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 それで話は終わりらしく、先生は口をつぐんだ。

 その口元に浮かんでいた笑みは、天を呪うかのように歪だった。

 また、彼女の黒い目は寂しげであったが、奥底には強い意志が宿っていた。

 僕はその顔を見て、この間は自分を試すために与えられたものだと気づいた。そして同時に、先生が答えをしっていることも。

「これが、世のために戦う人の末路よ。あなたは、それでも戦えるのかしら」

「はい」

「なぜ」

「僕が、そういう人間だからです。僕は死ぬまで、誰かのために戦うしかできない人間なんです」

「そう。――なら、ここで殺すしかないわね」

 先生は右手で日本刀を持つと、左の掌を斬り、血を流した。

 刀の刀身から赤い血がゆっくりと流れ、遂には切っ先から地面に落ちていく。

 血は土に触れると、湯気と共にじゅっという音をたてた。

 彼女は両手で日本刀を握り直したが、左手のふれた柄が溶けることはなかった。

「私の血は、溶かす物を選べるのよ。この刀は溶かさずに、あなただけを二つにすることもできるわ」

「僕が逃げたら、どうします」

「簡単なことよ。この刀で私の体を斬る。そして全身の血を流して福島第一原発を覆う物を破壊し、放射能を充満させるわ。恐らく外の世界にも届くでしょうね。そして、地獄が生れると思うわ」

「戦うしかないのですか」

「ええ」

 先生はそういうと、日本刀を構えて静かに歩きだした。

 三年という長きに渡って牢に入っていたというのに、刀を持つ手に震えはなく、動作に隙はなかった。

 恐らく、この場で戦うことを早いうちから想定していたのだろう。

 そう考えた僕は、懐から蚕の糸をとりだし、左手で掴んだ。

 そして円を描いてふり、勢いをつけてから、歩み寄る先生に向けて放った。

 だが、その糸は刀にふられ、先生までは届かなかった。

「終わりかしら」

「いえ」

 僕はそういうと、懐から更に糸をとりだし、同じことを繰り返した。

 しかし、次に狙ったのは刀身ではなく、刀を握る柄だ。

 僕の目論見は成功したが、糸をぴんと張った瞬間、先生が持つ刀を振り下ろし、やはり切れてしまう。

 その内に、先生は僕の間近まで迫り、終には刀を首元に掛けた。

「もう、手はないでしょう」

「まだ糸は残っています」

「だとしても、この場で私を止めるのは無理よ。少しでも形成がふりになれば、私は自死をするわ」

「糸の量にもよるでしょう」

 僕がそういうと、先生はかすかに怪訝な表情を浮かべた。

 その際、僕は包帯のしてあった左手を先生の刀にぶつけた。

 刀の血に触れ、包帯が溶けていく。

 そのなかから現れた無数の蚕の糸を束ねながら、僕は右足で先生の体を蹴り飛ばした。

 いかに訓練を積んでいようが、女性の体だ。

 先生の体重は軽く、体は思った以上にとんだ。

 彼女はそれを踏み止めようと左足に重心を預けたが、その場所にはすでに、僕の糸が待ち受けていた。

 後は簡単だった。

 糸をひくと、先生は思いきり倒れこんだのだった。

 僕は急いでその場に駆け寄ると、先生の手を掴み、日本刀を奪い去った。

「驚いたわね。その腕、使えなかったの」

「はい」

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