エリート霊能力者の俺による実録変人と自縛霊の観察レポート
こんにちは、エリート霊能力者だ。
いや、俺は電波キャラじゃない。ごく普通の常識に従って行動する一般市民だ。
俺の家は、化け物はぶっ潰すというのが家訓の霊感集団である。
主に悪霊やら怨霊を退治するのが家業となっている。
そっち方面では才能のある俺は、ある事件がきっかけで家訓に疑問を持つようになった。
今回はその事件の要因でもある、変人の日延明和の初恋の話を話そうと思う。
この時、俺は高校生で明和とは腐れ縁の友人だった。
奴は正直な所、変人と言うか、妙な所でずれていた。
俺は明和のそんな所に呆れつつも、真面目ないい奴だったのでどうにか付き合いが続いていたのだ。
ところが最近明和の様子がおかしい。
酷く真剣に何かを考えているようで、ぼうっとしている。
具体的事例を挙げると、バスケの授業で顔面でボールを受け止めたり、
道を踏み外して溝に足を突っ込んだり、景色が美しく見えるようになったと呟いたり枚挙暇がない。
そこで奴の数少ない友人である俺が、尋ねてみることにしたのだ。
「明和、数学のテストの点数が赤点でも気にするなよ。お前、日本史ならスゲー出来るじゃん。」
「そうではない。皆で肝試しに、近くの廃ビルに入ってからどうも調子がおかしいんだ。」
明和は心底呆れたと言うようにため息をつくと話し始めた。
曰く、クラスの男子の間で度胸試しとして幽霊が出ると噂の近所の廃ビルに赴くと言う事になったこと。
初めは皆興奮していたが、廃ビル内は妙にじっととした雰囲気で段々静かになったこと。
そしてとうとう、幽霊らしき女性を目撃すると叫び声をあげ蜘蛛の子のように散り散りに逃げたこと。
翌日はショックのあまり寝込んだ奴もいたこと。
「ふーん。じゃあ霊障をもらっちまったかね。仕方ない、これから神社に行こうぜ。」
「いや、彼女には謝罪をしたからそれはない。」
「は?」
「俺達は彼女の住む場所に勝手に入った挙句、悲鳴を上げて逃げたのだろう?
女性に対してとても失礼な行為だ。幸い、吃驚していたが受け入れてくれた様だ。」
「………。」
俺は心の中で明和だから仕方ないと3回繰り返して、気を静めた。
それから、どうにか次の質問を繰り出した。
「そ、それで何を悩んでいるんだ。お前、少しやつれただろう?」
「ああ、それで彼女が寂しいと言うから、時々話し相手になっているのだが。」
「お前、気に入られて取り付かれたんじゃないのか!」
「そうかも知れない…。」
そう、奴が深刻な顔をするので俺は反射的に清めの塩を携帯しているか確認した。
「彼女の美しい姿を見ると、脈が速くなるんだ。ひょっとすると不整脈かもしれない。
最近では、夢の中まで彼女の姿が出てくる始末だ。胸が苦しくて食事も喉が通らない。」
鬱々と語る、忌々しいことにイケメンな横顔を俺は呆然と眺めた。
これは、ひょっとすると…。
「おまえ、それ恋じゃないか?」
「恋?そうか、これが恋…。」
哲学者のようになっている明和を俺はぼんやりと眺めた。
多分奴は初恋だろう。
相手が誰であろうが応援しようと、俺は決めた。
ところがである、明和はどんどんやつれて行ったのである。
これは質の悪い女幽霊に誑かされて、生気を吸い取られているのかと奴に直談判することにした。
「明和、顔色悪いぞ。おまえ、相手に騙されてるんじゃないだろうな。」
「いや、これは彼女を成仏させようと奮起している結果だ。中々、上手くいかなくてな。」
「え、成仏したら会えなくなるぞ?。」
「相手の幸せを願うのが愛じゃないのか。」
彼女は現世で長らく苦しめられてきたらしいから楽になって欲しいのだと、
続けた奴の言葉は俺の耳を素通りした。
愛。男子高校生からは縁の遠い言葉である。
明和、おまえ見かけ通りに重いな…
俺は内心引きながら、そう言うことならと協力を申し出た。
そしたら、手荒な事はするなよと釘を刺された。
解せぬ。
しかし、彼女の残したであろう未練は中々分からなかった。
「恭子さん。何か思い当たる節はありませんか?」
「うーん、何せ昔の話だからね。」
似たようなポーズで悩んでいる二人は中々お似合いだ。
しかも、明和の野郎の癖して名前呼びである。
幽霊の恭子さんは綺麗系の美人で、幽霊に良くある陰気臭さがなく明るかった。
本人いわく、50年以上も幽霊やっていれば恨み辛みも忘れるわよとの事だ。
まあ、これは個人の資質だろう。
成程、こういうのが好みなのかと恭子さんをじっと見つめていたら彼女が振り向いた。
「あ、えっと、恭子さんの死因なんでしたっけ?」
俺の馬鹿と、胸中自分の事を罵った。余りにデリケートすぎる話題である。
このデリケートさは、過去俺が受けた高校受験の試験の合否結果を尋ねること等足元にも及ばない。
少なくとも、場繋ぎで聞いていい事じゃないのだ。
「婚約者に振られて、
腹いせにこのビルの屋上から飛び降りたのが死因だけど。あの頃は若かったわ。」
彼女はしみじみとした口調で語った。
「恭子さん…。大変でしたね。」
そう言って、明和は何気なく彼女の手を取ろうとした。
幽霊なので、掴めなくて失敗したが。
お前奥手じゃなかったのか。
それで俺はピンと来た。
土地神様が怒っているのではないかと。
土地神様のいる所で人が亡くなると怒りを買う場合があるのだ。
そこで、俺はきちんと許しを請うことにした。
これが成功したのは、多分恭子さんの陰の気が晴れていた事もあるだろう。
後日、廃ビルに行くと以前よりもずっと姿が透明になった恭子さんがいた。
「どうですか。調子は?」
幽霊に調子と言うものはおかしいが尋ねてみた。
「ええ、もう少しで成仏できそう。明和、貴方を待っていたの。」
そう言うと、恭子さんは女の顔で薄く笑った。
「私と一緒に来ない?」
そう言って彼女は手を伸ばした。
俺が明和の盾になろうと、反射的に前に出た所で奴は言った。
「いいえ、残念ですがお断りします。沢山恋愛して良い男になりますので、待っていて下さい。」
明和の奴がそう言うと、恭子さんは少し寂しそうな顔をしてかき消えた。
この間、俺は空気だった。
この後、明和は近くのファーストフード店でやけ食いをし、
俺もそれに付き合った。
宇宙人のように思っていたこいつでも恋をするんだなと分かったのが、
今回唯一の収穫だった。(当然、俺はただ働きである。)
エリート霊能力者の俺による実録変人レポート。の続編になります。
良かったら、そちらも併せてご覧ください。
ちなみに土地神様云々は創作です。
申し訳ありませんが、ご了承ください。