狂骨の見る夢
我らが住まうは常世の国。
時折、六幻には、異世界から異界の住人が“堕ちて”くる。
彼らは“堕チビト”と呼ばれ、願いをひとつ叶える代わりに魂の修練と浄化の禊を言い渡されるのだが……? おや、今宵も誰か一人、堕ちてくるようだ。クスクスクスッ。始まりの鐘は鳴り響き、舞台の来訪者を皆が知るのも、そう遠くはない。
暗く、昏く、落ちて、墜ちて、堕ちていく。
井戸の底から最期に眺めた空は、陰謀漂う灰色で。
クスクスと忍び笑う同級生の歪んだ声がした。
最初は遊びだった。その次はからかい。お次は喧嘩。終には、とり返しのつかないこと―――。
躰が水面に浸かり、水飛沫が跳ねる。
おいらを学校の裏にある井戸の中に突き飛ばした連中は、ざまぁみろ、いい気味よ、と本当に清々とした醜い声音で言い捨て去っていく。
恨めしい。憾めしい。怨めしい。うらめしいっ!!
憎いっ!!
淀んで汚い水底に沈みながら、おいらはギリリと歯を噛み締めた。
固い岩盤に体を打ち付ける。井戸の底だ。底の尖った岩が、石が、砂利が、水草が、おいらの躰に絡みつき、おいらの躰を傷つけて、おいらの肉を引き裂き、おいらの骨を砕き、おいらの命を―――絶った。
墨汁のような闇に侵される。
水底から泡のように染み出した闇が、怨みを抱えて眠るおいらの躰を絡めとるのだ。
それはおいらの疲れ切った灰色の魂を、繭のように暖かく包み込む。骸骨と化した昏い眼窩から涙が出た。―――悲しかった。悔しかった。憎かった。怨めしかった。
おいらは長い間、井戸の中にある水底にいた気がする。
だが、それも今日までだ。今日この日、今月今夜この時刻、おいらの骨が形を保てなくなって跡形なく崩れ去った。
拠り所を失くした穢れた魂は、修行をしなければ浄化されず、すんなりと生前の世界における輪廻の環には戻れない。
静かな海に小さな船が板の上を滑るように走り出す。
黄泉路へ続くと思われる異空間のような闇の中。昏い海の上を、小舟の舳先に掲げられた鬼灯ランタンの仄かな明かりを頼りに船が渡る。
幻想的な光景。されどこれは死出の旅、穢れた堕チビトだけが通る迷い路。
浮舟は船頭もいないのに、疲れ果てた様相の灰色の穢れた魂を乗せて道なき道を押し進む。
船に乗せた魂のヌシが持つ“生前”の記憶を、一部消しながら。
―――その後、おいらは生まれ変わるまでの記憶を、一部を遺して全く覚えていない。
(おいらが狂骨という妖怪になって異世界で活躍し始める直前の話……)
そうして元中学生の“彼”は、六幻世界へお渡り給われる。さあ、おいき? 物語の始まりだ。狂骨という妖怪になった元中学生の御話。
―――なにを書いたらいいのかわからないから、とりあえず適当に書いて投稿してみることにしました。敬具。
【備考】
・改稿/2015年五月七日/高校生→中学生に年齢肩書きを変更いたしました。