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おやすみなさい


 私が高校を卒業する頃には、先生は何歳になっているのだろう。

 その時、先生はどんな世界を見ているのだろう。

 「先生」とまだ呼べるのだろうか。


 シャボン玉みたいに、繊細で美しく、どれも似たような形をしているのに、どれ一つとして同じものはない人の気持ちみたいに。

 分かったようなふりして「好き」というたった二文字で表現出来てしまう、この気持ちはそれで満足なのだろうか。

 もっとたくさんの、それこそ一冊の辞書に載っている全ての言葉で表現されたいんじゃないだろうか。


 私は、そんなことをいつも思って「好きだよ」と確認してもらえるように使う。先生は別にそれで不安になったり安心したり喜んだりしない。でも、この言葉は生理現象のようなものだ。

 生きているから、生きていれば自然に出てくるように体は出来ている。少なくとも私の体は「好き」の数と同じだけ「嫌い」なものが出来てしまうようだ。


「好き」という言葉で、それ以外のものを作ってしまう。本当に言葉というものは扱いが難しい。

 この気持ちを表現出来る言葉なんて、実は存在しないのではないか、なんて思う。

 きっと、簡単に表現出来ないように神様が隠したのだ。

 一生をかけて、一生以上をかけて、伝える表現を探して生きていく。

 完全に伝わることなんて、無理なんじゃないかとさえ思う。

 



 言葉は発した瞬間から、朽ちていくものだとしたら、私の後ろにはたくさんのお墓が並んでいる。

 泡のような言葉も、棘だらけの言葉も、誰かにもらわれた言葉も、ひとりぼっちで亡くなった言葉も、全部並んで、その先頭に私は今立っている。

 一日の終わりに一番に前に来てくれる言葉が「おやすみなさい」だったら、どれだけ幸せなのだろうと思う。

 それだけで、私は笑って眠れるから。


 

「おやすみなさい」

「うん」


 相変わらず挨拶が下手くそで、私は笑ってしまった。

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