正体
僕は彼女の言葉の意味を、じっと考えた。
その単語は、以前にも聞いたことがあった。幻覚を見ている最中に、大人がそう叫んだのだ。
だが、僕の知識にない言葉であることに変わりはなかった。
「なんですか、それは」
「古き者たちがつくり、放置した場所よ。私たちの祖先である古き者たちは、かつて高度な文明を築いた。奴隷の代わりに資源が働いたため、苦労の少ない世界だったというわ」
「資源?」
「ええ。石炭のような物だと考えればいいわ。石油や天然ガスといわれる物の総称よ。そしてその内の一つに、福島第一原発で使われていたウランやプルトニウムがあった。けれどその二つの資源は、危険で極まりのない物だったのよ」
「なぜですか」
「一たびでも暴走すれば、決して元の世界に戻れないから。建物が壊れると放射能と呼ばれる、毒ガスのようなものが噴きでるのよ。それも子子孫孫に至るまで、決して消えない程に強いものが。それが風に乗るだけで、町どころか帝都が消滅するわ」
僕の後ろからは、強い風が吹いていた。
その風は僕の肌を撫で、着物の裾を揺らしている。
風上である海に背を向けているにも関わらず、鼻に潮の香りがつくことを意識して初めて、僕は恐怖を覚えた。
「しかし、古き者たちは高度な文明と高い技術を持っていたと聞きます。彼らに修復できない物など、あるのですか」
「恐らくは、なかったのでしょう。けれど、古き者たちは放射能の解決策を見つける前に、力を失ってしまった」
「なぜ」
「資源がなくなったのよ。石油と、天然ガスと。その結果、暴走した福島第一原発は放置されたの。そして神術を使って、周りを封じているのよ。ついには誰もが忘れたのよ。現実を叫ぶ者を無視どころか、白眼視してね」
そんな馬鹿な。
僕はそういおうとして、傍と気づいた。
僕たちが戦っている間、村の人々は決して報酬をくれなかった。自分たちの世界に閉じこもり、戦いを日常の風景としか認識していなかった。
遥か昔にも、同じことが起こったのかもしれない。
「では――あの化け物は?」
「神術でつくられた放射能除去装置よ。福島第一原発が露出した時のために、眠っていたの。そして老朽化と、巨大な地震で福島第一原発の囲みが壊れて、彼らが目覚めたのよ」
「霧から出られなかったのは、放射能を村の外に出さないためですか」
「その通り。――酷い事にね、古き者たちは後の世代にすべてを任せたの。そして、私たちにお鉢が回ってきたの。その間、私たちのために戦ってきた人に報酬はなく、見返りもなかったそうよ」




