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一件落着…?

「体は傷つけないで、あの剣をこわしてください」


 ほんの一瞬に耳に入ったガイドさんの言葉を聞いて、勝手に体が動き出していた。

 真上から降りかかってきたグロスソードを避けるなんてことは意外と冷静になれば簡単なもので、キイクソードを逆手に持ち、後ろの女性を優しく抱き上げて右足を軸にして後ろ向きに回り視界が百八十度回転したら軸を左足に替えてまた後ろ向きに回った。

 私がかわしたことで、グロスソードは地面に力強く衝突しまたもや大きな亀裂と頭が割れるような轟音。あんなのに当たっていたらひとたまりも無かっただろう。

 …いや、大丈夫か。


「ガイドさん、この人お願いします」

「あ、はい…」


 大男が地面から剣を抜いている隙をついてガイドさんの所に駆け寄り女性を託し、彼の方に少し駆け足で寄った。

 グロスソードの半分は地面に突き刺さっていただろうに、男は片手でゆっくりと引き抜いた。


「ヘェ…コノ大剣ヲ尻餅ツカズニ避ケタ奴ァオ前ガ初メテダゼ」

「……」


 キイクソードを持ち直して男に向けた。


「…『体は傷つけないで、あの剣をこわしてください』か。なんとか…なるかな」

「何ボソボソ言ッテヤガンダ?今カラくちモキケナクナル位ギッタギタニ切リ刻ンデヤルノニヨォ…!!」


 少し考えているとまたグロスソードが空を切る音が聞こえた。今度は横から斬りかかってきた。咄嗟にキイクソードを体の側面に沿って構える。

 剣同士はぶつかり合うと共につんざくような金属音を盛大に鳴らし、その衝撃に耐えれなかった私の身体はグロスソードの威力で数メートル吹っ飛ばされた。飛んでいる瞬間はスローに感じたが、地面に衝突すると重力を充分に感じるほど強く叩きつけられる。

 肩に感じたことない強烈な痛みが走った。骨が地面とぶつかりあって響くのが嫌でも分かった。【死なないゲーム】でも痛みは感じるということか。


「…ア?何ダガキ、サッキマデノ威勢ハドウシタァ?」


 肩の痛みに耐えながら握っていたキイクソードを見た。

 傷一つ無かった。グロスソードと比べたら格別弱そうに見えるキイクソードはヒビひとつ、それ以前に汚れひとつ無く、しかも増して緑銀色の輝きを放っている。強い。そう確信した時、体は自然と立ち上がっていた。


「…ナンダコレ?」


 男の方を見ると、グロスソードを一心に見つめていた。こちらからでは遠くて見えない。


「…欠ケテヤガル。シカモ…半円型ニ…ダト?」


 男の発した言葉で、何か突っかかっていた物が少し無くなった気がした。また視線をキイクソードに移す。改めて見ると、白いオーラがかかっていることに気付いた。

 行ける。このやりかたならあのグロスソードを破壊することが出来るかもしれない。

 肩の痛みは気にならない程度になり、相変わらず紫のオーラを放っている男を見た。腰を落として、しっかりと持ち手に力を入れた。

 確実に、狙ってやる。


「チッ、立チ上ガリヤガッタカ。マァイイ、俺ガモッペンブッ飛バシテヤルカラヨォ…!!」

「…っ」


 さっきよりも距離は遥かに遠い、でも男は構わず体勢を低くして足に力を入れて駆け出した。男の蹴った直後の足跡が、コンクリートの地面にくっきり浮かんでいるのが分かる。男がこちらに近付くほど速さが増しているのにも気付いた。自分を落ち着かせるように小さく息を吐いて、相手の構えを観察する。

 先ほどと同じような距離まで来た時、男は剣を向かって左斜め上に構えた。私もキイクソードの刃先を右斜め上に構える。途端に男が勢いに乗ったままグロスソードを振り降ろした。男との間合いを詰めて、真正面から剣を受けた。

 さっき聞いたよりも鈍くて重い金属音。重力と強大な筋肉によって振り降ろされた大剣は途轍もない重さで、膝を付きたくなったが踏ん張った。耐えている私を見た男は薄ら笑いを浮かべて、さらに上から力を入れる。

 だが、私にその加えられた重さは伝わってこなかった。それどころか、グロスソードのみの位置が低くなっている。

 今度はこっちが笑う番だ。

 かん、と頭上で小さく鳴り、耐えていた力が不意に軽くなる。そして大男が持っていたグロスソードが大男ごと地面に真っ逆さまに落ちた。スローモーションのような一瞬。

 先程の比にならない轟音が足元で鳴る。途端にそこを中心とした膨大な地割れが起きた。頭の奥まで響き渡る金属音に顔をしかめながら、なんとか意識を保つ。


「……ッ」


 地響きは治まり、観衆が大勢いるはずの広場に静寂が訪れた。後を追って来るようにつんざく頭痛。よろけた足元には大きいヒビが入っていて、飛び出た瓦礫に足を取られてその場に座り込んだ。

 その音を合図としたかのように大きな歓声が四方八方から沸き上がった。


「おい今の見たかよ!!」

「やべぇー!」

「すげぇなあの兄ちゃん!」

「見ろよ!」


 数々の人が私の少し下、地面を指差している。

 つられて見ると、私を中心とした半径五メートルほどのくぼんだ穴がぽっかりと空いていた。よくこれほどの物を耐えたものだと自分自身に感心していると、目の前にパネルが現れた。


【シュタルクさんは戦闘不能状態になりました。戦闘を終了しますか?】


 その文を読んでる間にも関わらず、耳元に甲高い声が聞こえた。


『はい、を!押してください!!!』

「…」


 興奮して伝える声に小さく息を吐きながら、【はい】をタッチする。すると目の前に【You Win!】と派手に紙吹雪が舞うエフェクトをまとった文字盤が現れ、それと同時に聞いたことのあるガラスの割れる音がした。


「る…ノアさーん!」


 声の方に振り返ると、ガイドさんがくぼみの外から大声で叫んでいる。ノア?誰だろう。知り合いがいたのか。などと考えていると、今度は私の方をはっきり見て、


「大丈夫ですかー?ノアさーん!!」


 と言った。私?さっき流香と伝えたはず。その証拠にさっき流香と言いかけていた気がするし。訂正しようと大きく息を吸うと、真後ろから低い唸り声が聞こえた。驚いて振り返ると、そこには真っ二つに折れたグロスソードとそのすぐ隣に大男が丸くなって倒れている。ついさっきまで放たれていたオーラが微塵も感じないから、一瞬誰だか分からなかった。呆気にとられて見ていると、少しだるそうに目を開いた。


「こ、…ここは…」


 ゆっくり上体を起こしながら辺りを見回して、私と目が合う。


「……」


 あまりにも見つめ続けられるものだから、こちらから目を逸らした。挙動不審な様子を見ると、今までの事を覚えていないとでも言っているようだ。


「あの」

「…はい?」


 開いた口から出てきた優しそうな声色にまた驚きながらも、問いかけに答えた。


「この穴は…あなたが?」

「い、いえ。…あなたが」


 左手を彼に向けると、ぎょっとしたように目を見開いた。


――――――――――


 事情を把握した彼は、ゴドルと名乗った。幾度となく私と避難していた女性に謝罪をして、――いらないと言ったのだが――慰謝料としてコインをいただいた。


「慰謝料って、コイン一枚なんですか?この世界では」


 申し訳なさそうに肩を落として帰っていく彼を見送りながら、貰ったばかりのコインを空に掲げる。となりで女性と話していたガイドさんが、ああ、違いますよ。とこちらに向き直った。


「このコイン。ただの金メッキに見えるかもしれませんけど、価値としては十万円くらいですかね」

「じゅ……」


 人差し指と親指で挟んでいたので落としかけた。だがなんとか両掌で包み込む。そして、


「じゅうまん…」


 まじまじと見つめる。面には大きく『E』の文字。重さとしては全く重くない。言うなれば一枚の十円玉ほどだ。信じられずに、眉間にしわを寄せていた。すると突拍子もなく、耳元にか細い声が聞こえた。


「あの」


 反射的に声の方を見ると、先程助けた女性があと数センチで鼻同士がぶつかるような距離にいた。


「うわっ!?」


 驚いて身をひるがえそうとすると、身体が固まって動けなかった。要因は、彼女の手が私の服の裾をがっしり握りしめていたことだ。先程まで泣いていたような人の力の強さではない。

 抵抗することが出来ないまま、ほぼ初対面の女性に近距離で見つめ続けられること数秒。彼女が一言。


「すき」

「…ん?」


 友好的な『好き』ではない事は嫌でも分かった。彼女の小さく震えた声と意思がこもった視線。ガチだ。


 混乱した頭をグルグルと回していると「はぁ!!?」というガイドさんの焦った大声が聞こえた。

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