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『私は光をみて絶望をした。あなたは救いを求めるに違いない。希望をその手につかみたいのであれば光に気づきなさい』

 先生の言葉は例によって意味不明だった。

 光とはなんだろうか。キリスト教では最初に神が光あれ、と呟いたらしいが、僕は聖書についての知識など持っていない。日本書記と古事記なら家にあるが、手元にはない。

 いや、そもそも先生はどうやってこの紙をここに持ってきたのだ。ずっと座敷牢に籠っているというのに。

 少し前に似たような紙をみつけたが、あれはぼくに宛てていたのか。確か内容は――。

 そう考えていたぼくは、思考を中断した。

 なにかが落ちる、重く大きな音が天井からきこえたのだ。

 僕は身構えた。

 僕を苦しめるためスズキがなにかをしたのではないか、岩でも投げつけて僕を亡き者にしようとしたのではないか、そう考えたのだ。

「師匠。大丈夫ですか」

 僕はテツコの声をきいて胸をなで下ろしながら、紙を和服の裾に隠した。

 そして置かれていた船の上に腰を掛けると、かすかに刀がなる音が耳にはいってきた。

 流石に顔はみえなかったが、僕には心配そうな表情をしたテツコが想像できた。

「安心しろ。まだ生きてる」

「では逃げましょう。私は解放されたときに神術を解かれました。今なら刀を使うことができます」

「無理だ。狭い村のなかで逃げ場がない。今は時期をみろ」

「ですが」

「くどい。大体、僕の神術を封じられたままだ。糸を使えばすぐに死ぬ。このままじゃ時間すら稼げない」

 僕の首元には、束ねられて厚みを持った蜘蛛の糸が巻かれていた。

 糸は幾重にも重ねた上に印を施してあり、蚕の糸ではないので僕では解除できない。

 仮に僕の神術で操れたとしても、蜘蛛の糸は神術を使った瞬間に閉るようになっている。

 テツコもそのことに気づいたらしく、上から悔しそうな声がきこえた。

「お前の方はどうだ。なにか、変なことはされなかったか」

「大丈夫です。ただ、ヒサコちゃんは座敷の奥にいれられてしまいました。そのため顔をみることすらできませんが、どうやら以前と同じような生活を送っているようです」

「ブンジは?」

「顔を晴らしていましたが、カワカミ先生の治療で元に戻りました。ただ、今は監視されていて簡単には接触できません。私も尾行をふりきるのに苦労しました」

「カワカミはどうだ」

「アカの本の勉強会をして、以前のように反権力的なことをいっています。流石に元気はないようですが」

「そうか」

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