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 僕はテツコの目をじっとみつめた。

 彼女が嘘をついていないことは、その震える唇や揺れる瞳、上下する肩から明らかだった。

 また、村の入り口の方からは風に乗って悲鳴がきこえ、煙が燃え上がる様もみえたが、僕は現実を受けいれられないでいた。

 二十四匹。その意味を理解することを、頭が拒否していたのだ。

 僕は糸懐から糸をとりだして塀の瓦にかけるとよじ登り、村を眺めた。

 最初に気づいたのは、村が燃えていることだった。

 木製の民家の内の二、三から煙が立ちこめていたのだ。それらの家々は一様に破壊されていたが、その原因はすぐ目についた。

 無数の化け物がうごめき、触手を使って人を食っているのだった。

 遠目な上に障害物が幾つかあるためすべてを数えることは困難だが、どう数えても十匹はいる。

 化け物たちはまだ村の入り口の方に集中していたが、新たな食糧を求めてじきこちらに向ってくるだろう。

 今ですら、潮風に乗って血の臭いが鼻をついていた。

「テツコ。あいつらは前の奴に比べて小さいとか、動きがのろいとかって欠点はないのか」

「ありません。みたところ、今まで相手をしていたのと全く同じです」

「ブンジはどうした」

「計画を先送りして、生き残っている者を死地との中腹に集めています。私は師匠やヒサコちゃんを助けるために来ました」

「お前は?」

 僕がそういうと、眼下のカワカミは伏せっていた目を恐る恐るという風に上げると、肩から担いでいた風呂敷をとりだし、広げた。

 そこに置かれていたのは、僕の左腕だった。傷口は完全に塞がっており縫った後すらなく、肌は健康そうに白い。

「これを、返しに来た。お前の物だろう」

「ああ」

「流石に時間はかかるが、縫合ができなくはない。お前がしたいっていうなら、するぞ」

 そのぶっきら棒な言葉をききながら、僕は考えた。

 悲鳴は近寄り、煙は距離を縮めている。

 縫合している時間があれば、化け物たちに近寄って人の一人くらいは助けられないだろうか。

 しかし片腕があれば、泣いている子供の一人くらいは抱えて走れるかもしれない。

 そう思っていると、テツコが村長の屋敷に向って歩きだした。

「縫うのに時間がかかるようなので、ヒサコちゃんを助けてきます」

「待て」

 そう声をかけたが、彼女は止まらなかった。

 刀の音を鳴らしながら、駆け足で屋敷に入っていたのだった。

 スズキやその護衛のことをしらせ、屋敷のなかは臨戦態勢になっているだろうと告げたかったが、もう無理だろう。

「どうする。腕を治すか。時間の問題があるから、早くしろ」

 僕はカワカミの声に、しばらく考えこんだ。

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