単語
「大ぃ変だぁ。――がぁ現れるぅぞ! ――がぁ、地震で壊れぇたんだぁ」
彼の言葉はまだ理解ができたが、二つばかり意味不明な単語が混ざっていた。
一つ目の単語は、なんのことかまるで分らなかった。
二つ目は三つの単語からなっており、この場所の地名とききなれた数字があり、僕の知識にない言葉で締めくくられていた。
僕はその意味を尋ねた。声をかけ、彼の着物の裾を握ったのだ。
だが彼はこちらには視線さえくれず、乱暴に裾をふり払うと、そのまま走りさっていった。
すると林をいく彼の後ろ姿が、どんどん薄れていった。
遠ざかっただけではない。白い霧がかかり、彼の輪郭が失われていったのだ。
僕はその様をじっと見つめ、次に丘の上から、村の全体をみまわした。
村を覆うように、霧がかかっている。奇妙なことに霧は村にはかかっていない。浜辺に向かう道と、死地に向かう道も同様だった。また、みえる限りでは大人の姿はどこにもなかった。
眉をひそめていると、刀のなる音がきこえた。みれば、側で倒れていたテツコが身を起こしている。
まだ九歳の彼女は、頭を痛そうに抑えていた。
「目が覚めたか」
「はい。あの、なにがあったんですか」
「地震があって、大人たちが消えた」
「消えた? なぜですか」
「わからない。変なことはいくつもある。村は霧で囲まれているが、入ると同じ場所にでてしまうんだ」
「そんな、馬鹿な」
「残念だが事実だ。――とりあえず人のいるところにいこう。いいな?」
「はい、先生」
僕はテツコを連れて村を歩き、声のする方に向かった。
すると村長の家の前に子どもたちばかりが集まっており、ブンジやカワカミに混ざってチョウゾウの姿があった。
どうやら彼は村長の息子だけあって、この場を取り仕切っているらしい。
彼は僕をみると声をかけてきて、わかる範囲ではここにいるのが残った全員だと告げた。




