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裏化野駅 【壱】

 活動報告に書いた通り、差し替え投稿いたしました。

 申し訳ありません。前の文章は、活動報告のほうにコピーして張っておりますので、よろしくお願いいたします。

 さくさくいきましょう、さくさく。


 では、どうぞ。

 闇から目が覚めるとそこは駅のプラットホームだった。

目前に広がる海原。淡く赤に染まる白雲、沈まずに中空の一点で留まっている丸く大きな夕陽。なんてことはない。石積みに草が生え、乾いた土が地面を固める田舎らしい風体の駅のプラットホームだった。


 その証拠に少し視線を斜め前下に移せば、赤茶けて錆びた鋼鉄のレールが、ゆるい曲線を描いて横たわっている。おいらが首ごと左右に振って線路の終わりと始まりを確認してみたら、列車のレールらしき鉄の道は、どこまでも際限なく続いているようだった。ベンチに座ったまま首を振って斜め右は、海原が見える港町の森林から。視線をずずいと引き戻して首を振った左手も、当然、田舎にありがちなちょっと手入れの行き届いていない、太い木の板である枕木と枕木の間の道床に下草が生えているものだ、とおいらは勝手に思っていた。そう先入観を抱いてみてみたら、なんと現実はおいらの想像、斜め四十五度を上回った! 線路の先が闇の中に消えている。それもただの闇ではない、くすんだ群青色の空にきっちり固定されて浮かぶブラックホールのような闇の中だ!


 おいらは驚きに目を瞠った。


 線路と枕木が空の道を通ってブラックホールの中に消えている……? つまり、ブラックホールは駅と駅を繋ぐゲート? 某勇者ゲームの“ルーラ”のような時空瞬間移動の役割を果たしているのだろうか。映画とかで見た事があるのだが、ブラックホールには科学的に見て、超高圧エネルギーにおける磁力のようなものを発するため、時空間移動を可能にする可能性があるという仮説が提唱されていることもあるらしい。ならばファンタジーの世界だ! “優れた科学は未知の魔法にも匹敵するマジックにもなる!” ならばきっとあの線路を支えているのは、ステルス効果という名の超現代技術が用いられた魔法の台で、駅のホームの少し先から宙に浮かんで見えるのは、視覚の魔法マジックだ! 本当に魔法でも、科学で作られた偽物の魔法でもどっちでもいい!! おいらはわくわくしている! この光景、この事態、この魔法列車を思わせる舞台装置こそ、おいらの浪漫の欠片! きっとおいらが遊園地やテーマパークなんて、人生で一度も生身の躰で行ったことがないから、神さまがおいらを見た事もないような、素敵な遊園地へ連れて来てくれたんだ! ―――違う、神さまなんてこの世にはいない。魔法なんてものもおいらがいた平成の日本には存在しない。時代は科学。時代はインターネットで瞬時に繋がる情報社会。おいらが幼い頃から憧れ続けた魔法は、全部大人たちが作り上げた空想と科学技術の副産物。地元の映画館で見た『ハリー・○ッター』のような実際の魔法、わくわくやドキドキや興奮、本物の魔法を教える魔法学校なんて存在しない。本物の魔法だと思ったら、CG技術や科学技術で作り上げた偽物の魔法だったなどという絶望はもう、嫌だ。


 だからおいらは現実で、魔法的な出来事に出会ったとしても、心をときめかせるだけで、尋ねたり、習ったりしようなどという実際の行動に出ることは数年前に諦めた。


 平成の日本は出る杭は打たれる嫌な世の中だ。柔和な笑顔で集団の和を尊び、集団から外れる者を卑下して苛め、蔑み、排除しようとする傾向がある。笑顔の裏では権謀術数、嫌味怨み辛み下心、陰険な蔭口に誰か気に入らない者を殺してでも蹴落とす算段、自分の鬱憤晴らしのために他人はどうでもいいという姿勢、自分さえ良ければ他人はどうでもいい。そのくせ、人に嫌われたくなくて、好かれたくて、曖昧な笑顔の裏で計算高く自分をよく見せようとする方法を探っている。厭味ったらしく和を尊ぶとみせかけて、優秀なモノから足を引っ張るように蹴落として、自分が上に立てば他人を見下す。―――本当に醜い、醜い、醜くも必死な人間のなんと美しく、なんと悍ましいことか。

 古来から伝わる日本人という人種の歪んだ本性が、学校と言うあの高密度な人間の巣に、存在するような気がしておいらはならなかった。

 おいらは魔法やファンタジーといったものがいっとう好きだ。

 現実は醜く、凄まじく、生命力に溢れて美しい。だが、同時に悍ましくおいらには耐えられない。

おいらはゲームや空想の世界といった現実でない部分の話が好きだ。

 だって、学校で虐められていることを忘れられる。空想の世界に触れている時だけは、本当の自分を隠して生きなくていい。だからおいらは―――。



 ◇◆◇◆◇



 唐突に、通っていた高校の屋上の風景が、脳裏に映った。

 丈の短いスカートを履いた制服姿の女子三人組。

 同級生だった彼女たちに囲まれたおいらは、屋上の安全柵まで追い詰められていく。


 その三人はいつも“気に入らない”とか、“汚い”とか、“目の毒”だとかいって、おいらを敵のように敵対視し、蔑み、虐める、阿呆な奴らのリーダー格。

 中学高校なんてたった三年の付き合いなのに、表面上も仲良くしようと出来ない阿呆な奴ら。気に入らないなら、ほっといてくれた方が互いに労力を使わず、無駄がなく、警察沙汰まで発展する可能性もなくせるのに。いつも通り、ネットに書き込むなら書きこめばいい。


 ただし、「死ね」とか「学校やめろ」とかそんなこと言うならば、法律の「脅迫罪」等にあたる可能性があると覚えておけばいい。

 殴ったり蹴ったり、刃物を持ちだしたりしたら「暴行罪」、筆箱やノートや教科書、個人的所持品を隠したり、盗んだり、自分のモノにしようとするなら「窃盗罪」「窃盗罪未遂」という立派な犯罪だ。


 「イジメ」というのは立派な犯罪予備軍だ。


 立派に訴えられる可能性を秘めている。ただ訴えられていないだけ。事件に発展してないから首の皮一枚で繋がっているだけ。


 本当に賢い人達は、気に入らないモノなんて「無視」するし「居ないモノ」として扱う。


 だから、「イジメ」などという、無駄に労力がかかる負の行動を実行しようとする奴らをおいらは、ただ、自分の行動を阻害する邪魔な存在で、阿呆だと思う。馬鹿だと思う。低能だ。


 この時、おいらを取り囲んでいた彼女たちも、美しくもない可愛くもない顔に、ケバケバシイ化粧をのたくり、下卑た嫌な笑いを浮かべて、受験勉強や就職活動で忙しい高校生のくせに、部活も先生のご機嫌取りも授業にも励まず、ただおいらをクラスを先導して虐めることに生きる楽しみを見出す、不可思議かつ理解不能な奴らだった。


 おいらも含めて、人間というモノは、どこか一個、本当に賢い人でも一個、おバカなところがあるから仕方がないとも思う。


 だが、おいらに構う暇があるならば、自分の人生をより良くするための運動をした方が、何倍も有意義なのにって、どうしても感じてしまう。(おいらなんて放っておいてくれたらいいのに。)


 人生は八十数年と長いのだ。それに対して高校の三年間は短い。


 おいらは高校を卒業したら、この三年間無駄な時間を嫌味なほどともに過ごしてきた彼女らと別れて、大学へ進学する予定だった。奨学生狙いで、日頃から喫茶店でバイトも行ってお金も貯めていた。おいらは真面目な学生だったのだ。おいらの周りには反面教師がいっぱい居た。彼女たちクラスメイトもその反面教師。


 だけどおいらは“良い子”でいることに疲れたよ。

 “虐められる”ことに疲れたよ。

 “耐える”ことに疲れて飽きたのだ。


 背中は柵格子。柵を越えれば五階建ての校舎から落ちて死しかない。

 前にはカッターナイフや野球の釘バット、指サックなどを所持した三人の女。

 屋上の入り口にある扉の向こうにも、男子か誰かが居そうな気配の影がある。


 ―――三年だ。彼女たちとは入学当初から三年間に渡り、争ってきた。


 人生は八十数年と長いのだ。しかしそれに対して高校は三年所属するだけでいい。

 たった三年、されど三年。

 無視し続けて三年。適当にあしらい続けて三年。

 いじめられ続けて三年。

 大好きなファンタジー本やゲームを壊され続けて三年、盗まれ続けて三年。

 お金も盗られ、体操服を無茶苦茶にされ、いわれなき誹謗中傷・暴力・犯罪・その他を受け続けて、耐えに耐えて三年。


 おいらが心の内側に、怨みを溜めこむには、十分過ぎる年月だった。


 おいらは来る日も来る日もよく耐えた。

 徹底抗戦を敷いた。

 避けるばかりではなく、彼女らがおいらの持ち物だと思っている学校の備品にまで手を出した時は、彼女らに反省文を書かせて机と椅子を買わせたこともあった。


 おいらはよく耐えた。よく頭を巡らせて戦った。


 日本の法律を頭の中に叩き込んで、完全に法に触れない範囲の攻撃と防御を心掛け、計算高く戦った。おいらの目標は大学入学卒業後、おいらの働いたお金でおいらを育ててくれた“おばあちゃん”に恩返しをすること。こんなところで躓いてなんていられない。高校通いは大好きなおばあちゃんたっての頼みだったから、騒ぎを起こさないよう、先月亡くなったおばあちゃんに心配をかけさせないよう、おばあちゃんが亡くなった後も約束を護ろうと頑張りたかったから、耐えに耐えて、耐えて、耐えて、耐え続けて………堪忍袋の緒がブチ切れた。


 おいらたちは虐められるモノと虐めるモノという関係でありながら、高校卒業を間近にして引き返せない所まで来ていたらしい。


 おいらには進んでも、退いても、その時、未来はなかった。死しかなかった。無念だった。


 彼女たちクラス一同が虐めっ子という名の犯罪者。

 最初は何気ないからかいの遊びだったかもしれない、だけど彼女たちはやり過ぎた。見て見ぬふりをした者たちも同罪だ。止める手段は幾つもあった。

 おいらの愚かさは、こいつら全員に報復という名の復讐心を持ってしまったこと。

 おいらはおいらの身をもって、こいつらおバカで阿呆なクラスメイトとやらの、ただ周辺地域から集められただけの群れに、地獄行きか牢屋暮らしという名の報復をしてやろうと考えてしまったこと。

 それがおいらの人生、一番愚かな部分。


 自宅に遺書も書いた。

 彼らないし彼女らが行ってきた所業の証拠を集め、日々日記もつけている。

 それになにより、先月、おいらをこの世に繋ぎ留めていたおばあちゃんが亡くなった。

 おいらは一人っ子。両親は蒸発していない。兄弟姉妹も存在しない。

 この世界に未練はもう、なくなっていた。

 しいて言えばゲームや本の続きが気になるくらいだが、諦めようと思えば諦められるぐらいには執着はない。


 おいらが、おいらの肉体と経歴を使って、復讐の最後のひとピースを詰めるのに、これ以上ないほどこの舞台設定は、絶好のチャンスだった。


 脳裏の中のおいらは、彼女たちに向かって牙を向く。今までの積もり積もった恨みつらみを込めて獰猛に笑い、そうしておいらは―――――。



 ◇◆◇◆◇



 ―――あれ? だとしたら、おいらは高校の屋上から飛び降り自殺したはずなのに、どうして、こんな、見聞きしたこともない田舎風景の、寂びれたプラットホームなんかに座っている夢なんて、見るんだ……?


 記憶を辿っても、自分が『飛び降り自殺をした』という事柄、『亡くなったおばあちゃんが好きだった』ということ、最期に感じた『無念』の感情と『復讐心』、そして『もう二度と良い子になんかなってやるもんか』という『反骨精神』くらいしか思い出せない。


 自分の名前すら、あやふやだ。住んでいたところの詳細が思い出せない。ゲームや本の内容といったわりかしどうでもいいことはすぐに思い出せるのに、自分の基本情報がわからない。


 頭に霞がかかっている。記憶を深く掘り起こそうとすると、どうもその霞はより厚く記憶を消すようにかかってしまうらしかった。

 ―――おいらは死んだ。ならばもう、深く考える必要もないじゃないか。全部、ありのままを大人しく受け入れればいい。

 その思いは不思議とおいらの心に、すとんと落ちた。

 おいらはなにも考えず、ただこの不思議な夢みたいな状況を楽しむことにした。

 

 潮騒の音がかなり近くから聞こえる。風の匂いが塩臭い。海のニオイだ。吹く風がおいらの短くも長くもないぼさぼさの黒髪を撫でて気持ちがいい。

 目を細め、髪を抑える。

 風が吹いた後に自分の格好を見ると、通っていた高校の制服から一瞬にして霞が晴れるように白い無地のワンピース風の服と草履に変わってしまった。まるでゲームの初心者専用装備みたい。アレだ。服の腰の部分が男女どちらが着てもいいように、大きなビーズのついた組み紐で調整できるようになっている。―――正直言ってこの格好、かなりダサい。足元がスースーするし、心許ない。確認してみると下着は消されていないようだが、それにしたってズボンくらいは欲しい。下駄と言うのも歩き難そうで……。


 駅のベンチに座ったまま、そわそわと自分の格好を確認していたら、隣に誰かふくよかな人が座ったようだった。


続きます。

ちまみに化野とは、京都あたりにある昔の死体の捨て場、だったらしいところらしいですよ? 噂ですが。

 二〇一五年、六月二十三日の今日か明日、続きがかけたら、三話投稿いたします。では。(ぺこり)


 追伸、上記の文、異論は認めます。かしこ。

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