獄中
牢での生活はひもじかった。
食事はスズキの機嫌で決まる。普通はとうもろこし一つだけで、皿すらでないことが日常茶飯事だったのだ。
お蔭で体重はゆっくりと減っていき、空腹に堪えかねた僕はテツコに頼んで食事を運んでもらった。
蚕の糸は隠し持っていたが、神術を封じられているのだから使用がない。お蔭でスズキが牢の目の前で豪勢な食事をとっても、僕はなにもできなかった。
また、温めるものがないためか部屋は寒く、夜になると歯がかちかちと鳴るのだった。
ヒサコがいた時は厚めの布団があったらしいが、今は死なない程度に薄い布きれが数枚、残るだけだった。
テツコは家からとってくると申しでたが、布団を持ちこむと食べ物と違ってすぐに気づかれるため、僕は断った。
その代りに僕はとうもろこしの酒を頼み、薄い布団のなかで寒さに耐えたのだった。
「お前、大丈夫か。ちゃんと食べてるのか」
僕が座敷牢にいれられて少ししてから、監視と一緒に現れたブンジは心配そうな声をだした。
テツコがいった通り、ブンジの怪我は治っていたし、一見したところ後遺症が残っているということもなかった。
そのため僕は安心していたのだが、彼の方は違うらしかった。
「ほとんど骨と皮だけじゃないか」
「安心しろ。ヒゲを剃ることができないんで老いてみえるだけだ」
「けど」
「本当に大丈夫なんだ」
僕がそういってもブンジは納得できないらしく、スズキに掛けあって待遇をよくしてもらう、と告げた。
僕は拒絶した。
スズキが僕を解放するとは思えなかったし、それどころか布きれの一枚でも与えてくれるとは思えなかったためだ。
ブンジもそのことを理解していたようだが、それでもスズキに詰めかけるといって譲らなかった。
僕の日々はそのように、来客と話をすることで過ぎていった。
僕と親しかった者は一日に一度、必ず座敷牢に来てくれたが、カワカミだけは違った。
彼は僕を裏切った自分が許せないためか、僕と顔をあわせる勇気がないためか、この牢には現れなかったのだった。




