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再会

 また、僕はテツコから差しいれられる本を読んで時間を過ごした。

 最初は僕の家にある古い本を持ってきて貰っていたが、次第に新しい知識を手に入れたいと思うようになり、彼女の家にある本を持ってくるように頼んだ。

 それらを読み切った後は、政治の本や軍事の本、あるいはマルクスといった、これまで手にとらなかった物が多くなった。

 それらの本には僕の物でもテツコの物でもない字による書きこみがあったり、やはり二人のどちらの物でもない短い栗毛が挟まっていた。

 テツコは否定したが、恐らくは他の家から拝借したものだろう。一日、二日という頻度で返してほしいと頼まれたからには、借りたのではなく盗んだのに違いない。

 僕は止めるように頼んだが彼女は頑として罪を認めなかった。

 彼女は泣きそうな声で、必至に盗んだことを否定するのだった。その声には僕の孤独を埋めたい、楽しませたいという面が感じられたため、僕は次第に観念してしまった。

 ただ、満足に食事をとっていないためか、この頃は言葉が頭にはいり辛かった。

 文章を読んでも意味を理解できず、二度、三度と繰り返してようやく内容を飲みこめるのだった。

 それどころか、酷い時には睡魔に襲われてしまう。

 僕は今日も、田山花袋の読んでいて不快感を覚える私小説を読んでいる最中、ふっと瞼を閉じてしまった。

「眠たそうね」

 僕は顔をあげた。

 薄暗い部屋の角には赤い着物を着た先生が、静かに正座をしていた。

 最後にあった時と同じく彼女の黒い髪は長く、首筋には蜘蛛の糸が巻かれている。

 彼女は目をつむっているため例によって表情がわからず、僕は警戒をしながら周囲をみた。

 驚いたことに、座敷牢のいり口の柵は閉じられたままだ。みたところ南京錠が壊れたり、外れたりしているようにはみえない。

 僕は素早く、小屋中に視線を投げかけた。

 みたところ、壁の一部や天井に穴はみえない。

 先生はなにもないところから、煙のように現れたのだった。

「先生。どうやって、なぜ」

「私はどこにでもいるの。他者の意識に介在することなど、赤子の手を捻るようなものよ」

「意味がわかりません」

「そう」

 先生は赤い唇を閉じると、それで言葉をきった。

 どうやら話をこれで終わらせるつもりらしい。そう感づいた僕は質問をもう一つ、二つ投げたものの、先生はまともに返事をしてくれなかった。

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