しゃぼん玉を手渡せば
「武雄くん……」
「んん……」
笹峰は眠たそうな声を出した。
ベッドの中で同じ布団に包まり、お互いの体温を感じ合う。
「よかったの……?」
「んん……」
起きているのか、寝ぼけているのか分からなかった。
笹峰は、衣世を抱きしめた。衣世は、黙って身を寄せた。
「よかったよ」
「……そっか」
衣世は、胸の中で目を閉じた。眠れそうにはなかった。
カーテンで光が閉ざされた部屋で、二つの心音が鳴っている。
二つの心音は、徐々に近づいて同じ音を刻むようになる。
それは、今まで聞いてきたどんな音楽よりも、胸に沁みた。もう、忘れることは出来ないだろうな、と思った。
高校を卒業して、衣世18歳。
笹峰武雄28歳。
「……友達からはロリコン犯罪者って、呼ばれてるけど」
「もう18歳はロリじゃないよ。大人だよ」
「オレから見たら子供だよ」
「……子供が好きなの?」
「……衣世のことが好きなだけ」
「……あっそ」
平然と静かな心音を打つ笹峰を、少し恨んだ。
勝てないなぁ。
「自分の好きなように生きてよかったよ……」
「……そうだろう? これからもそうするんだよ」
「でも、武雄くんが……」
「いいんだよ。俺も好きなように選んだ。でも生きてる」
「難しいよ……」
「簡単なときなんて、ずっとなかっただろ」
あぁ、そう言われれば、そうか。
生きていくのって難しいんだ。
衣世は、笹峰の胸の中で、幸せを願った。
どうか、幸せでありますように。
どうか、どうか、私の愛する人が幸せになりますように。
私が、幸せに出来ますように。
そんな人間になりたいと思ったよ。
私は、あなたの愛を預かっている。
あなたには、たぶん渡す方法がないから。
私の中で、育むよ。
それでいいと思ったんだ。
自分で、そうしたいと、思ったから。