真実
のこされたものたちよ おきにむかえ つきがみちたよるにでぐちはある
残された者たちよ 沖に向え 月が満ちた夜に出口はある
僕はその文字列をじっとみつめた。
文章に誤りがないか、考えすぎた結果として無理に意味のある文をつくってしまったのではいないか、そんな考えが胸のなかに湧いた。
だが、僕の胸に湧く昂揚感は決して消えなかった。
この狭い村から、地獄のような場所から抜けられるという思いは、決してなくならなかった。
そのため口元に笑みを浮かべていた僕は、頭上からこんこんという音がきこえるのに気づいた。
紙片を急いで和服の裾にしまった僕は、すぐに上にいるのがテツコだと気づいた。
「師匠、今日の夕食を持ってきました。人はいませんね?」
「ああ。今日もありがとう、テツコ」
僕がそういうと、天井を蹴る音がきこえ、眼前の格子の向こうに、赤い和服を着たテツコの姿がみえた。
彼女は焼きとうもろこしと、とうもろこしのだし汁、そして野菜炒めという質素な食事のおかれた盆を差しだすと、飛び上がって座敷牢の上まで着地した。
僕は食事を食べながら、頭上のテツコに話しかけた。
「テツコ、小島からみえる光について調べてくれてありがとう」
「いえ。しかし、あんなことでよかったんですか?」
「ああ。ところで、満月まではどれくらいだ?」
「明日がそうです。今日は小望月なので」
「そうか。――テツコ、親にあいたいか」
「なんですか、急に」
「いや、少し気になって」
テツコの返事は、すぐには返ってこなかった。
彼女のことだから、感情的な言葉がくるだろうと身構えていた僕は、計算が違ったことに眉をひそめた。
だが耳を澄ますと、かすかに泣くような声がきこえる。
恐らく、昔を思いだしていたのだろう。




