答用紙が回収されて行った。
監督の教師の目を盗んだその一連の動作に、何か慣れのようなものが感じられる。つまりはこれは、いつもの事なのだ。
ちなみに、運動神経学年一位というのは言葉のままの意味で、ロクの運動神経は学校内敵なしレベルに抜群なのだ。握力測定では測定器を壊すなどざらにあるし、毎日ゲームに勤しみながら筋トレをしたりもしている。
ただ残念なのが、持久走などでその力を見せつけようとトップ独走をすると、歩道に突っ込んでくる車に跳ねられたりと大変不幸を被るため、その実力はそこまで周囲に認知されていない。
イヤなことを思い出したロクは頭を振ってコカに視線を転じた。今の様にコカはロクに対して積極的に世話を焼きたがる。そういう所は使え──人が良すぎるとロクは評価している。
その辺りのことは、周囲の人間が一目見るだけでは、明るい性格であるコカに悪い点はない――のだが、それはアレがなければの話だ。
「あ、そうだ! 聞いてよロクくん! ワタシね、テスト終わらせた後にスゴいもの描いちゃったんだよ!!」
「……”描いた”って……」
ハイテンションにご機嫌を重ねたコカは、ニコニコと満面の笑みを浮かべて自分の問題用紙をスリスリ手でさすった。
「ほら、見て見て! 上出来でしょ!!」
そして、若干引き気味のロクの眼前にバンッ! と効果音がつきそうな勢いでコカの問題用紙が突きつけられた。正確に言うと、突きつけられたのは問題用紙の裏面。
本来白紙状態であるはずのそこには、ビッシリと小綺麗に並んだ「あいうえお」の五十音。「はい」と「いいえ」の文字。極め付けには神社にある赤い鳥居……などなどが手書きで描かれている。
数年間コカと腐れ縁をしてきたロクにはわかる。それはまさに……
「お前はテストの紙でコックリさんやる気なのか」
「何事も検証だよ! もしかしたら学問に関係する紙でコックリさんをすれば、ガリ勉のコックリさんが召喚できるかもしれないじゃん!!」
「そんなの呼んでどうする」
「えっへへ」
ロクが褒めたわけでもないのに、コカは照れて満足そうに微笑んだ。
そう、専用の用紙を用いてその上に置いた十円玉を数名で囲み「コックリさん」を呼び出して知りたいことを質問する降霊術――に、使う紙をコカは描いたのだ。
「このオカルトオタクが」
「『オタク』じゃなくて『マニア』って言ってよ!!」
コカのオカルト愛は恐ろしさを感じるところがある。それは決して大袈裟ではない。
現に当時、この学校に入学したコカはすぐさま校長に掛け合い、今まで無かったオカルト部を立ち上げ、ほかの部活に興味がなかったロクともう一人の友人を部員に引きずり込み、一年生にして部長となった。
暇さえあれば妖怪やら神話やらの話をするし、部員を増やすための勧誘活動を欠かさないし、四角い紙あらばコックリさん用紙製造機になる。と、このように行動力の化身のような恐ろしいヤツなのだ、実は。
「で、どう? どう? 上手いかなこれ!!」
「俺それの上手い下手知らない」
「これこの後の部活で使おうよ!」
その後すぐ、教師の「問題用紙も回収します」の一言で、コカの自信作のテスト(コックリさん用紙)は担任に回収されていった。
テスト後、放課後の掃除も終わって帰宅部や運動部が一様に玄関へ向かう中、ロクとコカの二人は全く人気のない三階の廊下を歩いていた。元気に腕を振るコカの跡を、牛歩でロクがだらだらとついて行っている。
向かう先は、彼らが所属しているオカルト部の部室である。
「今日は帰りたい」
「ダメだよ! こう言うのはちゃんと毎日続けるからこそ新入部員も獲得できるんだから!!」
「ふん……そんなの知るか。俺は帰る」
基本面倒臭がりのロクは、コカに誘われて入部したと言うだけで部活にそこまで積極的ではない。つまりサボることに対して罪悪感ゼロ。幼なじみとはいえ、コカという部長を前にサボる気を微塵も隠さないその態度は問題である。
しかし、ロクはオカルト部に必要不可欠である。それは部長のコカが一番よくわかっている。ロクがいないとコカの理想とするオカルト部は成り立たないのだ。
そんなオカルト部に命をかけているコカにロクのサボり対策をしていないわけがない!
「あー、そう言う態度取るんだったらこっちも最終兵器があるんだからね!!」
「バカめ、ンなもの聞くわけが」
「ここにロクくんの大大大ッ好物である干し昆布のお得用パックを用意します」
──数十後、口いっぱいに昆布を詰めたロクは、勝ち誇った表情で目をキラキラさせているコカにズルズルと廊下を引きずられていた。これこそ買収である。
「案ずるな、奴は六天王の中でも最弱……」
「六人いるんだ!!」
この最終兵器さえこの世界から消え失せない限り、ロクが一人だろうと六人だろうとコカの部長権限には逆らうことができない。
「あ! 今トイレにちっちゃい女の子幽霊が入ってったよ、まさか王道の花子さん!? ロクくん見に行こう!!」
「女子トイレだろ」
「そうだよ、良くわかったね! 流石ロクくん、さあ行こう!!」
「まだ犯罪者にはなりたくない」
しばしの間、バシバシロクの頭をハイテンションに叩くコカとロクの格闘が続いたが、それもようやくオカルト部の部室前に着いたことで終わりを迎えた。ロクは変態の称号を見事回避することができた。
オカルト部の部室は三階の使用されていない教室を借りている。他の校舎へ繋がる渡り廊下が近くにあるのと、頻繁に使われるような特別教室が付近に無いため、普段は人通りが少ない。そんな立地のせいもあって、部員を増やしたいコカには残念なことに学校全体のオカルト部の知名度は低い。
室内は、中央に大きな机がドンと置かれていて、それを囲うように三脚のパイプ椅子が配置されている。その近くの壁に新品予備の椅子が立て掛けられているが、入部希望者がいないオカルト部では当分役目は来ないだろう。
壁際は、コカの趣味で収集された妖怪事典、妖怪図鑑、召喚呪文入門なんちゃらがギッシリと詰まった本棚が並んでいる。
しかし、周りにはネズミの死体が吊り下がってもいないし、禍々しい紫色瘴気が辺りに漂っているわけでもない。魔女が杖で緑色の液体を混ぜていそうな窯も置かれていない。
あくまで清潔感があり、端の怪しい本棚さえなければ傍から見れば普通の、言ってしまえばあまり「オカルト」という雰囲気の無い部室だ。
「あーそうだ!」
ロクが定位置の奥の椅子に腰掛けると、コカが何かを思い出したようにポンっと手を打った。
「今朝ロクくんの家の前にすっごい数の幽霊が群がってたよね! 大丈夫だった!?」
「幽霊……あぁ、あれか」
数秒間、眠い頭をスローに動かして思い当たったロクは頷いた。
幽霊。人や動物が死んでもその念などが成仏せず、霊体となってこの世をさまようもの。一定数の者にしか存在が見えず、想像上のものとされることもある。
……が、コカには実際に視える、俗に言う霊感があるのだ。それはロクも同様である。
生まれつき霊感やら何やらがやけに強かったロクたちは、先程のトイレの霊のように、通常では人には見えない人外が常に身近に視える人生を幼い頃から送ってきた。
ホラーの苦手な人間からすると毎日が十三日の金曜日状態だが、十数年感それらと格闘してきた二人の振る舞いは、下手な寺生まれよりも年季が入っている。
「邪魔だったから全身に塩ぶっかけて突撃したら消えた。問題ない」
「何その強行突破!? 幽霊さん達の方が可哀想に思えてくるね!!」
「しらん」
否、年季うんぬんというより慣れすぎて雑になり始めている。
このように幽霊もとい人外たちは、稀にロクたちに対して面倒な存在になりうるものの、本人達は幼少期からの事なので軽くあしらうことには慣れている。
そうはいっても全部が害になるわけではなく助けられることもしばしばあるが、基本的には面倒なのでロクはできるだけ干渉しないスタイルを貫いているつもりだ。
反対に幽霊妖怪に対して積極的なコカ。こんなオカルトオタクになってしまったのも、妖怪や幽霊が少しでも生活のタメになればと調べていくうちにドハマりした結果らしい。実に残念だ。
コカの妖怪好きはモロに態度に出ているため、最近ではコカのウェルカムオーラを感じ取った無害な人外たちが懐いて時々部室にまで来るようになってしまっている。
「わあ、見てロクくん! この時期に雪ん子がいるよ! 氷あげたら喜ぶかな!?」
コカはちょこんと愛らしく机の淵に腰掛ける掌サイズの雪ん子を愛でている。
ロクは机の上をてくてく歩いて近寄ってきた猫型の付喪神を軽く撫でてやったところで、あと一人、まだ部活にやって来ないもう一人の部員の存在を思い出した。
「そういやアイツはどうした」
「今日生徒会あるんだって! なんで学校は部活動を優先させないんだろう! 今度校長先生に抗議してこようかなーーー……」
そのもう一人の部員の話を出した途端、コカの先ほどまで輝いていた瞳にどろっと影が刺し、その口から恐ろしい一言が漏れる。ロクは驚くそぶりすらしない。
自分の好きなこととなると自分の身の危険すら目に入らなくなるコカ。放っておけばいつか全国の学校にオカルト部の設置の義務付けを教育委員会辺りに交渉しに行くのでは、とロクは密かに期待している。
しかし、コカの闇はすぐに引っ込んで瞳には輝きが戻ってきた。ウキウキとした足取りで今日の部活の用意に本棚から本を引っ張り出したりしている。切り替えは早い。
「遅刻は遅刻……だな」
「うん!」
「遅刻者には……罰、だよな」
「うんうん!」
パイプ椅子の背もたれに体重をかけて反り返るロクからの不穏な言葉をコカはハイテンションに肯定する。
よく見ると、ロクのバックから使用用途のわからない麻縄の束が。コカの余り気味のセーターの袖からこれまた使用用途のわからない薬の瓶がひょっこりのぞいている。
「罰! なににしようか!」
「そういや小遣いピンチっつってたな。じゃ、駅前の食べ物屋巡りの奢りさせるのと、一日カカシの刑で」
「いいね~~~~~!!」
「マッタクよくないよッ!」
ツッコミと共に勢いよく開かれた扉から上半身をのぞかせた男子生徒は、もちろん残り一人のオカルト部の部員。
「ボクががいない間にブッソウな話し合いを進めるんじゃないよ!」
「チィッ……」
「舌打ち!?」
その顔を見て、ロクはこれからさらに広げるつもりだった罰の話を終了せざる終えなくなり、舌打ちをかました。
しかし、その舌打ちの意味をご解釈したその男子生徒は、ふふんと鼻を鳴らし前髪をかき上げてきもーち少しだけ胸を張る。
「あ、もしかして……美少年であるこのボクがなかなか来なくてイラついちゃってた? まあそうだよね、この顔はいるだけで全ての女の子の心を安らがせるほどに整ってるし……でも残念でした! ボクは間違ってもロクくんみたいな野郎の目の保養なんかになるつもりは無――」
瞬間、ロクはパイプ椅子の上から消えていた。目にも止まらぬ速さでミツキに急接近し、腕を跳ね上げる。完璧な軌道を捉えたその拳は目標の鳩尾へと吸い込まれた。
「グァッ!!」
クリティカルに弾丸の様なロクの拳を受けた男子生徒は、カエルの様な声を上げつつ一瞬浮いた体をドシャッと地面に倒した。
「だまれ妖怪ナルシスト。顔の皮剥ぐぞ」
「ぐぇ……冗談に聞こえな……」
「冗談とは笑わせてくれる」
「全然笑ってないね、ロクくん!!』
たった今、ロクのボディーブローでダウンしたこのナルシスト男が先程までの生徒会で副会長を務め、その仕事に励んでいたオカルト部の三人目の部員、神里 三月その人である。
「さすが、人の嫌がるポイントを確実に突くいやらしいプロであるキミの拳は重いねー。あー痛かった」
「回復早いねミツキくん!」
「くたばれチャラ男」
「いつも思うけどボクへの当たり方が酷くない? コカちゃんは別にいいけど」
ロクに罵声を浴びせられたミツキは凹むこともなく、「いつもの事か」と見習うべき不屈のポジティブさで苦笑した。
後ろで低く括られた珍しい白髪。聞けばそれはアルビノだとか。それと同様に透き通るような病的に白い肌が印象的だ。その肌とは対照的に角張った黒縁の眼鏡を掛けていて、その奥に見える切れ目で恐ろしく整った顔は見るものが見れば神秘的な美しさを感じるかもしれない。
白髪が人目を引くが、それらを除けばロクにチャラ男と言われたものの、派手な気崩しをしているわけではなく、普段の学校生活では成績優秀で傍から見てもムカつく超がつく優等生だ。
ロクの記憶では先日の中間テストの順位はぶっちぎりの一位だったはずだ。ちなみにロクの成績は……冒頭の情報で想像するには十分だろう。
そして、何より今のように余計な発言をしてロクのどつきを食らっては何故か直ぐに回復する打たれ強さとポジティブさがある。
「ごめんねコカちゃん生徒会が終わった後女の子に囲まれちゃって……クッキーとかチョコの差し入れとかを貰っちゃってつい遅れちゃった。あははは!」
「……どうしようロクくん。ワタシ女なのにお腹のそこがグツグツ煮えたぎってくるよ!」
「俺もだ」
ミツキの発言に負の感情を抱く男子生徒は多いものの、優等生であり実は決して遊び歩いているわけではないミツキに対しては、誰もが文句の言葉を言いづらいのだ。
しかもナルシストという残念な部分がありながら学年のほとんどの女子が寄ってくる。実に腹ただしい。
とにかく女子に全力で優しく、男子には絶対零度を地でいく、それがミツキという男だった。
「じゃあ、ミツキくんの遅刻の罰は駅前飲食店巡りの負担でよろしくね!」
「えー、それだけでいいの? 女の子こへのお詫びならお安い御用だよ!」
「もちろん俺の分もな」
「えっ何で野郎なんかの分も奢んなきゃいけな」
再びロクの腕がノータイムで跳ね上がった。
「グハッ!!」
「何も学習しない」
脇腹を抑えてしゃがみ込んだミツキの首根っこをロクが掴み、空いているパイプ椅子に叩きつけると、コカは机の上にいた小型のモンスターたちをどけて仕切り直した。
「はい! 部員が揃ったところで、久しぶりにちゃんとした活動内容を発表しようと思います!」
「おお! 本当に久しぶりの活動だね。最近は西洋ゴースト図鑑熟読だったけどさすがのボクで
もきつくなって来たからよかった」
「また怪談話三時間耐久とかじゃねぇだろうな」
前回行った耐久系で、ガッツリ眠ってしまったロクの脱落の罰ゲームが一ヶ月の自販機奢りの刑だっただけに、ロクは少々警戒してコカを見た。
「今回は罰ゲームなしだから大丈夫! しかもコストはたったの十円だよ!」
「じ、十円?」
「……読めた」
察しのついたロクはため息を吐いた。
「今日の遊びは……これだ!」
「遊びって言っちゃった!」
そう言って机に叩きつけられるように提示されたのは、最近見かけた気がする五十音表が羅列する紙と十円玉。
「またコックリさん!? この前やらなかったっけ!?」
「さあ、今日はたっぷり遊ぶまで帰さないよ!!」
「ある意味耐久じゃねえか……」
それから二時間半。
強制的に始まったコックリさんは結果的には成功したものの、その間ポルターガイストで本棚の本は落ちるわ、近くにいた下級妖怪が覚醒するわ、ロクの質問で体重が晒されそうになったコカが叫ぶわ、たった三人しか参加していないコックリさんでプチパニックが起こった。
ロクがキレてコカをはっ倒す寸前、言い出しっぺのコカが教師からの呼び出しを思い出すまで部活は続いた。
追記2020.4.30:加筆修正しました。