星図詠図書館のイデア=ラストホワイト
ある昼下がりの、星図詠図書館。
金髪碧眼の、身も震えて、ゾッとするほどの、剣の研ぎ澄まされた気配。
彼女の雰囲気だ。
対面すれば、穏やかな親密・親近感で抱擁してくれる彼女だが、
美貌は、問答無用で、この人は神のような、どこまでも超越した存在だ、と、
頑なに信仰、崇拝し、己の希望として、持てうる限りを無上に超越して、
滅私奉公、与え注ぐような慈悲と愛情を、果てなく力一杯に注ぎたくなるような、そんな有様。
僕は、図書館にて。
その所持品をポケットに収納した。
イデア=ラストホワイト
その人物は、純文学的な哲学の奇跡を成した、第一人者として、世界に知れ渡っている。
彼女の描いた世界は、人間を幸福にするのだ。
幸福とは何か? そんなモノは単純だ、満たされることだ。
もちろん、人間は貪欲なので、さらなる幸福を求めだすのは、言うまでもない。
今を持って、誰も満たされ尽くした存在が存在しないように、
彼女の書物は、歴史的超傑作として、誰もが読み、嗜み、人生の貴重で莫大な肥しにするのだ。
そう、彼女は素晴らしい、掛け値なしに素晴らしい。
例えるなら、
善のイデアと一つになった、
存在の強度的に、突き抜けているのだ、
少なくとも客観的には、確実に形而上学的な領域に存在する、絶対的な超上位存在だ。
あれほど素晴らしいのだから、そういう人、人間以上の”なにか”に至っていないと、到底説明できない。
ただ単に、普通に、少なくとも僕という人間の視点から見て、予測でなく確信の領域で、と注釈するが、
彼女は突き抜けた人格者で、天才で、創造病患者のような奇跡を成すのに、まったく正常から外れない、ということ、という話。
つまり、彼女はいわゆる”超本物”という奴で、ずっと昔から、もしかして始まりからして、そうあるのかもしれない、だ。
傍にいるだけ、ドキドキしっぱなしで。
無垢で純真な、純粋な青少年のような、不甲斐ない有様を晒す。
初恋などという、それはある種、神聖な、そのような補正だけでは、これは説明できない。
彼女は、どうしようもないほど、この世界において価値と意味があり、奉仕しなければいけないと、
どこまでも遍く感情が、求めに求めて止まないのだ。
何か彼女とのエピソード、思い出を思い出して、回想したい。
ある日、僕は司書として勤務する彼女と邂逅する。
僕は、冗談交じりに、「司書さんって小説を書いたりするんですか?」とたずねた。
すると、彼女は答えてくれて、それなら今から実践して証明しますと、悪戯半分で言ってくれた。
それから三十分。
僕は完成した生の原稿を見て、世界観がひっくり返るような、むせ返るような、
それは目から鱗だった、のだ。
今まで、自分の視界、正確に表現するなら脳みそに、これほど埃のようなモノ、
こびり付いて、この光り輝けるモノ達を阻害するような”なにか”が、あったのかと思った。
一言で言って、世界が変わった。
そして、これだけの文章で僕の世界を変えられる彼女に対して、一つの確信を抱いたのだ。
この人は一言で言って、生きている世界の、レベルが桁違いで段違いだ、と。
それはまるで、人間同士なのに、人間同士じゃない、異種生命体のような感覚なのだ。
未開人に対して、都会人が、自分と同じ生命体と思えないような、それは感覚に近いと思う。
彼女は、本当に、僕とは生きている世界が違うのだ。
それは実際に実証的な方法論で証明された、紛れもない、僕の確信する真実である。
だからこそ、より彼女が神聖なモノで、尊く重要で大事で、絶対死守するべき存在だと思う。
この世界において、この世界、こんな低俗に存在するべき、
そもそも、自分の、矮小な人間の手の届く所になんか、在るべきではない。
本来なら、天上の神々の国のような、高嶺の花すら生ぬるい。
彼女は、誰の手の届かないような場所で、同格の尊き人たちと一緒に、幸せになるべきだと思った。
ある意味で、不憫でかわいそうだと、役不足、そのような感情を抱いたりもした。
ありのままに言えば、義憤のような怒りに沸々と襲われた。
どうして彼女は、その尊き存在性に見合った、膨大な幸福と高待遇に恵まれないのか、そのような事だ。
世界は酷く罪悪的で、背徳的な仕打ちを、彼女にしているのだと思ったのだ。
だから僕が、少しでも滅私奉公しなくちゃ、そのように思ったものだ。