最終回
続きがあるように感じる人もいるでしょうが、これで終わりです。
彼女は目を大きく開き、苦しみぬいた末に、大した抵抗もなくこと切れてしまったのだ。
念のため先生の脈を測った僕は、彼女の目を閉じると日本刀をとった。
そして着物の袖で血を拭うと、先生の長い髪をきった。
遺品が欲しかったのだった。
欺瞞に満ちている気はしたし、命を奪っておいて体の一部を奪う権利があるのかは疑わしかったが、僕は先生が確かに存在したという証拠が欲しかったのだ。
だから僕は、先生の黒く長い髪を糸で束ねると、懐に締まった。
そして鞘を僕の腰に掛けると、日本刀を指し、天を仰いだ。
何時の間にか夜になった空には、美しい満月が掛かっている。
視線を下ろして村の様子を窺うと、火が燃えて煙が上がり、無数の化け物がひしめいていた。
一体や二体ではない。
それこそ数えきれない化け物たちが、村を真黒に染めていたのだ。
僕はその様をじっと見つめた。
あれに勝てるのか、逃げ切れるのか。
小島にたどり着くことができるのか、外の世界にでられるのか。
どう考えても絶望的だったが、次の満月まで生き延びられるとは思えない。
ならば今、かすかな未来を信じて動かねばならないのだった。
だから僕は、山の傾斜をゆっくりと下り始めた。




