弟子
「俺をどうするつもりだ。殺すのか。それとも、村の連中に突きだすのか?」
「どうもしないよ。――けど、一つだけ頼みがある」
「いっておくが、信号を使うのはもう不可能だ。昨日の夜、小島までいって受信装置を破壊した。古き者たちの技術はすでに失われている。修復はできない」
「なら、違うことを頼む」
「死ねというなら、そのつもりだよ。もう、疲れたんだ。なにもかも、消してしまいたいんだ」
その悲痛な声に、嘘偽りがないことは明らかだった。
彼の言葉の一つ一つからは強い自己嫌悪が感じられたし、その足は化け物たちに向おうとしている。
恐らく、僕に罪を告白すると自ら命を絶つつもりだったのだろう。
だが、それは僕の望んだことではなかった。
「死ぬなら、後にしてくれ。今は一人でも多くの助けが必要なんだ。それに、お前の神術は代わりがきかない」
「けど。お前は死地の下になにがあるか知らないだろ。あの化け物どもがなんなのか、知らないだろ。あれを知ったら、生きていることが馬鹿らしくなるに決まってる」
「騒ぐな。先生になんていわれたか、大体はわかる。――死地の下になにがあるかはしらない。けど、お前の気持ちは痛いほどにわかる。それに、お前に頼みたいことがある」
「頼み?」
あることを口にすると、カワカミは泣いていた顔をあげ、僕をまじまじと見つめた。
やがて、僕が本心からいったことに気づいたらしく頷いたが、勉強会の二人は困惑していた。
放って置くと誰も歩かなそうだったので、僕は三人を連れて座敷に向った。テツコを迎えにいかなければいけない、そう思ったのだった。
庭に入るとスズキと護衛の姿はなく、屋敷に向って血だらけの足跡が続いていた。
血の痕に混じって第三者らしき足跡も残っていたから、恐らくは屋敷の誰かに遺体を回収されているのだろう。
だが、人手が余っており、僕たちを探す者がいないとも限らない。
そのため僕たちは警戒しながらテツコの華奢な足跡を追った。
奇妙なことにその足跡は、ヒサコの監禁されている母屋ではなく、離れに向っている。
嫌な予感を覚えて足を急ぐと、足跡はやはり離れの前でふつと途絶えた。
縁側に足をかけたことは疑いようもない。
そう思ってなかを覗きこむと、テツコの姿を発見した。
彼女は脇差に体を貫通され白い壁に貼りつけにされており、血を地面にぽたぽたと垂らしていた。
また、足袋を履いた両足は畳から浮いている。
不幸中の幸いというのか、脇差が刺さっているのは心臓のある左胸ではなく、肺のある右胸だった。




