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虚構

 僕の左手には、細い木が五本ほど入っている。

 僕はそれに糸をかけて、右手を使ってさも自分の腕が再生したかの風を装っていたのだった。

 すべては、この時を想定してのことだった。

 先生と戦う時のために、彼女の不意を突くためだけに、腕を再生するというカワカミの申し出を拒んだのだった。

 包帯のなかにはぎっしりと蚕の糸が詰まっていた。

 僕はその糸を使って先生の両手、両足を封じた。

 身動きが取れなくなった先生を、僕はじっと見下ろしたのだった。

「これで、終わりです。青は血が出ないように、先生の首を締めるだけです」

「てっきり、心中してくれると思っていたのだけど」

「そのつもりでした。でも、テツコが精いっぱいの告白をしてきたんです。持てる限りの勇気を使って、思いを告白してきたんです。それを聞いたら、彼女の元に帰る以外の法がなくなりました」

「そう。やはり村の外にでていくのね。負けるとわかっていて、死ぬまで戦うことを決めたのね」

「はい。でも、もう怖くはありません。本当にかすかでも、戦えば報酬をくれる人がいるんです」

 僕がそう告げると、先生は泣き始めた。

 僕には彼女の涙の龍がわからなかった。

 先生の兄に、僕にとってのテツコがいなかったことを悔やんでいるのか。

 僕が先生ではなく、テツコの元に向かうことを選んだことが悲しいのか。

 或いは僕の隙を突き、大量出血をしようと図っているのか。

 それらの内の複数なのか、どれでもないのか、僕には想像がつかなかったのだ。

「時間が勿体ないわ。片をつけるのであれば、早くして」

「わかりました」

 僕はそういうと、先生の首元に手をかけた。

 命を奪うのであれば口や鼻を塞ぐ方法があったし、絞殺をするのであれば糸を使う方法もある。

 だが僕には、この方法こそが正しいように思われたのだった。

 温かい、心臓の鼓動を感じる首元を絞めて命を奪うことが。

 先生はそのことを理解したのか、安らかな表情を浮かべていたが、苦しいこちに違いはないらしく、糸で丸められた体を動かし、必死に抵抗しようとしていた。

 それは無意味だった。

次で最後です。

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